陸軍の戦闘機嚮導装置(電波誘導機)のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について

電波誘導機(数機用)については、戦史叢書 陸軍航空兵器の開発・生産・補給から抜粋紹介する。
前述の電波誘導機は単機の誘導に限られたため、多数機の誘導のできるものが望まれ、多摩研は昭和19年から開発に着手した。
この構想は、(1)友軍機が常時発信する電波を地上数カ所の方向探知所が受信して方位を測定し、この測定諸元を超短波連絡装置を通じて中央指揮所に送る、(2)中央指揮所はこれら諸元を総合して友軍機の位置を決定するとともに、電波警戒機で測定された敵機諸元から友軍機の誘導諸元を算出する、というものであった。
本機は機上装置(タキ-30)、地上装置(タチ-28)から成り、昭和20年に試作が完成した。機上装置は三菱電機株式会社、地上装置は三菱電機株式会社(※参画していない)、富士通信機株式会社及び国際電気通信株式会社がそれぞれ担任し、また地上装置の据付工事は国際電気通信株式会社が行った。
本機は理論的には友軍機30機を同時に、また300粁の距離まで測定できるものであったが、実際に誘導できる友軍機は、設備及び運用要領の関係から5機(編隊)であった。
試作の完成した本機を運営するため、陸軍中央部は7月10日、第一電波誘導隊を新編し、第十飛行師団の編合に編入した。同師団長の命じた同隊の展開配置は「挿図第四」のとおりであったが、これら諸施設の完成をみることなく終戦になった。
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なお、陸戦兵器総覧 日本兵器工業会編では、本格的な戦闘指揮所の建設が計画され実行された。味方機の位置決定のためには、筑波、伊豆、箱根に観測所を持つ方向探知方式がとられ、その刻々の諸元は千葉県松戸の中央指揮所に集められ、自動的に位置を決定して標示盤(※タチ-15では指揮盤)に表そうというのである。同時に測定できる目標数は15(※30が正しい数値)であった。
これと警戒情報とを同時に標示して戦闘機を誘導するよう計画した。ところが、これは着手半ばにして完成をまたずに終戦になった。
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「23.昭和20年10月29日 日本陸軍省 内地陸軍航空部隊復員状況一覧表」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C15011156000、「昭和20年9月以降 連合軍提出書類「復員に関する綴」 (其の1) 軍事課調査班」(防衛省防衛研究所)
終戦に伴い第一電波誘導隊は、昭和20年9月1日付けにて572名全員の復員を完了した。
合成写真636

米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、Locate-Leader Outline Diagramとある。
無理やり訳せば「位置誘導装置」となるが、日本側での制式呼称は、戦闘機嚮導装置である。
なお、製造会社は地上装置が富士通信機株式会社及び国際電気通信株式会社、機上装置が三菱電機株式会社である。
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なお、この概念図だけでは全体構成を説明するのが困難であることから、方向探知所を3箇所と中央指揮所1式のイメージを提示する。実際はこのほか中継所のシステムがあるが資料がないので省略する。
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まず、2ヵ所以上の方向探知所で友軍機の信号を自動受信し、その受信信号情報とアンテナの回転位置情報(Rough PartとFine Part)及び無線電話1回線(片方向のみ)を同時に中央指揮所(中継所経由の場合もある)へ無線で自動送信する。
現代風に言えば、完全なテレメーターオンラインシステムと言っても過言ではないだろう。
中央指揮所では各方向探知所からの情報を各方向探知所単位に設置したFilter NetworkによるFDM(周波数分割多重化: Frequency Division Multiplexing)装置により各信号を分離・配信するとともに、Filter Network内で友軍機の固有信号から機体を識別し、1号機から30号機の機体番号をランプ表示する。
更に、FDM装置から切換装置(Switch Board)を経由して各指示器に表示する。
なお、切換装置(Switch Board)は各方向探知所からの無線情報を任意に切り替えることができ、2ヵ所の方向探知所からの受信データを同時運用する。
中央指揮所の指示器の表示には、方向探知所のアンテナの回転位置情報をもとに受信信号を疑似PPI表示、方向探知所のアンテナの回転状況を12分割してランプ点灯による回転位置表示、方向探知所からの電話1回線のスピーカー機能(片方通話機能のみ)の3つの指示器から構成されている。
更にもう一カ所からの方向探知所からの情報を中央指揮所の別の指示器に表示させ、2点の方向探知所からの方位情報を直交させれば、平面図上で友軍機の位置が特定できる。
ただし、Filter Network内の機体識別が同一であることが前提となるが、方向探知所のアンテナが回転することによりFilter Network内のランプ表示は刻々と変化することになる。
最後に中央指揮所の標示盤に友軍機と敵機の位置情報をランプ表示して戦闘指揮に当たることになる。
課題としては、方向探知所に対してアンテナの向きに直線上に友軍機が複数機存在すると受信電波が混信して機体識別が困難となる可能性があり30機による同時運用は相当困難であることが覗える。
なお、本システムでは友軍機の高度や距離に関する情報は取得できない。
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参考情報 海軍の戦闘指揮所の表示装置事例
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方向探知所の機能について
米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、Locate-Leader(Tachi-28) Direction-Finding Officeとある。
日本側での制式呼称は、方向探知所である。
なお、製造会社は富士通信機株式会社及び国際電気通信株式会社である。
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方向探知所全体の処理概要
前提条件としは、友軍機の機上設備であるタキ-30は、190 Mc/s(Mhz)で周波数が30から60 kc(Khz)の割り当てられた周波数で変調された連続信号を発信する送信機を搭載している。
戦闘機識別信号としは、1Khz単位の30Khz、31KHZ、・・・・59Khz、60Khzの30個の固有周波数信号から何れか1つの識別信号を設定している。
ここで、方向探知所A、B、Cでは、アンテナを2回転/分で回転しながら、左右のアンテナを50サイクルの周期で交互にスイッチングしながら、友軍機が発信している識別信号を受信する。
さらに、方向探知所から送信する広帯域信号の周波数配分は、中央指揮所へ無線電話1回線(300Hzから5Khz程度)、Rough Partとして12等分時の回転位置情報(17~28 Khzの信号で表す)、Fine Partとして11Khzの正弦関数(Sin Functional out-part)信号、15Khzの余弦関数(Cos Functional out-part)信号及び13Khzの加工なしの基準信号による精密な回転位置情報、最後に190 Mc/sで周波数が30から60 kcの割り当てられた周波数で変調された音声信号を検波したものである。
これらを全て統合するためにFDM化した広帯域信号として中央指揮所(中継所経由の場合もある)へ50Mhzから65Mhzの範囲で指定された設定された周波数で送信する。
通信方式としては、周波数分割多重化(英: Frequency Division Multiplexing、略称FDM)方式である。  

(1)アンテナ系から受信機までの機能詳細について
3相200Vの交流モーターを使用して、アンテナを毎分2回転(2rpm)させている。
本機は等感度方式を採用するため、更に、アンテナは左右2つのビームアンテナから構成されており、切換装置(Switching Box)により、単相100Vの交流モーターにより50回/秒(50Hz)で左右のアンテナを切替えている。
受信機はダブルスーパーヘテロデイン方式(第一IF:18Mhz、第二IF:10Mhz)、検波、低周波増幅はUY-807Aを使用して受信信号を取出し、更に「Slip Ring」なる機構を通しアンテナで使用した切換装置(Switching Box)と同期して左右の受信信号が交互に取り出せるような仕組みを考案している。(※位相環と仕組みは同レベル)
更に、ブロックダイヤグラムには記載はないが、左右の一方には変換トランスを通過させて180度の位相反転をおこなっている。したがって、左右の受信信号の相違は180度位相が異なっている点である。
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(2)方向探知所のアンテナの回転位置簡易情報(Rough Part)の機能詳細について
3相200Vの交流モーターを使用して、アンテナを毎分2回転(2rpm)させている。
Rough Partとして360度を12等分の角度に分割して回転位置情報として、17~28 Khzの周波数の信号として生成する。
例えば、0時が17Khz、1時が18Khz、・・・・10時が27Khz、11時が28Khzの周波数配分を行っていると仮定する。
この情報を遠隔地の中央指揮所へ伝送し、その使用周波数を解析すれば、方向探知所のアンテナの回転方向を大まかに把握することができる。
このため、回転するアンテナの支柱に螺旋状かつ等間隔に、回路スイッチの起動となる12本のピンを用意して、アンテナの支柱が回転しピンに接触したタイミングで、該当周波数の発振回路が起動することになる。
発振回路は固定コイルと該当発振周波数定数となるコンデンサーの組合せを12個用意している。
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(3)方向探知所のアンテナの回転位置詳細情報(Fine Part)の機能詳細について
Fine Partとして11Khzの正弦関数(Sin Functional out-part)信号、15Khzの余弦関数(Cos Functional out-part)信号及び13Khzの加工なしの基準信号を生成する。 
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また、3相200Vの交流モーターを使用して、アンテナを毎分2回転(2rpm)させているが、更に精度向上のため変速ギヤーを介して、24回転/分の単位で精密な回転位置情報を生成している。
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なお、回転角度をθとすれば、sinθ、cosθの関数回路を用意することになるが、このθに該当する角度変化についてはブロックダイヤグラムではアンテナ支柱に可変コンデンサーが明記されているので、支柱の回転に同期して可変コンデンサーがθ分変化する何らかの関数回路が用意されたことを意味するが、実際使用された回路に関する情報はない。
基本的には、回転角度をθに比例した位相調整器といった方が正確な表現である。
使用真空管
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中央指揮所の機能について
米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、Locate-Leader(Tachi-28) Measuring Parts (Central-Leading Office)とある。
日本側での制式呼称は、中央指揮所である。
なお、製造会社は富士通信機株式会社及び国際電気通信株式会社である。
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中央指揮所全体の処理概要
中央指揮所では各方向探知所からの情報を各方向探知所単位に設置したFilter NetworkによるFDM装置により各種信号を分離・配信するとともに、Filter Network内で友軍機の固有信号から機体識別し、1号機から30号機の機体番号をランプ表示する。
更に、FDM装置から切換装置(Switch Board)を経由して各指示器に表示する。
なお、切換装置(Switch Board)は各方向探知所からの無線情報を任意に切り替えることができ、2ヵ所の方向探知所からの受信データを同時運用する。
中央指揮所の指示器の表示には、方向探知所のアンテナの回転位置情報をもとに受信信号を疑似PPI表示、方向探知所のアンテナの回転状況を12分割してランプ点灯による回転位置表示、方向探知所からの電話1回線のスピーカー機能(片方通話機能のみ)の3つの指示器から構成されている。
更にもう一カ所からの方向探知所からの情報を中央指揮所の別の指示器に表示させ、2点の方向探知所からの方位情報を直交させれば、友軍機の位置が特定できる。
ただし、Filter Network内の機体識別が同一であることが前提となるが、方向探知所のアンテナが回転することによりFilter Network内のランプ表示は刻々と変化することになる。
最後に中央指揮所の標示盤に友軍機と敵機の位置情報をランプ表示して戦闘指揮に当たることになる。

(1)方向探知所のアンテナの回転位置簡易情報(Rough Part)の機能詳細について
Rough Partとして360度を12等分の角度に分割して回転位置情報として、17~28 Khzの周波数の信号として生成する。
例えば、0時が17Khz、1時が18Khz、・・・・10時が27Khz、11時が28Khzの周波数配分を行っていると仮定する。
なお、表示用のネオン管の配置は、時計の0時から11時と同様に円周に配置し、点灯と方向が一目でわかるような仕組みとなっている。
ネオン菅表示方式としては、17Khzから28Khzの12個のLCによるネオン菅を付属した直列共振回路を通過することにより、該当の周波数に一致し共振するとネオン菅が点灯する。
このネオン管点灯により、方向探知所の現在のアンテナ回転位置が大雑把に把握することができる。
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(2)方向探知所のアンテナの回転位置詳細情報(Fine Part)の機能詳細について
この方式を実現するため国際電気通信株式会社の技術者は、ゴニオメーター(セルシン変圧器と同じ意味)の代わりに、11Khzの正弦関数(Sin Functional out-part)回路による信号、15Khzの余弦関数(Cos Functional out-part)回路による信号及び13Khzの加工なしの基準信号の3つの信号を用意した。
回転角度をθとすれば、sinθ、cosθの関数回路を用意することになるが、このθに該当する角度変化についてはブロックダイヤグラムではアンテナ支柱に可変コンデンサーが明記されているので、支柱の回転に同期して可変コンデンサーがθ分変化する何らかの関数回路が用意されたことを意味する。
平面図で表現すると、X軸に11Khzのsinθ、Y軸が15Khzのcosθの値に直交した平面図面の点をアドレッシングすることを意味する。
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ゴニオメーターと本方式による信号とのアドレッシングの相違について
ゴニオメーター(セルシン変圧器と同じ意味)は1つの回転子と2つの互いに直交した固定子コイルを持っており、その関係は、もし回転子コイルに電圧を加えた時に、いずれか一方の固定しコイルに誘起する電圧が、回転子コイルの軸と、着目している固定しコイルの軸となす角の余弦に比例するようになっている。したがって、他方の固定子の誘起電圧は上記の角の正弦に比例するわけである。
図に示す接続では、陰極線管の水平および垂直偏向コイルで生じる偏向力は、それぞれcosθ及びsinθに比例する。したがって合成磁界の大きさは一定でθに無関係であるが、基準軸に対してこの角だけ傾いている。
そこで必要な大きさの偏向電流を回転子に流してやり、空中線と同期して回転子を回転すれば、PPI表示に必要な回転時間軸掃引が得られる。
同時に輝度変調として、ブラウン管のG1に受信機からの受信信号を印加すれば、ゴニオメーターでPPI表示に必要な回転時間軸掃引が行われることにより、受信信号とブラウン管表示域のアドレッシングが完結することになる。
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しかしながら、本システムのように方向探知所の情報を遠隔地である中央指揮所でPPI表示するためには、アンテナの回転情報とブラウン管の回転時間軸が同期する必要があるが、ゴニオメーター(セルシン変圧器と同じ意味)を用いると遠隔地間では同期を物理的にとることは不可能である。
このためには、回転情報を何らかの電子情報で共有するシステムが必要となる。
このため国際電気通信株式会社の技術者は、ゴニオメーター(セルシン変圧器と同じ意味)の代わりに、11Khzの正弦関数(Sin Functional out-part)回路による信号、15Khzの余弦関数(Cos Functional out-part)回路による信号及び13Khzの加工なしの基準信号の3つの信号を用意している。
なお、回転角度をθとすれば、sinθ、cosθの関数回路を用意することになるが、このθに該当する角度変化についてはブロックダイヤグラムではアンテナ支柱に可変コンデンサーが明記されているので、支柱の回転に同期して可変コンデンサーがθ分変化する何らかの関数回路が用意されたことを意味するが、実際使用された回路に関する情報はない。
平面図で表現すると、X軸に11Khzのsinθ、Y軸が15Khzのcosθの値に直交した平面図運の点をアドレッシングすることを意味する。
したがって、ゴニオメーターによる回転時間軸掃引によるPPI表示と比較すれば、掃引自体の機能がないことから単一円状の疑似PPI表示しかできない限定機能となることから、便宜上、疑似PPI表示と呼ぶこととした。
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方向探知所から送信された方向探知所のアンテナの回転位置詳細情報(Fine Part)は、11Khzの正弦関数(Sin Functional out-part)回路による信号、15Khzの余弦関数(Cos Functional out-part)回路による信号及び13Khzの加工なしの基準信号の3つの信号である。
中央指揮所では、この3つの信号を「基準信号+sinθ信号」と、「基準信号+cosθ信号」として両波整流(KX-80)して直流信号に変換し、【基準信号+sinθ信号】をブラウン管平面のX軸、【基準信号+cosθ信号】をY軸の直流信号電圧として印加することにより、このベクトルデータである直交点がブラウン管の表示アドレスとなる。
このためには、絶対平面軸を決定するためには、基準信号が必要であることがよくわかる。
この状態で、ブラウン管の第一グリッドに、受信機からの受信信号を入力する。
受信信号に関しては、方向探知所の等感度方式のため50Hzで左右のアンテナが交互に切換え、これに同期して受信信号も左右の受信信号が交互に切換え出力されるとともに一方の受信信号は位相反転する加工がなされている。
このため、ブラウン管へはX軸とY軸が直交した位置へこの受信信号を印加することなる。
受信信号は交互に位相反転されたデータであることから、左右の受信信号は下図のかたちのような上下信号で表示されることになる。
通常、射撃管制レーダーで用いられている等感度方式は、操作員による手動にて方位や高度を反射バルスの高低を一致させることにより方位や高度が精密に測定できる。
一方、本機の戦闘機嚮導装置(電波誘導機)ではアンテナが自動的に回転する情報を取扱っており、手動操作を行うことができない。
したがって、中央指揮所の監視員は、このブラウン管の画面を常時監視して上下の受信信号レベルが一致した方位位置を即座に判断・記録する必要がある。
しかも、複数の友軍が上空に存在すれば、常に機体識別が一致していることも確認する必要がある。 
なお、方向探知所のビームアンテナの性能は30度幅のものであることから、これを一度に受信信号として取り込みブラウン管に表示している。
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使用真空管
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戦闘機嚮導装置(機上装置)タキ-30
米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、Locate-Leader(Taki-30) Aviation Partとある。
日本側での制式呼称は、戦闘機嚮導装置(機上装置)タキ-30である。
なお、製造会社は三菱電機株式会社である。
技術的特徴:
送信機 f = 190 MC/S CW 20 W 変調 f = 30-60 kc/s(1 kc/s のステップ)非指向性
製造数 = 50。設置数 = テスト用にわずか
概要:
タキ-30は、迎撃機に搭載された小型送信機で、地上システム(タチ-28)に正確な位置を示すために使用される。30から60 kcの範囲で1 kcのステップで選択される信号によって変調された190 MC/Sの連続信号を送信する。したがって、異なる変調周波数を持つ30の異なる航空機を同時に個別に制御することができる。
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使用真空管
 D-2

A short survey of japanese radar  Volume2からの抜粋
タチ - 28
迎撃戦闘指揮装置(国際電気株式会社;タチ28号戦闘機嚮導装置)
連合軍の対応名称: ——
技術的特徴:
f = 190 MC/S 範囲300キロメートル 信号中継f = 50-66 MC/S。8ワット
製造数= 1。設置数= 1(テスト中)
説明:
タチ-28は完全な地上設備システムの名前である(関連する航空機搭載設備はタキ-30である)。このシステムは、最大30機の独立制御航空機の現在位置に関する合理的に正確なデータを提供する。制御される各航空機は、190 Mc/sで周波数が30から60 kcの割り当てられた周波数で変調された連続信号を発信する送信機(タキ-30)を搭載している。約50マイル間隔で配置された2つ以上のDF(方向探知器)ステーションが信号を受信する。それぞれのアンテナは定速で2回転/分で回転し、50サイクルのローブ切り換えによって2つの最大値とその間の鋭い最小値を持つ水平パターンになるように配置されている。

各DF 局によって受信されたコンポジット信号 (30 ~ 60 kc のトーンの混合) は、特別な 5 メートルのリンクで制御局に無線送信される。 航空機の最低信号周波数 (0 ~ 30 kc) より下の領域では、音声チャネルと方位信号が送信される。 後者はDF アンテナの位置を示し、2 つの部分に分かれている。1 つは細かいデータの場合、連続的に変化し、30 度ごとに繰り返される。 もう 1 つは粗いデータの場合、12 ステップで変化する。 中央局では、粗い方位信号が 12 個のネオン ランプの 1 つを点灯し、細かい方位信号がブラウン管のスポットの位置を決め、DFアンテナの 30 度の移動ごとに円を通過させる。 観察されている特定の面の信号がフィルターによって選択され、陰極線管上に放射状に表示される。DF アンテナのダブルローブ パターンのため、観測される図は、「制御主導局」の図の範囲に示されているものと同様になる。 図の中央の最小値は、平面の方位角にある。 飛行機の位置を特定するオペレーターは、そのようなスコープを 2 つ、外側の 2 つのDF ステーションにそれぞれ 1 つずつ、目の前に置いている。 両方のステーションのデータから、彼は飛行機の位置を非常に正確に特定できる。 他のオペレーターは同じ方位信号を使用するが、異なる航空機信号を選択する。

このシステムは、大量のデータを瞬時に遠隔表示するという点で興味深いものである。30機の航空機ごとに1分間に2回のDF出力がある。これはGCI(地上管制指揮)用に意図されており、東京地域に大規模なシステムが設置されていた。中央ステーションは松戸にあり、最初のDFステーションは東京の東と南にそれぞれ50マイル離れた銚子と白浜に配置されていた。一部の場合では、5メートルの無線リンクで中継ステーションが使用される予定でした。この大規模なプロジェクトは戦争の終結によって中断されました。
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タキ-30
迎撃戦闘指揮装置(機上装置)- AVIATE PARIS(?)
連合軍の対応名称:
技術的特徴:
送信機 f = 190 MC/S CW 20 W 変調 f = 30-60 kc/s(1 kc/s のステップ)非指向性
製造数 = 50。設置数 = テスト用にわずか
説明:
タキ-30は、迎撃機に搭載された小型送信機で、地上システム(タチ-28)に正確な位置を示すために使用される。30から60 kcの範囲で1 kcのステップで選択される信号によって変調された190 MC/Sの連続信号を送信する。したがって、異なる変調周波数を持つ30の異なる航空機を同時に個別に制御することができる。
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タチ-36
諸元算定装置(防衛-攻撃-計算および送信装置の命令装置)
連合軍の対応名称: -—
技術的特徴:
計算の精度: 方位、±2°;距離、±(30秒×巡航速度)
送信の精度: 方位、±5°;距離、±200メートル;高度、±500メートル
製造数 = テスト中の1機。設置数 = 1機
説明:
タチ-36は、敵機および味方機の現在の進路と速度が入力された最初の電気計算装置である。そこから、味方機が迎撃を実施するために飛ぶべき適切な進路と、その地点までの飛行距離も示される。タチ-36の残りの部分は、操作者が正しい進路(方位角)、まだ残っている距離(距離)、および降下する高度を設定するための制御装置を備えた送信機である。これらの3つのデータは、回転するコンタクターの3つのセクターを通じて送信される。各コンタクトは、異なる低音周波数を変調した無線送信機に関連付けられている。飛行機には、チューニングされたリードを持つ対応する回転装置も取り付けられており、復調された無線周波数を運ぶ回転電磁石が適切なチューニングされたリードを通過すると、後者は激しい振動を起こす。これらは、適切な進路、距離、および高度のスケールで表示されているため、パイロットは一目で次に適切な動作を判断することができる。回転する要素は、各回転の開始時に1秒ごとに送られる同期信号によって同期される。
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【総合コメント】
・A short survey of japanese radar  VolumeⅠからの抜粋
日本レーダー概論 第1巻
12. 日本の防空システム 
日本の防空システムは、地上観測機とA型およびB型レーダーの精巧な組み合わせであった。そのせいもあって、扱いにくく、機能するのに時間がかかった。驚くほど複雑な戦闘機管制センターのある機能は、優れた発想で作られていた。乱雑な台を使わずに、レーダー情報を照明付きの格子状の地図上に表示するのは良かった。しかし、同様に重要な地上監視員の報告は、別の場所に、まったく異なる表示形態で表示されていた。普通の人間の管制官が、大規模な空襲中に届くすべての情報を頭の中で調整し、フィルターにかけるのは不可能に違いなかった。
ほとんどの場合、1時間以上の早期警戒が可能であったにもかかわらず、B-29の到着に合わせて戦闘機が迎撃に有利な位置につけるよう適切に指示できるシステムはほとんどなかったようだ。陸軍と海軍の情報センター間の連絡は非常に不十分だったようだ。2つの早期警戒システムを統合し、すべての放送局がその地域の単一の情報センターに報告するようにすれば、長い前進となっただろう。そうすれば、経費も混乱も半分で、完全な情報が得られただろう。さらに、AAレーダーシステムからのデータを使用する際、ラウドスピーカーから入ってくるデータを第3のディスプレイの位置にプロットするという問題があった。連合軍のインフォメーションセンター設計者は、時折、手の込んだ提案で少々暴走しているように見えた。日本軍に比べればお粗末なものだ。
*米国の戦略爆撃調査団がこのような調査を行っている。
【コメント】
A型およびB型レーダーとは、陸軍電波警戒機甲と電波警戒機乙のことである。
また、「驚くほど複雑な戦闘機管制センター」とは、陸軍の戦闘機嚮導装置(電波誘導機)のことを指していると思われる。
最後に、日本側の戦闘機嚮導装置(電波誘導機)を評価している表現で終わっているが、A short survey of japanese radar  VolumeⅠ以降の資料ではこのような評価した文面は意識的に削除されている。

・国際電気通信株式会社の開発の発想とその実現手段について
陸軍の多摩研究所では大まかな要求仕様を描き、メーカーで具体的な研究・開発・製造をしてもらう手法が一般的である。
このため、開発にはメーカー選定が重要の要素となるが、昭和19年度において大手開発メーカーの東芝、日本電気、日本無線には電波兵器であるレーダー開発で余力がないことから、新たな大規模システムである戦闘機嚮導装置(電波誘導機)の開発に国際電気通信株式会社に白羽の矢が当たったようだ。
今の日本では「国際電気通信株式会社」といってもご存じの方は少ないでしょうが、当時通信業界の最大のコングリマリッドであり、レーダー開発技術には当然知見はないが、戦闘機嚮導装置(電波誘導機)に関しては、自社の既設開発・製造技術を生かしたシステム開発を行い、確実に実現できる実用システムの開発・製造・設置工事を行い、昭和20年度には初期システムを稼働させており、中央指揮所は松戸にあり、最初の方向探知所(DF局)は東京の東と南にそれぞれ50マイル離れた銚子と白浜に配置されて実戦に向けて準備中であった。
なお、富士通信機株式会社も当プロジェクト開発に参画しているが、この当時では補助的な作業に終始したものと思われる。
ここでいう既存技術としては、昭和16年には携帯型(可搬型の意味)超短波多重電話装置(送信機出力10W、72Mc、水晶制御陽極変調方式)を完成し、朝鮮海峡直通の実験を行っており、見通外でも電界強度充分なることを確認している。
また、電話局関係では、6通話路搬送電話端局装置を製造している。
この2つの開発技術を組み合わせれば、方位探知所と中央指揮所の基本システムを構築できるし、方位探知所と中央指揮所間に中継所を設け確実に通信が行われるような思想は逓信院の通信業務の安定運用を基盤とした考え方を基礎としたネットワーク設計と思われる。
唯一、特異なのは疑似PPI表示方式の開発・設計であるが、大変発想の優れた人でないと開発できないような高度の応用技術であり、これにより世界初の「テレメーターオンラインシステム」が完成したといっても過言ではないだろう。
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・戦闘機誘導装置に関する海軍との関係について
戦闘機誘導装置については、陸海軍電波技術委員会に於いて、陸軍担当と定められているにも係わらず、結局陸軍と海軍で別々のシステムを構築することとなった。
航空機に敵味方識別装置の開発の是非は両者とも理解しているのだが、陸海軍とも統一した設計インターフェースを作ることができなかった。
このため、陸海軍として一体化した戦闘機誘導装置を構築することができなかったことが実態のようである。
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会からの抜粋
海軍の戦闘機誘導装置
本問題は陸海軍電波技術委員会に於いて、陸軍担当と定められていたものであるが、海陸両軍の飛行機性能の差異と、防御受持区域の相違とから、海軍に於いても本問題の解決を必要とするに至り、横須賀鎮守府を中心とした、B-29邀撃に関する特別委員会が組織され、検討の結果、対敵測定用としては、波長六米の電波を使用する一号電波探信儀四型を用い、敵機を洋上遠方に捕捉し、波長三米の電波を使用する一号電波探信儀一型を、等感度方式に改造したもので(が六三号電波探信儀・浜六三)、これを追尾し、近距離となれば波長六〇糎を用いた六一号電波探信儀(略称S8B、二号電波探信儀三型の反射鏡を直径七米に改造したもの)を以て、距離(最大探知距離一三〇粁、標定距離三五粁、測距誤差正負二〇〇米)及び高度(測角精度上下三度、最低仰角三度)を計測し、これを計算機に入れて、敵機の高度及び進路を算出する。又味方機測定としては波長二米の電波を用いた六二号電波探信儀(浜六二、一号電波探信儀三型を等感度方式に改造したもの)に依って呼び掛け、機上の味方識別装置からの応答電波に依りその位置を知り、高度は機上からの通報に依り、これらの資料から敵味方の会合点を求める方式であった。
急遽整備の要求に依り、既製兵器を改造し、昭和二十年三月第一号装置の装備を完了し、実目標(敵機)に対する訓練を実施した。
しかし戦況の切迫はそれ以上大規模に実施する能わず、量産に移らなかった。

・国際電気通信株式会社の終焉とその後
今の日本では「国際電気通信株式会社」といってもご存じの方は少ないでしょうが、当時通信業界の最大のコングリマリッドであり、最後まで軍需生産へ積極的に関与しなかった稀有の会社であるにもかかわらず、戦後GHQにより国際電気通信株式会社のみ解散命令が下されたという歴史のため、今日では世間から忘れられた存在となってしまった。
この解散命令を受けて、国際電気通信株式会社は最後の社史を発刊するが、その内容な社史というよりも歴史に残しておくべき重要な通信技術マニュアルそのものであった。
ただし、戦闘機嚮導装置に関しては、社史では、たった3行で簡素な内容に終始していた。
<太平洋戦争中陸軍の委託研究によるもので、関東地方防空設備の一貫としての味方戦闘機の嚮導装置、地上指揮伝達装置を含む膨大な研究であって部分的には完成したものもあるが、全体としては纏まらず終戦となった。>

GHQの解散命令書
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国際電気通信株式会社のその後
1947年(昭和22年) - 国際電気通信株式会社のGHQ指令による解散。国際電気通信株式会社法廃止。
1947年(昭和22年) - 国際電気通信株式会社の施設(一部を除く)・業務・職員は逓信省に移管。
1948年(昭和23年) - 国際電気通信株式会社狛江工場は電元工業株式会社(現:新電元工業株式会社)となり、翌年独立し国際電気株式会社となる。
なお、奇遇にもホットニュースであるが、日立国際電気が2018年に分社して設立した半導体製造装置メーカーのKOKUSAI ELECTRIC(東京・千代田)が2023年10月25日東京証券取引所に上場した。初値で換算した時価総額は約4800億円。国内では今年最大の新規株式公開(IPO)で、2018年のソフトバンク(7兆円)以来の規模となったとのことである。
国際電気株式会社の製品事例
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・電電公社秋草副総裁との関係
国際電気通信株式会社の社史の編纂には、執筆者として秋草篤二氏の名があった。
個人的なことで恐縮なのですが、実は小生が昭和49年電電公社に入社した時の副総裁が秋草篤二氏であった。
国際電気通信株式会社に籍を置いていた同氏達は、昭和22年には国際電気通信株式会社の施設(一部を除く)・業務・職員は逓信省に移管されている。
このことからも国際電気通信株式会社の存在価値の重要性がよく分かる。
同氏は逓信省、電気通信省(1年のみ存続)、日本電電話公社に所属することになった。
なお、国際電信電話株式会社法(昭和27年法律第301号)により1953年に日本電信電話公社より分離独立し設立された。




参考文献
Japanese Wartime Military Electronics and Communications, Section 6, Japanese Army Radar, 1 April 1946
「日本無線史」9巻 1951年 電波管理委員会
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
続日本無線史<第一部> 昭和47年2月
戦史叢書 陸軍航空兵器の開発・生産・補給 防衛庁防衛研修所戦史室著 昭和50年8月
陸戦兵器総覧 日本兵器工業会編 1977年3月
A short survey of japanese radar Volume 2 1945年11月20日
国際電気通信株式会社社史(1949年発行)
森村喬さんの思い出
https://www.icom.co.jp/personal/beacon/ham_life/ja1lkj/5424/
丸2006年10月号 潮書房