2式1号電波探信儀1型のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について
諸元表
略称---------------------------------------------11-2,3号
目的---------------------------------------------陸上海岸に固定装備対空遠距離見張用
周波数 ----------------------------------------- 100Mcs
繰返周波数-------------------------------------- 500cps
パルス幅 ----------------------------------------20μs
尖頭電力出力-------------------------------------40 kw
測定方式-----------------------------------------最大感度法
出力管-------------------------------------------pp TR1501
受信機検波菅-------------------------------------UN-954,RE-3
空中線 ------------------------------------------送信:2×2 受信:4×2 水平
IF、mcs -----------------------------------------第一中間周波数21.5Mhz、第二中間周波数3.5Mhz、帯域幅±250Khz
受信利得----------------------------------------120 db
最大範囲----------------------------------------編隊250km 単機130km
測距精度----------------------------------------1~2km
測方精度----------------------------------------2~3°
電源--------------------------------------------
重量--------------------------------------------8,700 kg
製造-------------------------------------------東芝、住友、日本音響(日本ビクター)
製作台数---------------------------------------
製造会社の記載はないが、日本電気株式会社、東芝及び日本ビクター(日本音響)である。
日本側での制式呼称は、2式1号号電波探信儀1型である。
なお、米軍へ提出されたブロックダイヤグラムは、一部制御ラインに不適切な箇所があると判断して、こちらで修正を行っている。
ブロックダイヤグラムでは、次の5つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit Transmitter Unit Receiver Unit Indicator Unit Monitor Unit
空中線(Antenna Unit)
受信用空中線は半波長ダイポール水平4列2段、送信用空中線は半波長ダイポール水平2列2段を各々左右に配置した空中線と5cmの金網を後方に配置した反射板とによる構成である。
空中線は電探室と一体化して設置し、全体を電動モーターにより回転する仕組みの構造となっている。
なお、空中線の引き込みは、並行2線式の饋電線を使用している。
受信機(Receiver Unit)
本受信機はダブルスーパーヘテロダイン方式で、高周波増幅1段、第1中間周波増幅2段、第2中間周波増幅3段、低周波増幅2段構成である。
高周波部は高周波増幅、第一混合部にエーコン管のUN-954、局部発振に同じくUN-955を使用し、爾後新開発されるレーダー受信機の標準回路構成となる。
第1中間周波増幅部は日本無線が新開発した五極管RE-3による2段増幅構成で、中間周波数は21.5MHz、帯域幅は±250KHzである。
第二混合はRE-3で、第2局部発振は3極・5極複合管Ut-6F7で構成された水晶発振方式である。
第2中間周波数増幅はRE-3による3段増幅方式で、中間周波数は3.5MHz、帯域幅は±250KHzである。
検波はRE-3で、検波信号の低周波増幅はRE-3の1段増幅、最後のRE-3はカソードフォローで低インピーダンス変換して指示機の垂直入力信号となる。
本受信機の総合利得は120dbである。
なお、新開発の新型万能増幅管RE-3を採用した受信機は、海軍では11号、12号、21号、陸軍ではドイツのウルツブルグレーダーのコピー品のタチ-24の合わせて4機種のみである。
送信機(Transmitter Unit)
UZ-42 → XB-767A → UY-80 7→ TB508C×2 → TR-1501×2
本送信機の使用周波数は100Mhzである。
まず前提条件として、送信管TR-1501プッシュプルで自励発振を行うが、グリッドには負電圧をかけて動作しないカットオフ状態とさせておく。
指示機で生成した500hzの矩形波の入力を微分回路により同期パルスを作り、緩衝増幅UZ-42を介して同期パルスを作り、次段のサイラトロンXB-767Aの発振機能による送信同期パルス20μsを生成する。
次に、UY-807によるパルス増幅後、TB-508C×2によるパルス変調を行う。
この時、高圧の正の送信同期パルスが送信管TR-1501のグリッドを通過すると、カットオフ状態が解除され、送信管TR-1501が自励発振を行い送信同期パルスがアンテナから発射することとなる。
なお、この発振方式は、爾後新開発されるレーダー送信機の爾後の標準回路構成となったが、送信同期パルスの生成にサイラトロンを使用する方式は、本機と陸軍のタチ6などの初期型のみである。
使用真空管
指示機(Indicator Unit)
【捕捉説明】送信同期パルスと掃引周波数の関係
指示機の仕組みを理解するためには、本機レーダーが使用するパルス繰返し周波数が重要である。
本機の送信機のパルス繰返周波数の仕様は、仮称1号電波探信儀1型が1,000Hz、送信電力を強化した2式1号電波探信儀1型では500Hzを採用している。
反射パルスによる理論的な最大測定可能距離は、(光の速度÷反射パルスの繰返し周波数)÷2で定義される。
パルス繰返し周波数500Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は300Kmとなる。
パルス繰返し周波数1,000Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は150Kmとなる。
また、指示機に必要なブラウン管の水平軸用の「のこぎり波」の掃引周波数とパルス繰返し周波数との一般的には関係式は以下のとおりである。
「のこぎり波」の掃引周波数 = パルス繰返し周波数 ÷ 2
あくまでこの関係式も原則であり、本機1号電波探信儀1型や2号電波探信儀2型原型機などの初期型では例外も存在しており、この初期型の場合や東芝などが戦争後期に採用した正弦波掃引方式の関係式は以下のとおりである。
「のこぎり波」の掃引周波数 = パルス繰返し周波数
同期用正弦波発生部
UY-76(発振) → UZ-6C6(飽和増幅)
同期用正弦波発生器により、指示機の電子マーカー(測距目盛)用に15Khzの正弦波を生成する。
この考え方は、爾後の同期用正弦波発生器では送信同期パルスの周波数を基準とするように変更されたが、初期開発では電子マーカーを基準に正弦波を発生させている。
この正弦波は次段の飽和増幅UZ-6C6で矩形波に変換され、指示機のブラウン管の電子マーカー、ブラウン管の水平掃引用及び送信機の送信同期信号用の3つの機能部で使用される。
なお、送信同期パルスは500Hzを設定していることから、同期用正弦波発生器で発生させた15Khzを分周する必要がある。
受信信号増幅部
UZ-6302(増幅)→ブラウン管の垂直軸の偏向板へ
電子マーカー(測距目盛)部
UZ-6302(飽和増幅)→UZ-6C6(C級増幅/プレート検波)→ブラウン管の垂直偏向板へ
同期用正弦波発生部からの15Khzの矩形波をUZ-6302(飽和増幅)で増幅し微分回路にて電子マーカーのパルスを生成し、次段のUZ-6C6(C級増幅/プレート検波)でグリッドバイアスを深くし、わざと歪ませて増幅/検波することにより、電子マーカーとしての目盛を生成する。
これをブラウン管の垂直軸の信号入力用とは別の偏向板に印加する。
なお、15Khzの電子マーカー(距離目盛)とすれば、1目盛20kmとなる。
復元モデルでの表示事例
水平掃引部
「Kt-6H6A(整流)→UY-76(発振)」→「Kt-6H6A(整流)→UY-76(発振)」→UY-76(のこぎり波生成)→UY-76(電圧増幅)→UZ-42(電力増幅)→ブラウン管の水平軸の偏向板へ
【Kt-6H6A(整流)→UY-76(発振)】の分周回路により15Khzを1/5分周して3Khzの矩形波を作る。更に次の【Kt-6H6A(整流)→UY-76(発振)】の分周回路により1/6分周して目的の500Hzの矩形波を生成する。次に、UY-76(のこぎり波生成)の出力で積分回路を介して「のこぎり波」を生成し、UY-76(電圧増幅)でのこぎり波を増幅する。
これをUZ-42(電力増幅)により電力増幅してブラウン管の水平軸の偏向版に印加する。
送信同期信号部
UZ-6D6(飽和増幅)→UZ-6C6(飽和増幅)→UZ-6C6(飽和増幅)→UY-76(カソードフォロー)→送信機と監視機へ
【回路技術の解説】
・パルス技術を採用した分周回路(1号電波探信儀1型にも採用)
分周回路の回路動作解説(仮称2号電波探信儀2型原型機の説明書からの抜粋)
真空管V1(第一図参照)は切換開閉器に依り周波数30kc及び60kcの発振をなす発振管で真空管V2にてそれを増幅する。従ってV2にて増幅された波形はV1の発振器の出力大なる為、V2の増幅器の出力は図の如く矩形波なり。
次に其の出力は真空管V3-2(第二図参照)なる整流菅を通して蓄電器に接続されている。V3-2は整流菅なる為にプラスの半サイクルの部分だけ整流菅を通じて蓄電器(C12)に充電する。
したがって蓄電器両端の電圧プラス波形の来れる都度に図の如く階段状に上昇して来る。
この様な階段状の電圧は次の発振管V7のグリッドに接続されて居る。
この真空管V7(第三図参照)は周波数30kcを1/10に降下させるもので、発振管のグリッドを図の如く深くマイナスにして置く。次にこのグリッドに上述の如き階段状の電圧が加え発振する迄のグリッド電圧になる瞬間発振する。と同時に蓄電器に充電されていた電圧は放電し再びグリッドはマイナスとなる。
即ち30kcの発振器出力により充電された電圧(階段状に上昇した電圧)10階段目にV7の発振管が発振すれば其の発振周波数は30kcの1/10即ち3kcとなる。
尚抵抗R27を調整して確実に10段目で発振する様に調整する事が出来る。
即ち陽極電圧が高ければ早く発振し低ければ入力電圧(階段状電圧)大なるを要す。
したがって3,000サイクルの周波数は第4図の如き波形となる。
※機能詳細は下記のURLの指示部を参照願います。
2号電波探信儀2 型 原型機のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について
監視機(Monitor Unit)
受信信号増幅部
UZ-6C6(増幅)→ブラウン管の垂直軸の偏向板
水平掃引部
UZ-6C6(飽和増幅)→UY-76(のこぎり波生成)→ブラウン管の水平軸の偏向板へ
500Hzの矩形波を入力とし、UZ-6C6(飽和増幅)した矩形波、次のUY-76(のこぎり波生成)の出力部の積分回路を介して「のこぎり波」を生成し、ブラウン管の水平軸の偏向板へ印加する。
使用真空管
【総合コメント】
・仮称1号電波探信儀1型と2式1号電波探信儀1型との相違について
送信機の仕組みの変遷
日本初の初期型の仮称1号電波探信儀1型の送信機は発振部と終段の電力増幅部の2ステージで構成しているが、これがもとで送信効率が悪化し、全くパワーが出ないシステムとなってしまった。
このため、2式1号電波探信儀1型では、終段の電力増幅部を直接自励発振させて1ステージのシンプルな構成にすることにより、送信パワーを100%だせるように改善し、送信菅も更に大型化することにより尖頭電力出力5Kwから40Kwに大幅に改良を施した。
確かに送信機構成を2ステージから1ステージの回路変更することによりパワーアップを果たしてが、2ステージ方式の資料がないので確かではないが、陸軍の初期型のタチ6と同様に周波数変更が可能な機能を付属させていたのだろう。
敗戦末期の本土防衛となるとB-29のRCM機により電波妨害が盛んに行われている。
電波妨害がされればレーダーの使用周波数を変更すればよいのだが、1ステージの送信機では送信周波数の簡単には変更はできない構造である。
このような経緯により、日本のレーダーは、1ステージの送信機構成のため電波妨害に対応することができなかったことになった。
唯一、ドイツのウルツブルグレーダーのコピー品であるタチ24にのみ送信周波数の変更機能を見ることができる。
・同期発振器の使用周波数の選定について
仮称1号電波探信儀1型では、同期発振の基準周波数に15Khzを採用している。
この理由は、初期型の仮称1号電波探信儀1型では、原発振には正確性を考慮して120Khzの水晶発振子を採用し、これを分周して15Khzとして電子マ-カーを基準とした同期発振器としたことが理由のようである。
この電子マーカー用の15Khzを基準として、分周回路により、1/5と1/6分周回路により、送信同期信号の500Hzを生成している。
同時期に開発した仮称2号電波探信儀2型でも、30kc及び60kcの発振器に依り電子マーカー(距離目盛)を、次にその1/10の分周回路により3kc及び1.5kcの送信同期信号を生成している。
この分周回路には最新のパルス技術を採用したアナログ回路が採用されているが、製作費用の増大と過渡現象を利用するため高度な保守能力が必要となり、爾後のシステムには分周回路の採用が避けられるようになった。
具体的には、同期発振器の基準を電子マーカー(距離目盛)から送信同期信号に変更し、逆には、電子マーカー(距離目盛)は送信同期信号の高調波を利用して生成するように変更している。
低周波周波数の送信同期信号を基準としたため、誤差の少ない音叉発振器を利用した同期発振器も多数製作されている。
この送信同期信号の基準周波数の誤差が大きければ、測定すべき測距精度に大いに影響することになる。
・送信同期パルスの生成方法とパルス幅に関する考察について
パルス発射型のレーダに関する技術データが全くない初期のレーダー開発の状況の中、暗中模索の結果、サイラトロンXB-767Aを使用したパルス生成にたどり着いたのだろう。
このサイラトロンXB-767Aを使用してパルス幅20μsの送信同期パルスで実用化したレーダーということになる。
送信同期パルスについては、反射係数を高めるには、ある程度パルス幅は大きい方が反射率には有利であるが、パルス受信によるブラウン管への画面表示を考慮すればパルス幅は小さいほうが解像度は高くなる。
現場の開発陣は、このパルス幅の設計にどう折り合ったのだろう。
なお、爾後のレーダーにはサイラトロンXB-767Aを使用しなくて、矩形波に微分回路を介したシンプルなパルス発生回路を使用している。
システムの再現のためサイラトロンTY-66Gを使用したパルス発生回路による実験を行うと、パルス幅が1.94msと規格値には届かない悪い結果となった。
爾後のレーダーシステムには、下記のような微分回路によりパルスを発生させている。
海軍のレーダーの送信同期パルスのパルス幅を調査すると、下記のとおりであり、1号電波探信儀1型がパルス幅20μsの設定は適正であることが判る。
なお、射撃管制レーダーなどには測定精度を高めるためパルス幅は短くしている。
早期警戒レーダー
20μs 2-11、14
10μs 2-12、2-21、3-13、14、22
射撃管制レーダー
10μs 32
3μs 43(L-3)、41(S3)
2.5μs 23
PPI系レーダー
2μs 玉3
1.2μs 51
・分周回路の動作説明
海軍技術研究所では、初めてのレーダー開発に当たり、日本放送協会技術研究所の高柳健次郎博士が技術顧問として参画しており、その門下である日本ビクターの技術陣がサポートしている。
このようなことから、彼らテレビ技術者が当時最新のパルス技術を活用した分周回路を考案し実用化したものと思われる。
当時の最新技術のパルス回路では分周のためのスレッドホールド(閾値)の判定が真空管の動作点の曖昧さなどにより誤差が発生することから、保守要員は付属の監視機(観測用オシロスコープ)により、1/5分周であれば、矩形波が5つでループしていることを確認し、不良であれば調整する必要があった。
このようなことから、爾後のレーダーシステムでは本分周回路の採用は行って居ない。
【参考情報】
・制空権を失うと早期警戒レーダーは無力となる。
参考文献
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
「元軍令部通信課長の回想」昭和56年 鮫島素直
機密兵器の全貌 昭和51年6月 原書房
「電波探信儀及電波探知機装備工事心得」 国立文書館
米国国立公文書館
オシロスコープの設計と取扱い 昭和33年6月 藤巻安次 誠文堂新光社
無線工学ハンドブック 昭和16年7月 日本ラジオ協会
Anatoly Koshkarov氏提供資料
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