タキ14のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について
米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、Path Finder(Taki-14)とある
パスファインダーとは、空襲の際、最初に爆弾を投下して後続機に目標を示す先導機、嚮導機(きょうどうき)のことである。
製造会社は東芝芝浦電気株式会社である。
日本側での制式呼称は、タキ14である。
ブロックダイヤグラムでは、次の5つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit Transmitter Unit Receiver Unit Indicator-A Unit Indicator-B Unit
タキ14の概要
Japanese Wartime Military Electronics and Communications, Section 6, Japanese Army Radarからの抜粋して以下に紹介する。
タキ14は、米軍のSCR 717-Bに類似した索敵レーダーを航法と船舶の探知用に開発しようとする試みであった。
最初の試験モデルは1944年8月に完成し、九七式重爆撃機(キ-21)で試験された。これらの試験から、その機能は貧弱であり、最大範囲はわずか25~30kmであることが判明した。
アンテナとフィーダを改良することで、索敵距離を改善することが望まれた。
第2の試験モデルは、1945年2月に準備が整った。この範囲で約40~50kmの範囲で探知できた。
これらは、タキ14-1型と呼ばれたモデルで、10台の生産を計画した。
工場への頻繁なる爆撃により、これらを生産することが困難になった。
実験は続けられ、送信機と受信機を変更することによって、電力出力を増加させ、探信距離が70~80kmに改善された。
これはタキ14-2型と呼ばれた。しかし、完全なテストが行われる前に終戦となった。
空中線(Antenna Unit)
A short survey of japanese radar Volume 2からの抜粋
このアンテナは、水平ダイポールと6×4アレイの導波器を搭載した60cmの金網のパラボラアンテナで構成され、垂直面でビーム幅6度(半値電力点)、下方60度のビームが得られるとしている。アンテナは20rpmで回転し、傾斜機能はなく、機体下のペーパーファイバー・レドームに取り付けられている。PPIタイプのディスプレイは120ミリのブラウン管を使用している。ロータリージョイントと水素充填T-R管はアメリカの慣例に従ったものが使用されている。
アンテナから送信機及び受信機間の給電系については、このブロックダイヤグラムでは不明瞭であるが、空洞共振器(キャビティ)が使用されていることから矩形導波管が採用されていると思われる。
なお、2つの放電管(U tube)が記載されているが、TR管とATR管の機能と推定できるが、このようなTR管とATR管が使用されたのは日本では初めてのケースである。
受信機(Receiver Unit)
パラボラアンテナからTR管を通し、受信用切換空洞共振器を経由し、鉱石検波器(第一混合部(局発T-305×2))→RH-4×4段(第一中間周波増幅(中間周波数22.5Mhz±1Mhz) →RH-4(第二混合部(局発RH-4×2 f=6.375Mhz)→ RH-4×3段(第二中間周波増幅(中間周波数8.75Mhz±0.75Mhz))→DH-2(検波)→RH-4(カソードフォロー)の構成によるダブルスーパーヘテロデイン方式を採用している。
なお、受信用切換空洞共振器は送信用同期パルスが発生しているときには、放電管により受信機能は停止している。
受信パルス信号の流れ
使用真空管 T305 RH-4 DH-2
【コメント】
受信用切換空洞共振器や局発用空洞共振器を用意して1Ghz帯の受信性能の向上・安定化を図っている。
本来はVHF用の小型送信菅であるT-305を局部発振管として採用しており、常時発信では送信部の送信同期パルスに影響したのか受信用切換空洞共振器内に放電管を用意して送信時への影響を排除している。
送信機(Transmitter Unit)
指示機A(Indicator-A)内部で同期信号として500Hzの正弦波を発生させたものを入力として、ソラ(Amp)→ソラ(Amp、微分)→ソラ(Sat.Amp)→ソラ(Sat.Amp)→ソラ(Sat.Amp、微分によりパルス化)→ソラ(パルスAmp)→T307(パルスAmp)→T307(パルスAmp、グリッド変調)→T327(自励発振)→ATR管→アンテナ(電波放出)
一方、受信機の制御信号のため、ソラ(Amp)→ソラ(Sat.Amp)→ソラ(Amp)→受信機用切換空洞共振器内の放電管へ
使用真空管 T-327 T307 ソラ
【コメント】
非力なソラを多用した増幅段となっているが、本来ならバワー管を使用すべきであり、変調管にしても非力なT307を使用したため、変調度が浅く送信電力も想定値よりも低下したようだ。
このため、2型ではグリッド変調からプレート変調に変更するとともに、送信菅もシングルからプッシュプルにパワーアップしている。
指示機(Indicator)
PPI表示兼測距用指示機(Indicator-A Unit、Indicator-B Unit)
指示機Aと指示機Bの2つの装置から構成されている。
指示機Aには、マスター発振器及び掃引部、帰線消去部、目盛部、測距部から構成され、指示機Bには表示装置としてブラウン管のみ装備置されており航法士若しくは爆撃士が直接使用する。
使用真空管 SSE-120-G-B-2(写真はSSE-120-G) PH-1 RH-4 ソラ
マスター発振器及び掃引部
マスター発振部
500Hzの音叉発振器を使用することにより、周波数安定度の高い精度を補償している。
音叉発振器→RH-4(OSC)
参考事例 音叉発振器と海軍射撃管制レーダーFD2の回路図事例
のこぎり波発生部
ソラ(amp)→ソラ(掃引波位相調整&積分回路)→PH-1×2(amp)→ ゴニオメーター →ブラウン管へ
全方向掃引モードの場合は、PPI用ゴニオメーターを介して回転時間軸に変換 → ブラウン管の垂直軸と水平軸の偏向板へ
単一方向掃引モード(Aスコープの機能)の場合は、アンテナの回転を停止しそのまま掃引波 → ブラウン管の水平軸の偏向版へ
帰線消去部
Master OSCで500Hzの正弦波を元に、1つはそのまま飽和増幅して矩形波を作り、もう一方では、正弦波をコンデンサーを介し位相を90度遅らせた状態にして飽和増幅して矩形波を作る。この2つの矩形波をAND条件で混合した矩形波生成し、帰線消去信号としてブラウン管のカソードに印加する。
反射パルスによる理論的な最大測定可能距離は、(光の速度÷反射パルスの繰返し周波数)÷2で定義される。
パルス繰返し周波数500Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は300Kmとなる。
この帰線消去信号の効果で約1/4の範囲しか表示できなり、表示域は75Km程度となる。
目盛部
目盛発生部
ソラ(位相調整)→ソラ(飽和増幅)→ソラ(Damping OSC) → ソラ(amp)→ ソラ(飽和増幅)→ソラ(微分パルス化+Mixer)→ ソラ(カソードフォロー)→ ブラウン管の垂直軸の偏向版へ
Damping OSCとあるのは減衰振動回路のことで、同期用の500Hzの矩形波を起電力として減衰振動回路を起こすことで高調波成分が発生する。
この高調波成分の中で例えば30Khz(60逓倍)を同調させて取出す仕組みのようである。
この30Khzは索敵用(見張用)指示機のブラウン管の垂直軸の10km単位の電子マーカー(目盛)として表示することができる。
ソラ(Damping OSC)以降のステージは機能が示されてないので正確なことは不明であるが、30Khz(発振周波数値については記載なし)程度の正弦波を飽和増幅して矩形波に変換し、微分回路を通してパルス化したものをプレート検波して正パルスだけ取り出したものが、電子マーカー(目盛)となる。
測距部
ソラ(位相調整)→ソラ(飽和増幅)→ソラ(Damping OSC 2Khz) → ソラ(amp)→測距用ゴニオメーター → ソラ(amp)→ソラ(飽和増幅)→ソラ(微分パルス化+Mixer)→ ソラ(カソードフォロー)→ ブラウン管の水平軸の偏向版へ
Damping OSCとあるのは減衰振動回路のことで、同期用の500Hzの矩形波を起電力として減衰振動回路を起こすことで高調波成分が発生する。
この高調波成分の中で2Khz(4逓倍)を同調させて取出す仕組みのようである。
2Khzの正弦波をもとに、測距用ゴニオメーターを介して位相調整されたこの正弦波から測距用選択パルスを生成し、指示機Bのブラウン管のグリッドに印加することにより選択している場所を目盛状の輝線としてブラウン管に表示する。
指示機A内の測距用ゴニオメーター(位相調整器)を調節することにより該当する反射パルスの位置に移動させることにより、測距用ゴニオメーター(位相調整器)で移動した移動量を距離機換算することにより正確な測距の測定が可能となる。
表示機Bのブラウン管のAスコープ表示モードの動作事例
表示機Bのブラウン管のPPI表示モードの動作事例
電子マーカー(目盛)をブラウン管の垂直軸の偏向版に印加し回転時間軸掃引すれば写真に示すように回転する掃引軸に対して垂直方向の電子マーカー(目盛)が表示されることになる。測距用ゴニオメーターを調節すれば、固定表示の電子マーカー(目盛)に対して測距用選択パルスは掃引軸に対し移動することになり、この移動量が精密な測距距離として読み取ることが可能となる。
受信信号処理について
全方向掃引モード(PPI表示用の機能)の場合は、受信信号は指示機Bのブラウン管のグリッド(G1)に印加する。
単一方向掃引モード(Aスコープの機能)の場合は、受信信号は指示機Bのブラウン管の垂直軸の偏向板(上)に印加し、偏向板(下)に目盛と測距選択パルスを印加する。
PPI表示レーダーの技術解説については、下記のURLに掲載していますので参照願います。
日本陸海軍のPPI表示式レーダーの解説について
根拠資料
A short survey of japanese radar Volume 2からの抜粋
タキ-14
パスファインダー(嚮導機用電波暗視機)
連合軍の対応名称: ---
技術的特徴:
波長 = 27 cm、2 kW 半径20 km(高度5000 m)の範囲
精度: 距離±2 km、方位角±3°、PPI(航空機位置指示)表示
製造数 = 2または3 設置数 = 1
説明:
タキ 14 はアメリカの SCR-717B の日本版であり、航行、船舶の捜索、そしておそらく爆撃に使用される予定でした。 送信にはグリッド変調三極管 T-327 を使用し、27 センチメートルで 2 kw のパルス電力を生成する。 このアンテナは、水平ダイポールと 6x4 アレイのダイレクターを搭載したクリップされた 60 cm のパラボラで構成されており、垂直面で幅 6 (電力点の半分)、深さ 60 度のビームを与えると主張されている。 アンテナは 20 rpm で回転し、傾斜機能はなく、飛行機の胴体の下の紙ファイバー製レドームに取り付けられている。 ブラウン管の 120 では、PPI タイプのディスプレイが使用されている。 ロータリー ジョイントと水素を充填した T-R チューブはアメリカの慣例に従っている。 タキ 14 号の回路図は付録 II に示されている。
この装置は、対応するマイクロ波海軍機上捜索レーダー(51号)よりもはるかに軽量でした(120 kg対300 kg)。陸軍と海軍の共同技術を結集して、アメリカのAPQ-13に対抗するための5 om機上セットの開発計画が立案されていた。
最初に製造されたタキ 14 (東京芝浦電気株式会社製) は、試験のために陸軍のキ-21 航空機に搭載された。 予備飛行では30kmの海岸の輪郭を示した。 布佐飛行場で爆撃による機体の損傷の修理が行われている間に終戦を迎えた。
Taki-14にはI型とII型の2つのモデルがありました。第2のタイプは、第1のタイプと主に異なる点は、RF回路の空洞調整が使用され、送信機の出力が10 kWに増加したことである。この改善により、大きな陸地上での有効範囲がほぼ2倍になり、70-80 kmになった。
タキ-14の開発の経緯は、多摩研究所の「プロジェクトエンジニア」である魚住少佐によって記された。これは、戦争末期の日本のレーダーエンジニアが直面した問題と困難、および彼らの最新の航空機搭載レーダーの概要を示すものとして、オリジナルの文書の文言を使用して完全な形で提供されてる。
《タキ14(P.P.I.)の研究概要》
多摩研究所、魚住少佐著
タキ14号の研究概要(P.P.I.)
多摩研究所 魚住少佐著
1. 研究の開始時期と設計の概要。 1943年(昭和18年)8月末に研究を開始した。セット設計のための基礎データの収集が完了したため、以下のデータに基づいて東芝通信社でタキ14の試作を開始した。
送信機:
波長=約25cm
発振器タイプ = 空洞共振器によるバックカップリング
変調タイプ = グリッド変調
ピーク出力 = 2-4 KW
パルス幅 = 1.5μs
繰り返し周波数 = 500 c/s
受信機:
タイプ = ダブルスーパーヘテロダイン
1st I.F.= 21.5 MC/S ± 1.5 MC/S
2nd I.F. = 8.75 MC/S ±1.5 MC/S
感度 = I.F後約110db ステージ
アンテナシステム:
1. グリムリレー方式による連携型送受信
2. 3次元パラボラ反射鏡を備えた八木アレイ
重さ:
整流器とインバーターを除く120kg。 整流器 = 40 kg。
2. 最初の試作を開始したときにセットに期待されていた可能性のある機能。
一方向表示では約70~80Km、パノラマ表示を採用した場合の最も見える半径は約50Kmである。
3. 研究のプロセス
1944年8月に1号試作機が完成し、キ21(九七式重爆撃機)に搭載して実験飛行を試みましたが、その性能は非常に貧弱で実用には不十分でした。 つまり、最も見える半径はわずか約 25 ~ 30 Km であった。
そこで、アンテナ系と給電部を中心に改良を続け、新たな導波管型アンテナとU型給電部の低損失接点を見つけることに成功した。
以上の改良をもとに、昭和20年2月初旬に2号試作機が完成し、再度実験飛行を試みた。 このとき、最もよく見える半径は約 40 ~ 50 Km に改善され、時折、50 Km を超える高山などの大きな天体の反射系統が現れました。したがって、それほど満足のいくものではありませんが、いずれにせよ実用的なセットであることがわかった。
以来、タキ14型1型として20機の製造を計画し、製造と並行して研究を重ねて改良を重ねてきた。
しかし、川崎の制作会社は何度も爆撃を受け、製作途中のセットのほぼすべての部品が完全に灰燼に帰した(試作3号機のみを残した)。
致命的な被害にもかかわらず、私たちは1945年の8月以降も何度も生産を計画したが、戦争が終わるまで無駄でした。 一方、当研究室では送信機の出力を10Kw以上に向上させ、高周波回路をすべてキャビティ回路に改良した実験セットを完成させました。 このタイプのセットをタイプ II と呼ぶ予定である。
この実験セットの最も可視的な半径は、確かに約 70 ~ 80 Km に達した。 しかし、正式な試作が行われる前に戦争は終わった。
さらに、10cm機(タキ24号)と5cm機(タキ34号)の基礎研究を進め、5cm用の強力な送信機マグネトロンを除き、ほぼ完全な設計データを取得した。 タキ14号との違いは高周波回路の寸法と送信菅の2点のみである。しかし、前述のタキ14型Ⅱ型と同様に、製造開始前に終戦を迎えた。
4. 研究所にあったセットの処分
上記のように、セットは実用化される前に突然戦争が終わり、研究室での実験だけが行われた。戦争終結時点でのタキ14試作セットの性能は以下の通りである:
Type Iでは最も見える半径は約40-50 km、Type IIでは約70-80 kmでした。さて、今年の8月14日、戦況が緊迫しすぎて技術者でさえも研究を続けることができなくなりました。私たちは前線に行って死ぬために備えるしかありませんでした──言ってみれば「死ぬ」ためにです。
最終的に、私たちは愛しいセット(お許しください、私が「愛しい」と言ったことを)と、調査や実験の重要な文書をすべて破棄し、戦争が終わる前に突然終戦を迎えました。エンジニアとして、セットや技術文書を灰にする必要があったことをとても残念に思っています。もし8月15日に戦争が終わり、実際にアメリカ軍や空軍が平和に上陸されると分かっていたなら、私たちは決してセットを破棄しなかったと責任を持って言えます。
上記の理由から、タキ14の部品まで持ち出そうとすれば、おそらく東芝通信にしか可能性がないと思いますが、正直言って、あなた方の爆弾はあまりにも多く、すべてを灰にすることなく何かを残す余地はなかったと疑っています。
5. 回路図は、私の記憶と適当なメモの集積で書いたものですが、間違いないと確信しています。II型はI型と違って高周波回路と発振器だけで、つまり前者は高周波回路を完全に空洞型に改良し、発振器はプッシュプルである。
SCR-717の概要
Sバンド航空機レーダ、3100-3400MC、150KW-PP SCR-517をベースに開発したマイクロ波小型パッケージのASVである。SCR-717-Aは、パイロットとオペレータ用にBスコープを提供し、最大レンジは5、20、50、100海里である。前方または後方の180°を任意にスキャンすることができる。SCR-717-Bは、パイロットとオペレーター用のPPIスコープで、最大射程は4、25、40、100海里である。360°スキャンはすべてのレンジで可能で、4マイルレンジではオープンセンター表示も可能である。また、IFF識別用の接続端子も備えている。IR、Bacon、AN/APQ-5(レーダー火器管制)装置との接続が可能である。テストセットIE-57またはLZとPE-143電源装置がメンテナンスのために必要である。
※ASVとは(、air to surface vessel )のこと 空対海上船舶監視レーダーのこと
SCR-717の諸元表を整理すると以下のとおりである。
Frec、mcs ----------------------------- 3100から3400Mhz
Prf、cps -------------------------------4マイル20270、25マイル3239、40マイル2027、100マイル809
パルス幅、μsec --------------------- 不明
ピークパワーアウト------------------- 不明
アンテナ------------------------------不明
指示器--------------------------------SCR-717-AはBスコープ、SCR-717-BはPPIスコープ又は、4マイル時のみAスコープ(open center indication on the 4 mile rang)にも対応
最大範囲------------------------------100マイル
範囲精度------------------------------推定最大索敵距離。5,000〜10,000トン級船舶で70マイル、浮上した潜水艦で20マイル。最小索敵距離 600フィート
容積--------------------------------- 24" x 37" x 43 "
電源----------------------------------飛行機のDC電源から27.5ボルトで100アンペア
重量--------------------------------- 773ポンド
なお、B-24にSCR-717は搭載されていた。
米国と豪州の連合軍は、ニューギニア戦線(ポートモレスビー攻略作戦)でB-24による偵察、爆撃をおこなっている。
この戦線において、B-24の撃墜などにより、SCR-717-Bが日本陸軍に鹵獲されたものと思われる。
【総合コメント】
・タキ14の開発の問題点について
戦後GHQに対して、陸軍多摩研究所魚住少佐は下記の報告書を提出している。
タキ14は1943年(昭和18年)8月末に研究を開始した。セット設計のための基礎データの収集が完了したため、以下のデータに基づいて東芝通信社でタキ14の試作を開始した。
ここで「以下のデータ」とあるのが米軍のSCR-717を手本にした基本的な設計仕様のことである。
タキ14とSCR-717の相違点について
使用周波数は、タキ14が1111Mh(波長27cm)に対して、母体であるのSCR-717は3100から3400Mhz(波長9.6cmから8.8cm)を使用している。
この理由は、東芝には実用化レベルの磁電管(マグネトロン)がないためSCR-717の3Ghz帯に対応することができず、従来技術の3極管で対応するためには、東芝としては1Ghzが限界であったのが原因である。
このことは、東京芝浦電気株式会社八十五年史に下記のように記載されている。
以上のごとく電探用送信機としては多くの種類を製作したが、これらの大半は三極管方式によったものである。
これは機器内に使用する真空管は極力同一規格の三極管を用いるもので、操作保守を能率的かつ簡便にするには極めて有効な方式である。
もちろん三極管で超短波を発振することには、構造的にも周波数の限界があるが、当社では極力この方針を推進して、戦争末期に当局から磁電管の製作を要請されるまでこの方針を貫き各種の特色ある兵器を完成した。
このうちには三極管を使用した極超短波(マイクロ波)の電探がある。
これは波長30~60cm(周波数500~1000Mc)のもので、それまでの超短波を用いたものよりもはるかに分解能のすぐれたものであった。
航空機用及び船舶用として開発していたが、昭和19年春、南方の戦局非を告げるに及んでこれら新兵器を急速に完成することが強く要望された。
当社はこれに応じて当時の柳町工場、小向工場を主体として、数千人に及ぶ従業員を動員し完成に努力した。
このことは太平洋戦争の全期間を通じて国内軍需産業面におけるもっとも大きな努力の一つであったと思われるが、そのころすでに総合的な組織力を欠いた戦況下にあっては実効をあげることができず、かえって当時の責任者であった今岡技師長を失うという不運な結果となった。
・日本の磁電管(マグネトロン)の開発の取り組み姿勢について
ここでの問題点は、東芝は技術陣のトップは、磁電管(マグネトロン)の開発に後ろ向きであったという事実である。
タキ14の開発先として日本無線が行えば既に実用化した磁電管(マグネトロン)を持っていたので開発はスムーズに行われ可能性が高い。
更に海軍の2号電波探信儀2型の問題点であった受信機のスーパヘテロダイン方式の採用も早期に可能となったはずである。
また、円形導波管から矩形導波管への転換などマイクロ波技術の大幅な向上が図られる絶好の機会であった。
米国が航空機用のASVのPPI表示レーダーSCR-717を製造しているということは、艦艇用や地上用PPI表示レーダーも開発しているとは容易に想像できるが、当時の陸海軍の電波兵器開発責任者はこのことを理解せず、日本も同じ土俵である航空機に同様なPPI表示レーダーの開発のみに終始している。
海軍であれば、このPPI表示レーダーSCR-717の技術を活用して、艦艇用の水上見張用2号電波探信儀2型の改善とPPI表示化を目指すのが研究開発機関として役目のはずであった。
陸軍でも敗戦末期にタチ28号戦闘機嚮導装置を計画したが、昭和18年中期から陸上用PPI表示レーダーの開発を着手していたら、防空用の戦闘機嚮導に大変役立つシステムとして運営できただろう。
本来なら3Ghzといったセンチ波利用であれば、日本無線の磁電管(マグネトロン)しかないにもかかわらず、開発担当会社としてはまとはずれの東芝や日本電気に開発委託している。
東芝の社史にも<三極管で超短波を発振することには、構造的にも周波数の限界があるが、当社では極力この方針を推進して、戦争末期に当局から磁電管の製作を要請されるまでこの方針を貫き各種の特色ある兵器を完成した。>とあるように、問題は発注側である陸海軍の研究機関のレーダー開発への目標設定とそのマネージメントの欠落であったと指摘せざるを得ない。
・タキ14の高度判定用方法について
タキ14のアンテナについては、下方60度までの電波放出が可能であるが、アンテナは方位角用の回転は可能だが、仰角用の角度調節機能はない。
したがって、自機の真下は電波放出できないので、直接真下までの距離である高度をレーダーで測定することはできない。
タキ14には、アンテナを回転したPPI表示モードに加え、アンテナを停止した状態でAスコープとして使用するモードがある。
Aスコープモードの場合には、ゴニオメーターを使用した測距システムが用意されている。
同様に、米軍のSCR-717にも同様な機能が用意されている。
自機の高度を測定するためには、斜辺の距離とその角度θが分かれば、下記の計算式により三角形の高さとして計算することができる。
H(高度)=R(斜辺にあたる距離データ)sinθ(仰角データ)
しかしながら、上記の設定条件では自機からの仰角θを正確な情報として決定することができないが、本機のアンテナの特性は仰角については水平から下方に60度までのビーム幅を持っていることから、アバウトな情報ではあるがこの60度からθを計算すれば高度情報を得ることは出来る。
なお、タキ14と同系列のタキ34では、<PPIスコープには可変範囲円が現れ、Aスコープにはそれに対応する輝点が軸に沿って現れる。高度測定回路が組み込まれており、地上反射円がちょうど点となるように掃引を遅らせることができる。>との記載があるがタキ14の測距機能のことに言及しているのだろうが、地上反射円が点になる条件はないと思われる。
原文の英文を参考のために掲載する。
A variable range circle appeared on the PPI scope, and a corresponding bright spot along the axis of the A-scope. An altitude measuring circuit was incorporated, by which the sweep was delayed until the ground return circle just closed to a dot.
<資料1>
タチ34のPPIとAスコープの仕組み
A short survey of japanese radar Volume 1からの抜粋
4. 住友通信工業株式会社(住友通信工業株式会社) の項から
1944年11月、多摩研究所は住友通信に5cmの航空機搭載用探索レーダーの開発・製造を指示した。「できるだけ出力と飛距離を大きく」という一点のみであった。
このセット(Tachi-34)の指示器(インジケーター)は、鹵獲されたAPQ-13のものにも影響を受けている。磁気回転スイープコイルを備えたPPIスコープを使用していた。 Aタイプの高度用スコープも提供された。 どちらも 0 ~ 50 km の目盛りがあった。鉱石検波器ミキサーは黄鉄鉱やシリコンにタングステンの針がついたものが使われた。中間周波数は当初100MCで、I.F.増幅器は954型エーコン管8本であった。その後、100MCのI.F.を2段だけ使用し、27MCで7段増やし、I.F.増幅率を高く(80db)、バンド幅(± 2.5 MC)広くするように改造された。
80cmのパラボラアンテナ反射板は、2つの回転ジョイントを通して導波管(ウェーブガイド)伝送路で給電されたものを使用した。アンテナは20~60rpmで回転し、仰角は0°~-60°に可変である。
PPIスコープには可変範囲円が現れ、Aスコープにはそれに対応する輝点が軸に沿って現れる。高度測定回路が組み込まれており、地上反射円がちょうど点となるように掃引を遅らせることができる。
1945年7月に完成した1セットが多摩研の技術者に渡され、網代(東京の西75マイル)の海を見下ろす高い岬にアンテナを取り付けて距離試験が行われた。その結果、陸上目標で12〜15kmの距離しか出ず、満足のいくものではなかった。
<資料2>
A short survey of japanese radar Volume 2
タキ-14
《タキ14(P.P.I.)の研究概要》多摩研究所、魚住少佐著
10cm機(タキ24号)と5cm機(タキ34号)の基礎研究を進め、5cm用の強力な送信機マグネトロンを除き、ほぼ完全な設計データを取得した。 タキ14号との違いは高周波回路の寸法と送信菅の2点のみである。しかし、前述のタキ14型Ⅱ型と同様に、製造開始前に終戦を迎えた。
<資料3>
・PPI画面事例
下図は英国の独逸が鹵獲したPPIレーダーH2Sの技術情報を日本側に提供されたものを整理したものである。
やはりアンテナの下方領域の制約があり、自機の直下は影像として取出すことはできない。
なお、戦略爆撃機に搭載して場弾を投下するのが目的であることから、自機の直下は影像を見る意味はない。
PPI表示では、地面からの反射と市街地の建物からの反射及び湖からの反射を元にしたイメージ図が描かれている当然建物からの反射係数が高いことが分かる。
なお、赤丸は高度常用用指示機(Aスコープ)の画面イメージである。
・ブラウン管の選定について
指示機Bに使用しているブラウン管の型番をみるとSSE-120-G-B-2とあるが、このSSEなる型番は日本電気(住友通信)の固有の型番である。
本機タキ14は東芝が製造したものであるので、本来なら同じく東芝が開発したタチ2のブラウン管BV-120-Aなどの東芝製のブラウン管(当時は東芝製品が標準品として採用されていた)が使用される必要があるが、東芝でもさえPPI表示用レーダーのために必要な残光性のあるブラウン管の製造ができなかったのであろう。
なお、日本電気はSSE-120-Gを戦後も製造したが、120EB1の新型名となっている。
A short survey of japanese radar Volume 1からの抜粋
4. 住友通信工業株式会社。(住友通信工業株式会社)のレーダー個別研究開発内容
残光性スクリーンを備えた陰極線管 (1944 年 9 月~1945 年 5 月)
レーダーに使用するための特別な残光性を持つ蛍光物質の実験的研究が行われた。 このタイプの陰極線管が生産された。 このようなレーダーの観点から、機械的および電気的要件が分析され、これらの機能を組み込んだブラウン管が製造された。
参考文献
Japanese Wartime Military Electronics and Communications, Section 6, Japanese Army Radar, 1 April 1946
「日本無線史」9巻 1951年 電波管理委員会
A short survey of japanese radar Volume 1
A short survey of japanese radar Volume 2
Radionerds.com https://radionerds.com/index.php/SCR-717#p-search
アマチュアのオシロスコープ技術 榎並利三郎 昭和44年6月
東京芝浦電気株式会社八十五年史 昭和38年発行