日本帝国陸海軍電探開発史

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2023年06月

3号電波探信儀1型(31号)のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について

米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、TYPE 220 (TYPE 31)とある
製造会社は日本無線株式会社である。
日本側での制式呼称は、3号電波探信儀1型(31号)である。
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ブロックダイヤグラムでは、次の13のブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit Receiver Range Unit Indicator for waring Synchronizer  Transmitter  Modulator  Attachment
Indicating parts:Constant voltage rectifier  Constant voltage apparatus
Receiving parts:Control box 
Transmitter parts:Control box  Rectifier


空中線(Antenna Unit)
パラボラアンテナ(口径1.8m、アンテナ利得25db)、2重同軸ケーブル(concentric feeder)及び矩形導波管で構成されており、従来の円形導波管と電磁ラッパは廃止されている。
ダイポールアンテナは固定されており、ウルツブルグレーダーのような偏心ダイポールによる等感度方式は採用されていない。
なお、なお、パラボラの反射板は、ブロックダイヤグラムにDia of Parabolic Reflection(パラボラ反射口径)1.8mと記載されている。
 a-2

2号電波探信儀2型系列のセンチ波レーダーを開発しているなか、最大の課題が残ったのは、アンテナの問題である。
この問題の抜本的な改善策として、パラボラアンテナの送受信共用による1本化した点と給電方式として円形導波管から矩形導波管に変更した2点である。

パラボラアンテナの送受信共用による1本化について
2号電波探信儀2型系列のレーダーでは、艦橋上に大きなパラボラアンテナを送信用と受信用の2つ用意して回転させるような場所を確保することができず、小型の電磁ホーン型アンテナを設置するに留まっていた。
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このため、アンテナ利得、方位角や測距測定での測定精度をこれ以上向上することができなかった。
また、メートル波レーダーについては、日米開戦直後のフィリピン占領により米軍のSCR-271を鹵獲したことにより、アンテナの送受共用技術として放電管(TR菅)を利用していることが分かり、これは容易に国産化が可能となった。
しかしながら、センチ波に適用する技術開発ができなかったが、昭和19年後半になって、単一導波管方式が実用化されことにより、米国とは異なった独自技術でこの問題をブレークスルーすることができた。
最初に2号電波探信儀2型改3の円形導波管の単一導波管方式を開発し、更に3号電波探信儀1型(31号)では導波管を全て矩形導波管に変更するとともに、送信波を垂直偏波、受信波を水平偏波の矩形導波管と分波器(duplexer)を用意し、送信波が受信側へ流れる込むことを防止するとともに、受信用の引き込み導波管で45°の位相シフト配管で接続することにより、受信側へ受信信号を引き込むことが可能となった。
3号電波探信儀1型(31号)のパラボラアンテナへの改良について
 a-4

(参考資料)2号電波探信儀2型改3の円形導波管による単一導波管方式について
 a-5

Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, (1945-1946) E-20
日本R.F.伝送路、導波管、導波管継手、誘電体材料より抜粋
潜水艦で使用された2号電波探信儀2型改3レーダーの分波器方式は、特に興味深いものである。この機器は、1本のホーンからなるアンテナがある。 
図4は、この分波器のスケッチである。
送信機とアンテナの間の分枝パイプの上部に、円形導波管に45°の位相シフト配管が配置されている。 この位相シフト配管は、両端が円形で、中央が楕円形になっている。 送信機から位相シフト部までの間の導波管には垂直偏波が存在する。分枝パイプから受信機までの導波管は水平偏波である。 
送信されたエネルギーは、位相シフト配管で45°円偏波にシフトされ、放射される。 円偏波であった受信エネルギーは、水平偏波に45°シフトされ、矩形の配管から受信機へと受け渡される。 このように、ガス放電管やスパークギャップを使用することなく、分波機能を実現している。
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円形導波管から矩形導波管への転換について
戦前からセンチ波による導波管に関する研究は盛んに行われており、当時の導波管の資料の一部を下図に示す。
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この資料のとおり、研究レベルであれば、円形導波管、楕円導波管及び矩形導波管いずれも使用可能であるとの知識は認識されているようである。
それでは、日本海軍は何故円形導波管を選択したかというと、導波管から最終的にアンテナである電磁ラッパで電波を放出するが、レーダーの特質としては、電磁ラッパの方位角を任意に変更する必要がある。
この機能を実現するのであれば、円形導波管であれば、電磁ラッパとの接続点で回転させても放出する偏波面が崩れることはない。
一方、矩形導波管を選択すれば、アンテナの回転のためには、矩形から円形導波管にいったん変換する必要であるが、昭和16年から17年の日本の技術陣にはこれに対応する技術を保有していなかったのだろう。
このため、最初に製作したセンチ波の2号電波探信儀2型では、円形導波管と電磁ラッパの組合せが選択された。
この円形導波管を選択したことによる致命的な問題として指摘できるのが、円形導波管を実験目的で利用することは構わないが、実用レーダー技術として円形導波管を採用する精密加工された円形導波管でなければ電波の偏波面が崩れやすく、また艦内の配管として円形導波管の曲げ加工の難しさなどが表面かし、結果しと受信利得の大幅な悪化を招くことになってしまった。
現代になっても、円形導波管の採用は避けられているのが実態である。

日本が円形導波管から矩形導波管への切換えを考慮した契機は、昭和18年早期のニューギニア戦線の米軍かオーストラリアのB24の搭載されていたASV用のSCR 717-Bの鹵獲(但し鹵獲に関する公式資料はない)による技術情報の獲得と思われる。

矩形から円形導波管変換と円形導波管による回転ジョイント部の事例
b-1-1


更に、ドイツからの英国H2S、H2Xの技術情報及び昭和19年末のB-29のWestern Electric社製のAN/APQ13や米潜Darter搭載のSJレーダーなどにより、マイクロ波技術情報の知見を高めている。

※米軍レーダーの導波管伝送路の仕組みの紹介
米国や英国では下図のとおり、TR管とATR管なる放電管を使用して、単一導波管方式によるアンテナの送受信共用を実現している。
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海軍の22号レーダーと比較すると米国では送信と受信の制御には、TR管とATR管を使用している点が日本側の考え方と相違がある。
b-3


3号電波探信儀1型(31号は、空中線(Antenna Unit)の構造は根本的な改良が図られたが、受信機(Receiver Unit)、送信機(Transmitter Unit)及び同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び見張用指示機(Indicator for waring)については、既存の2号電波探信儀2 型 改4の機能を踏襲している。
したがって、各部の機能説明については、下記のURLを参照願います。
2号電波探信儀2 型 改4のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について


※参考情報
受信機(Receiver Unit)
受信信号の流れを以下に示す。
 c-1


送信機(Transmitter Unit)
送信信信号の流れを以下に示す。
 c-2

従来艦船用の2号電波探信儀2型改4に採用している送信機構成にアタッチメントとして、変調度を強化するため機構を用意している。


同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び見張用指示機(Indicator for waring)について
3号電波探信儀1型(31号)の同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び見張用指示機(Indicator for waring)については、2号電波探信儀2型のシステムと同型なものを採用している。
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A short survey of japanese radar Volume 3に22号の各種指示機の操作方法が具体的に記載される文書があった。
また、Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japanにこれに関連した技術資料があったので、この2点の資料をもとに、この関連機能(同期発振機、測距儀、見張用指示機)に関する技術的な検討を行う。

A short survey of japanese radar Volume 3からの抜粋
ディスプレイは2本のA型ブラウン管を使用する。「見張用指示機」と呼ばれる1本のブラウン管は、60kmまでのすべてのターゲットエコーを表示し、5kmごとに距離目盛が表示される。測距調整用クランクを回すと、3マイクロ秒幅の距離パルスが移動する。2番目のスコープ(測距儀担当オペレーター用)は、測距調整用クランクで選択された距離の約1000mを拡大表示する。スコープの前には拡大鏡があり、5インチブラウン管に相当する大きさになっている。目標物の輝線の先端がスコープに刻まれた垂直線とちょうど重なるようにセットすると、真の測距距離がダイアルで読み取れる。
22号セットの詳細な回路図は付録IIに含まれている。
22号セットのいく分か簡略化されたバージョンである改3は、潜水艦の艦橋内に設置されている。下の写真の1つに示されているように、並べて取り付けられた2つのホーンが使用されている。表示は75 mmの単一のスコープでA型のものである。潜水艦からの測定距離は戦艦に対して約10 kmである。

Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946からの抜粋
音叉と、発振器と緩衝器として使用される2つのRH-2真空管は、2.5Khzの周波数の正弦波を同期回路、掃引回路、および測距装置の位相調整回路に供給するためのものでした。
同期回路は変調器を制御するためのマイナス120ボルトのパルスを正弦波から生成した。
掃引回路は、指示機用掃引電圧と30Khzの電子距離目盛を生成した。
音叉型発振器の正弦波出力も位相調整回路で矩形波に変換し、ブラウン管の輝点パルスとして使用された。

Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan の資料には、2号電波探信儀2型改4の同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び索敵用(見張用)指示機(Indicator for waring)に関する回路図が何故か提供されていないので、2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)の同機能部の回路図を参考のため提示する。
なお、改3は潜水艦搭載のため機器をコンパクト化しており指示機と同期発振機は同一機器内に収容されている。

【捕捉説明】
指示機の仕組みを理解するためには、本機レーダーが使用するパルス繰返し周波数が重要である。
本機のマスター発振器の正弦波によるパルス繰返し周波数の仕様は、2500Hz を使用している。
反射パルスによる理論的な最大測定可能距離は、(光の速度÷反射パルスの繰返し周波数)÷2で定義される。
パルス繰返し周波数2500Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は60Kmとなる。
指示機に必要なブラウン管の水平軸用の「のこぎり波」の掃引周波数とパルス繰返し周波数との関係は以下のとおりである。
「のこぎり波」の掃引周波数 = パルス繰返し周波数 ÷ 2 
このため、「のこぎり波」掃引方式ではこの関係式は成立させるためにパルス繰返し周波数から1/2の周波数を分周する仕組みが必要となる。


【総合コメント】
・使用真空管の違和感について
日米開戦初期には、レーダーの受信機、送信機については、戦前のラジオやテレビジョンで開発されていた既存のST管ベースのものや一部には金属管(メタルチューブ)が使用された。
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昭和18年12月29日「陸海軍真空管生産委員会」を設け、電波兵器の心臓部は真空管あり、従って、真空管の質を飛躍的に向上させ、その量産を図ることが先決となった。
これに呼応し、東芝はH管を、日本無線は万能管としてFM2A05Aを開発/製造し、全ての電波兵器(通信機器を含む)の新型管への換装を行っている。
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たとえば、日本無線が設計した航空機用3式空6号無線電信機4型(H-6) では、受信機や送信機にはFM2A05Aが使用されているが、指示機だけはUY-76といった旧態のST管が使用されている。
 d-3

本機3号電波探信儀1型(31号)の受信機と送信機については旧式のST管を採用し続けおり、指示機については、日本無線にもかかわらず自社製のFM2A05Aを採用せず、東芝の新型のH管に換装されており、ブラウン管については型式すら明示されていない。
どうも測距儀を含む指示機関係構成品の真空管の採用方針を考慮すれば、日本電気のOEM製品の可能性が高いと判断される。
この根拠として下記の資料を提示する。
<参考資料>
続日本無線史<第一部> 昭和47年2月発行からの抜粋
日本電気株式会社(住友通信工業株式会社)
M-22号、M-130号、M-213号指示器 電波探信儀用指示器各種
R金物、β金物 電波探信儀用精密測距器

・測定精度について
本機3号電波標定機1型の測定精度については、測距±100m 方位角±40分(0.67°)とある。
ブロックダイヤグラムを見る限り、偏心ダイポールの回転による等感度方式は採用されていないので、測定精度の向上はパラボラアンテナの効果のみのようだ。
従って、従来の2号電波探信儀2型の精度が測距±500m、方位角2°から3°であることから、測定精度は、測距及び方位角精度は大幅に向上していることがわかる。
 d-4

・方位角表示について
測距用指示機については、本来の目的は目標物の距離を測定することだが、下記の資料により方位角指示機(±15°の範囲内)の機能も併せて表示可能であることが説明されている。
これはパラボラアンテナの水平軸の鏡面を加工した効果と思われる。
これが末尾に添付した資料の中の“ direct indicating maximum method”「直接指示最大法」というものだろうか。

Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan 
E-20 Japanese Centimeter Wave Technique
方位角表示  試作機220型
ほとんどの運用型10センチレーダーは電磁ホーンを採用しており、レーダーは精力的な実験が行われていたが、試作機220型はパラボラアンテナ1個、矩形導波管、デュプレクサを使用した10センチ装置であった。このアンテナのビーム幅は半出力点間で14度、方位精度は±40分(0.667°)とされていた。 レンジと方位の表示は正弦波掃引であった。 図2は方位角表示図である。 ちなみに方位識別は±15度とされていた。
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大阪帝国大学で行われた伊藤淳一博士の実験について簡単に報告する。 いずれの場合も波長は10センチで、長方形の導波管は7.0×4.5センチであった。 この導波管のモード波はH10(基本モードのこと)であった。

参考資料 終戦時の第二海軍技術廠の組織体制について
第4班:「センチメートル波」レーダーの研究
105-S2型と220型レーダーは海軍の艦艇用で、船舶の探知と位置確認を目的としたものである。 2号2型と105-S2型レーダーは送信用と受信用の2つの電磁ホーンを持つもので、その改良を試みた。 この装置は陸上用だけでなく、大型の艦船への搭載も想定されている。 方位角測定は比較法によって得られる。 220型レーダーは放物面反射鏡(直径1.7m)を持ち、最大法で方位を測定する。 中型船、大型船での使用を想定している。 テストでは次のような結果が得られた。
戦艦から戦艦へ
型式     範囲(Km) △R(meter) △e(degrees)        
105-S2     35     100     0.5      
220      40     100     0.6       
注 連続トラッキング ポイント・バイ・ポイント測定 
△Rはレンジの誤差(メートル)
△eは方位の誤差(度)
しかし、終戦間際には大型艦が少なくなったため、レーダーは設置されなかった。 220型では、連続追尾が可能な「直接指示最大法」の取得に取り組んだが、実験は未完成であった。

・日本の射撃用レーダーの問題点について
東芝の射撃用レーダーはウルツブルグ式を採用して、測距及び方位角精度を飛躍的に改善したが、如何せん使用周波数500Mhzの従来の三極管真空管を使用したため、受信及び送信能力も重大な問題を抱えたままとなり、探索距離が短く水上及び対空射撃レーダーとしての採用の是非に問題を残している。
一方、日本無線は磁電管(マグネトロン)による3Ghzを使用したことで、受信機の鉱石検波器採用のスーパーヘテロダイン方式が完成する昭和19年7月まで性能を発揮することができなかった。
ただし、スーパーヘテロダイン方式採用以降では、米軍のマイクロ波レーダーの実物入手もあり、マイクロ波技術への対応には飛躍的技術向上が図られた。
たとえば、円形導波管から矩形導波管への切換え、導波管と回転するパラボラアンテナ管の接続インターフェースの改善がみられる。
また、米国の仕様していた放電管(TR管)を使用しない独自のアンテナの送受共用技術も開発している。
ただし、終戦まで問題が残ったことは、磁電管(マグネトロン)の送信出力が貧弱であったままであったことである。

・海軍のレーダー開発のトータルコーディネータは誰だったのか
31号の機能を見る限り、メーカー側はそれなりの成果を示しているが、問題は海軍技術研究所の技官がレーダーのあるべき姿を明確してから開発を行うべき基本的な姿勢が全く見られない点にある。
31号も日本無線としては最大限の技術を発揮しているのはよく分かるが、本質的な問題改善のための精度向上にはこのシステムにはウルツブルグの測距技術を導入する必要があった。
東芝のウルツブルグ技術を導入した23号(S8、S8A)の成果と問題点をもとに、31号に何故展開できなかったのだろうか。
やはり海軍技術研究所の技官のシステム構築に関する総合的なマネージメントが完全に欠落していた結果をみるのが妥当ではないだろうか。
海軍技術研究所の技官がメーカーの技術者と同じようなレベルの細かな技術的な課題を考えて居たり、逆に陸軍技術研究所のようにメーカー任せきりにしたのも困ったものだ。

・ウルツブルグレーダーとの関係について
日本無線は主管製作会社として陸軍のタチ24でウルツブルグレーダーのコピー品の製作をおこなっているのであれば、精度向上のためはウルツブル式測距儀を採用すべてきであるが、2号電波探信儀2型系列の測距儀は従来品のゴニオメーター方式のままである。
陸軍の開発成果を海軍へは反映できない取り決めを真面目に貫いた結果かもしれないが、日本電気は、ウルツブル式測距儀に関する知見は全くなかった。
しかも、ウルツブル式測距儀を日本でコピー生産したのは東芝の可能性が高い。
というのも、東芝は海軍用の射撃レーダーに、このウルツブル式測距儀技術を活用して各種射撃用レーダーを開発している。

・アンテナ送受信共用システム(単一導波管方式)の更なる改善による開発について
2号電波探信儀2型改3の単一導波管方式を、更に改善して、円形導波管を廃止して、すべて矩形導波管で構成している。
矩形導波管を採用することにより、偏波面の整形もスムーズに行われたものと思われる。

・Gyrostabilizer( ジャイロスタビライザー)の導入について
ブロクダイヤグラムにはGyrostabilizer(船舶揺れ減揺装置)、Amender for trembling
Contents and Amender for revaluingと明記されている箇所があることは、本機は実戦を想定した設置を検討していたことの根拠である。
下図は、戦後の護衛艦のスタビライザープラットホームの設置状況とその機構である。
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参考文献
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉 昭和54年11月 原書房
A short survey of japanese radar Volume 1 1945年11月20日
A short survey of japanese radar Volume 3 1945年11月20日
真空管物語 http://kawoyama.la.coocan.jp/tubestory.htm
無線工学ハンドブック 昭和29年11月 社団法人日本電波協会
アマチュアのオシロスコープ技術 榎並利三郎 昭和44年6月 オーム社
My Home Page(T.Higuchi)   http://home.catv.ne.jp/ss/taihoh/
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

6号電波探信儀1型(浜61)のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について

米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、RADAR FOR MEASURING AIRCRAFT ALTITUDE(HAMA61)とあるように、戦闘機誘導装置の一部機能として「敵機高度及び位置測定用」の用途に新規開発された。
製造会社は東芝芝浦電気株式会社である。
日本側での制式呼称は、6号電波探信儀1型(浜61)である。
なお、米軍へ提出されたブロックダイヤグラムは、一部制御ラインや放電管配置位置(TR管)に不適切な箇所があると判断して、こちらで修正を行っている。
 a-1

ブロックダイヤグラムでは、次の7つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit  Transmitter Unit   Receiver Unit  Indicator-ⅠUnit  Indicator-ⅡUnit  Indicator-ⅢUnit  Indicator-ⅣUnit 

空中線(Antenna Unit)
送信・受信共用アンテナは、偏心ダイポールを1100r.p.m.で回転させ、上下左右の4点からの信号により等感度方式を実現している。
パラボラ反射板は、7mと巨大化している。
 a-2



受信機(Receiver Unit)
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SQ-20(第一混合部(局発955B))→RH-4×2段(第一中間周波増幅(中間周波数21.5Mhz、利得45db))--------> RH-4×4段(第二中間周波増幅)、RH-4(第二混合部 OSC RH-4×2段(中間周波数8.75Mhz、中間周波4段、利得45db))→DH-2(検波)→RH-4×2段(低周波増幅、利得20db)の構成によるダブルスーパーヘテロデイン方式を採用している。
なお、UFH部(2400(第一混合部(局発955B))→RH-4×2段(第一中間周波増幅(中間周波数21.5Mhz、利得45db)))については、パラボラアンテナ部に分離設置されている。
なお、第一混合部は2400から更に新規開発したSQ-20を製造しており、周波数特性の改善を図ったものと思われるが、詳細については全く資料も存在しない。

受信パルス信号の流れ
 c-2_img020-01_受信信号


送信機(Transmitter Unit)
b-1

 RH-2(Amp)→ PH1(Differentiator=パルス整形回路)→ UY-807(Pulse Amp)→P560(Modulator)→RT-326(Oscilator)
送信用同期信号については、測距用指示器内の発振器による1000Hzの正弦波を同期信号として送信機側の入力としている。
初段のRH-2により飽和増幅して正弦波から矩形波を整形し、微分回路によりパルス化し、PH-1によるパルス整形及び増幅を行い、UY-807で更にパルス増幅を行い、P-560シングルによる変調器を経由し、RT-326送信管シングルの自励発振部で10Kwの尖頭電力出力を発生させている。
使用周波数は500Mhzである。
なお、送信管については、RT-321×2から新型管のRT-326シングルに変更しているが、RT-326の詳細については全く資料も存在しない。

送信パルス信号の流れ
 b-2_img020-02_送信信号


指示機
測距用指示機Ⅰ(Indicator-ⅠUnit)、索敵用指示機Ⅱ(Indicator-ⅡUnit)、方位角用指示機Ⅲ(Indicator-ⅢUnit)、仰角用指示機Ⅳ(Indicator-ⅣUnit)の4つの指示機で構成しているが、指示機全体の信号・制御の流れを説明する。
なお、個別機能説明については、タチ31と同じ仕組みであることからそちらを参照願います。
タチ31
http://minouta17.livedoor.blog/archives/31134984.html

使用真空管は、ブラウン管BG-75-A、RH-2、PH-1、高圧整流菅KX-142が使用されている。
 d-1


ウルツブルグ式精密測距儀について
ウルツブルグの精密測距儀については、大変特異な測距方式が採用されている。
移相方式は、2つのゴニオメータ―を採用しているが、入力周波数が1Khzと10Khzで、180度の移相を変化できるゴニオメーターを各1個づつ用意し、しかも歯車機構でこの2個のゴニオメーターを1:10の倍率のもので連結し、どちらのゴニオメーターを回転させていても、連結しているので1:10倍の比率で回転する。
更に、ゴニオメーターを作動させる発振部は、一方は1Khzの粗調整用ゴニオ(GO-2)に注入し、他方は1:10倍のバーニア機構付きで10Khzの密調整用ゴニオに注入する。
この条件下で、2つのゴニオメーターの動作は、一方の1Khzの粗調整用ゴニオのものは180度の角度が、0から150Kmの範囲で比例する。
連結された他方の30Khzの密調整用ゴニオのものは180度の角度は、0から150Km(15Km×10倍)の範囲で比例させるため1/10倍の角度変化で回転することとなる。
逆に、10Khzの密調整用ゴニオ(GO-1)を回転させれば、この時連結された1Khzの粗調整用ゴニアの角度変化は10倍されて回転する。
また、10Khzを注入した密調整用ゴニオメーターの調節により、測距で標定された黒点パルスを表示機の索敵(粗距離)、方向、高低の各ブラウン管に送られ黒点表示することでどの位置の受信パルスが標定されたか正確に認識することができる。
移相調整については、正弦波が条件となるが、一方指示器に表示される受信パルスに対する標定のため、ゴニオメーターの出力として移相された正弦波を矩形波に変形し、微分回路を通してパルス化したものを更に極性反転し、負パルス(黒点パルスと称している)としたものを表示機のブラウン管の第1グリッドに輝度変調として注入する。
これによって、ブラウン管の表示で黒点として交点が非表示状態(カットオフされる)となり、受信パルスに標定した位置(移相)が正確な測距距離となる。
測距機の測定結果については、通常はデジタル表示されるが、ウルツブルグでは複雑な歯車機構のため、測定結果については目盛スケールによる読取りが必要となる。

参考に、黒点生成及び制御の流れを示す。
 d-2_img020-03_黒点信号

各種指示機のブラウン管の水平軸の掃引信号処理の流れを示す。
d-3_img020-04_水平軸信号

 測距用指示機Ⅰ(Indicator-ⅠUnit)内の同期信号発振器の水晶発振子により基本正弦波120Khzを生成し60Khz、10Khz更に1KHzに分周した正弦波を加工して500Hzの「のこぎり波」を生成し、索敵用指示機Ⅱのブラウン管の水平軸に掃引信号として注入する。
なお、測距用指示機Ⅰ(Indicator-ⅠUnit)、方位角用指示機Ⅲ(Indicator-ⅢUnit)、仰角用指示機Ⅳ(Indicator-ⅣUnit)の3つの指示機については、索敵のためにゴニオメーターによる位相調整を行った結果の1KHzの正弦波を直接利用して3つのブラウン管の水平軸に注入する正弦波掃引方式を採用している。

【捕捉説明】
指示機の仕組みを理解するためには、本機レーダーが使用するパルス繰返し周波数が重要である。
本機のマスター発振器の正弦波によるパルス繰返し周波数の仕様は、1,000Hz と10,000Hzを使用している。
反射パルスによる理論的な最大測定可能距離は、(光の速度÷反射パルスの繰返し周波数)÷2で定義される。
パルス繰返し周波数1,000Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は150Kmとなる。
パルス繰返し周波数10,000Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は15Kmとなる。
指示機に必要なブラウン管の水平軸用の「のこぎり波」の掃引周波数とパルス繰返し周波数との関係は以下のとおりである。
「のこぎり波」の掃引周波数 = パルス繰返し周波数 ÷ 2 
このため、「のこぎり波」掃引方式ではこの関係式は成立させるためにパルス繰返し周波数から1/2の周波数を分周する仕組みが必要となる。
なお、上記の掃引方式ではなく、正弦波掃引方式では、パルス繰返し周波数のもとなる正弦波を直接利用する方式であることから、周波数の1/2の加工処理も不要となる。
このため、移相調整器による正弦波掃引方式の採用は大変合理的な選択といえる。
処理イメージを下図に示す。
 d-4

動作イメージについて
索敵(Detector)、仰角(Elevation)、方位角(Azimuth)測距(Range)の4つの指示用ブラウン管の表示例である。

索敵(Detector)指示管に捉えられ初期状態
f-1


直ちに、索敵担当者は目標物を決定し、測距担当者は追尾を開始する。
 f-2


索敵担当者は目標物が黒点表示したことを確認すると、仰角及び方位角担当者は2つの受信パルスを平行にするようにパラボラアンテナの向きを調整して、最後に測距担当者は目標物の距離を精密測定する。
 f-3

なお、移相調整器(ゴニオメーター)による反射波パルスの動きと各指示機との関係は以下のとおりである。
 f-4


【総合コメント】
・ブラウン管の掃引方式について
索敵(Detector)指示管には「のこぎり波掃引」を使用し、その他の仰角(Elevation)、方位角(Azimuth)測距(Range)指示管には、正弦波掃引を採用している。
この理由は、索敵(Detector)指示管では、パルス繰返し周波数1000Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は150Kmの全域を掃引するため、直線性に優れた「のこぎり波」を採用する。
一方、その他の仰角(Elevation)、方位角(Azimuth)測距(Range)指示管は、表示域が見かけ上拡大した画面となるように数km程度の掃引領域しか使用しない。
表示内容も等感度方式による左右パルスの高さ表示が目的のため、「のこぎり波」ほどの正確な直線性は必要がない。
このため、簡便な正弦波掃引が採用されている。
本機のような東芝製品以外にも、日本電気製の陸軍「タチ3」やドイツのウルツブルグでも同様な考え方で製品化されている。
 g-1

・測定精度について
小型ウルツブルでは、ゴニオメーターの使用周波数3750Hzと30Khzを使用していたが、当該巨大ウルツブルグ型の6号電波探信儀1型(浜61)では、1Khzと10Khzを採用したため、理論的な最大測定可能距離は、40Kmから150Kmと拡大できるが、測距精度は、±50mから±200mへと測定誤差は悪化している。
一方、方位角精度については、±0.4°から±0.3°への測定誤差が向上しているが、この理由はアンテナのパラボラ反射板が2.9mから7mに拡大した効果であろう。

・ウルツブルグレーダーの巨大化について
ドイツのウルツブルグ-リーゼ(WÜRZBURG-RIESE FuMG)の開発の経緯について
ウルツブルグDは夜間戦闘用としては探知距離が短すぎたので探知距離を延ばし、探知精度を向上させるためにパラボラアンテナの直径を7.4mに拡大したことで、探知距離は78kmに延び、距離精度15m、水平方向の精度は0.36度、高さ方向の精度は0.9度に向上したウルツブルグ-リーゼ FuMG65が開発され、ベルリン近くの高射砲部隊に配備された。輸送には適さなかったので鉄道で移動可能なウルツブルグ・リーゼ・Eが開発され、1,500基が生産された。
 g-2


一方、日本海軍においても、ウルツブルク型の2号電波探信儀3型(S8A)の測定精度に対する高い評価にもかかわらず、索敵距離が短い欠点の克服することが要求された。
時局も、本土に対するB-29や随伴するP-51などの戦闘機による爆撃への迎撃が急務となっていた。
このためには、敵航空機に対して遠距離から高い精度の測定距離、方位角、仰角(高度)情報が必要であったが、海軍は昭和20年になってもレーダーによる仰角(高度)情報を得ることはできなかった。
そのような背景を基に、2号電波探信儀3型(S8A)をもとに6号電波探信儀1型(浜61)を開発が行われた。
 g-3

なお、陸軍の電波警戒機も、大戦当初は、精度は高くないが距離と方位角の情報を得るしかなかったが、大戦後期の昭和19年7月には、日本電気により付加機能として高度測定用受信機タチ20を急遽整備することが決定されている。

・IFF接続インターフェースについて
米国やドイツでは射撃管制レーダーの開発において当たり前のことだがIFFの接続インターフェースの必要性を認識し用意している。
日本では最後までIFFを実用化することができなかった。
参考事例は、ドイツのウルツブルグ-リーゼ FuMG65である。
 g-4





参考文献
「幻のレーダーウルツブルグ」昭和56年12月 津田清一著
Japanese Wartime Military Electronics and Communications, Section 6, Japanese Army Radar, 1 April 1946
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
「続日本無線史」第一部 昭和47年 続日本無線史刊行会
「元軍令部通信課長の回想」昭和56年 鮫島素直
日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉 原書房
レーダー工学(上巻)
ブラウン管及び陰極線オシログラフ 昭和17年2月発行
無線工学ポケットブック 日本電波協会 オーム社 昭和29年11月発行
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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海軍のウルツブルグ応用電波探信儀の開発について

陸軍へ譲渡の独軍ウルツブルグレーダーの実物見本を積んだ伊号第八潜水艦が昭和18年12月21日に無事呉に到着、レーダーは海軍技術研究所を経由して陸軍の多摩研究所に届けられた。この時点で、陸海軍は同レーダーの国産化に対する方針を協議、陸軍は独軍のものを忠実にコピーし国産化するこことし、海軍はこれを参考にして高角砲に適応した射撃用レーダーを開発するこことなった。

日本陸軍のウルツブル・レーダーの国産化の経緯については下記のURLで整理しています。
ウルツブルグ型電波標定機「タチ24」の国産化の顛末について

ウルツブルグ・レーダーの国産化の「タチ24」の生産計画のみ抜粋する。
<幻のレーダー・ウルツブルグ 津田清一著 抜粋>
昭和19年4月 タチ24の生産計画
1. 現在、日本電気で生産されている「タ号3型電波標定機」の生産を打ち切り、ウルツブルク・レーダー(タチ24)に生産を切り替える方針である。
2. 試作機の完成しは、昭和19年末を目標とし、調整、検査改修完了は、昭和20年2月末、電波兵器実験の完了は、5月末とする。
3.標定機用架台は高射砲架台を官給する。
4.反射鏡は広島県下の東洋工業(株)に日本無線が発注し、多摩研が連絡する。
5.ブラウン管は東芝研究部が担当する。
6.ドイツ電子管は、日本無線が担当する。
7.その他の生産と取り纏めは日本無線、三鷹工場(皇国第294工場)とし、生産責任者は、中島進治社長とする。
8.多摩研究所の責任者は新妻精一中佐、仕事の担当者は山口直文大尉とする。
9.生産遂行上の障害は、多摩研が責任をもって処理をするから佐々木工場長は、陸軍工場の小杉繁造部長にウルツブルグの試作機を、今年末までに是非とも完成せよ、と命じた。

タチ24の開発主体は日本無線であるが、「ブラウン管は東芝研究部が担当する」とある。
なお、このブラウン管というのは、測距用の円周走査ブラウン管(Jスコープ)に関する事項であるが、戦時中では、ブラウン管の製造は、東芝、住友(日本電気)、川西機械及び日立(理研?)の4社しかなく、最大手の東芝が適任であった。
なお、東芝研究部とあるが、東芝電子工業研究所のことである。
文書には記録がないが、精密測距機についても、東芝が担当したことがうかがえる。

海軍としては、既に陸上用射撃管制レーダー四号電波探信儀一型(41号)を開発し、艦船搭載の射撃用電探を四号電波探信儀二型(42号)、更に四号電波探信儀三型(43号)を開発し、艦船用としの実用実験を行ったが、艦の動揺および変針によって、追尾が甚だしく乱調となるなど、種々解決を要する問題が多いことが指摘された。
このため、遂にその目的を達成することができず、陸上用に転用される運命となった。
失敗の要因について考察すると、海軍の対空射撃・サーチライト管制レーダーは日本電気が一括して受注しているが、何れも空中線は送信用と受信用で独立した形態をとっていたため、艦船による変針に対して送信用と受信用の独立したアンテナの指向制御を手動で同期させることが困難であったことが大きな要因と思われる。
艦船用の対空射撃管制レーダーには空中線は送受共用のものが必須要件であったということである。
なお、陸軍のタチ1、タチ3、タチ6及びタキ2も日本電気が開発しているが、空中線については同様な考え方で開発しており、空中線の送受共有した実用化レーダーは敗戦まで開発することはなかったようだ。

一方、対水上射撃用電探が立ち遅れていたため、艦船部隊の夜間戦斗はむしろ回避される傾向にあったので、この種の艦船用対空射撃電探に対する要望も次第に薄らいできた。
海軍としては、航空機優勢の時期に及んでも、なお主力艦の主砲戦斗射撃に固執しており、水上射撃用電探に対する要求項目も、四六センチ大口径砲の最大射程42キロメートルに対し、必要とする探信距離は50キロメートル、測距及び測角精度ならびに安定度と信頼性は主力艦の前檣の頂上の主測距儀と同等又はそれ以上と要求していた。
しかし、昭和17年10月のサボ島沖海戦以後、米軍は暗夜又は狭視界の時にはレーダー射撃をすることが明らかとなり、射撃用レーダーに対する要望が俄然切実度を増してきた。そして、その要求事項も現実的となり、有効距離の増大よりも測的精度と操縦追尾の改善に重点を置くこととなった。

日本海軍の艦船には、メートル波の2号波探信儀1型と3式1号電波探信儀3型及びセンチ波の2号波探信儀2型の3機種が搭載・運用されている。
この内、東芝は海軍の艦船用レーダーとしては、対空及び水上見張用の2号波探信儀1型及び対空見張用の3式1号電波探信儀3型を開発している。

2号波探信儀1型は、最初は測距塔と一緒に部屋が回転する方式のものが戦艦、航空母艦、重巡洋艦に整備された。
その後更に対水上射撃に使用の目的で改良され、二式二号一型改二、改三及び三式二号一型が出来たが、いずれも本格的整備には至らなかった。

※参考資料
仮称三式二号電波探信儀一型指示装置関係取扱説明書案の解説

この二号一型電探は、対空警戒用としては一号三型が出現するに及んで、小型軽便性に於いて遥かに一号三型に劣り、且つ性能もその割に優れていなかったため、一号三型に圧倒され、又水上目標に対しては二号二型と競ったものであるが、性能上本質的には二号二型に及ばないもので、その寿命は二号二型が安定性を増し、実用価値を発揮するまでのものであり、これがために一号三型が出現し二号二型が改善せられた後は、漸次整備の面から脱落して仕舞った。
但し既装備のものは終戦まで使用され、相当の効果を挙げていた。

水上射撃に関しては、センチ波を使用している日本無線の2号波探信儀2型が本命であるはずだが、受信機をスーパーへテロダイン方式に換装する昭和19年7月以前では受信性能が安定せず水上見張としての運用も期待できない状態であった。

一方、陸軍の対空射撃レーダーの開発では、昭和18年9月、佐竹が多摩研三科長となり、早速、東芝の浜田成徳所長に、ウルツブルの技術を活用してタチ4を改造設計する以外に方法がないと、反対する東芝技術陣を説得し、1年以内に佐竹の構想が実現する計画を立てて実行に移した。これがタチ改4のちのタチ31である。
このような情況の中、東芝は高性能の対空射撃レーダー「タチ31」の開発をおこなっていることから、この技術を活用して、今度は海軍が新規に2号3型として新たな水上射撃レーダーを計画したようだ。

海軍の新たな水上射撃レーダーは、ウルツブルクレーダーの基本技術要素である「使用周波数500Mhz」、「ウルツブルク式測距機」、「空中線は偏心ダイポール式のパラボラアンテナ」を要件としている。
大きな問題は、「使用周波数500Mhz」に対応した送信用のパルス送信管と受信用の高周波増幅管が満足なものが開発できるかであった。


開発ステップ1
最初から「使用周波数500Mhz」の水上射撃レーダーを開発するのではなく、まずは「使用周波数500Mhz」を使用した水上見張レーダーの開発を試みた。
日本の公式資料にはないが、米軍のReports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946のブロックダイヤグラム一覧に下記の資料がある。
 a-1

日本側の公式資料には掲載されていないので、制式呼称は不明であるが、RADAR FOR SURFACE WARNING(type F8)とある。
a-2


諸元表
略称--------------------------------------------- F8 
目的---------------------------------------------艦船用対水上見張用
周波数 --------------------------------------- 517Mcs(波長58cm)
繰返周波数----------------------------------- 500cps
パルス幅 -------------------------------------5μs
尖頭電力出力---------------------------------2 kw
測定方式--------------------------------------- 
出力管------------------------------------------3極管 SN7
受信機検波菅---------------------------------240A  OSC 955B
空中線 ----------------------------------------送信用と受信用パラボラ 直径1.74m
IF、mcs .------------------------------------第1中間周波数21.5Mcs  第2中間周波数8.75Mhz
受信利得------------------------------------- IF1段45db  IF2段45db  AF段20db
探知距離--------------------------------------巡洋艦(cruiser)  15km
測距精度--------------------------------------±2km
方位角精度-----------------------------------±3.0°
電源-------------------------------------------AC 220V 3相 50~60c/s
重量------------------------------------------
製造-------------------------------------------東芝
製作台数-------------------------------------

何故水上射撃レーダーを開発するのに、事前に回り道をしたかたちで水上見張レーダーの開発を着手したのか、色々詮索するとこの開発時期を考えると、東芝は陸軍のタチ改4(後のタチ31)を開発で使用するウルツブル型測距機を開発中であったことが考えられる。
本来は、ウルツブル型測距機は日本無線が開発責任会社としてウルツブル型電波標定機(タチ24)のためのものであり、副産物としてタチ24に先行するかたちで陸軍がタチ改4として開発を進めていた時期にあたるものと思われる。
したがって、海軍のウルツブル型レーダーの新規開発に関しては、ウルツブル型測距機が完成していない段階では、「使用周波数500Mhz」、「空中線はパラボラアンテナ」の試験をするためには、機能レベルをダウンさせた水上見張レーダーを開発して、全体構成に問題がないかをテストしたものと思われる。
開発時期は、日本無線がウルツブルグレーダーのコピー品の開発着手が昭和19年4月であるので、それ以降の早い時期で計画されたものと思われる。
陸軍のタチ改4の開発については、昭和18年9月から開発着手しており、このとき改造設計技術資料としては、佐竹の在独報告書とフォダスが携行したテレフンケン社製ウルツブルグの技術資料がベースとなっている。
昭和19年秋には、試作機の試験に合格し、図面を完備して20年正月から大量生産に移ったのである。
肝心な「指示機と精密測距」は岡本少佐と学生2名、後から木塚技師と東芝研究所グループが参画とある。
指示機は、索敵用に75mm口径BG-75Aブラウン管が1本用意されている。

【考 察】
・パラボラアンテナは送信用と受信用の2つの構成である。500Kmz帯での送受共用アンテナの技術が確立していないことを示している。
高周波ケーブルと放電管の組合せ技術が確立していないことの証左である。

・受信アンテナの受信用ダイポールアンテナは偏心ダイポール方式ではなく、ダイポールが固定設置されており、等感度方式は採用されていない。これでは、既存のレーダーと同程度である測方精度±3.0°となっても不思議はない。

・受信用高周波増幅管に“240A”及び局部発振管に“955B”という新型管が採用されている。従来から使用されていたエーコン管の954と955を500Mhz対応した新型管のようだが、果たして性能は満足したのだろうか。
従来管であるエーコン管の954と955を示す。
 a-3


・送信用のパルス送信管“SN7”が採用されているが、尖頭電力出力2Kwと非力である。
このSN7については、陸軍の航空機搭載用射撃管制レーダー“タキ2”(日本電気製)の終段にも採用されており、同じ尖頭電力出力2Kwとある。
送信管については、米国RCAの8012をベースにT305を開発し、更にSN7へと改良したものを使用しているが、小型菅であり非力であることが欠点であった。
 a-4


・パルス繰返し周波数は500Hzを設定していることから、最大測定距離は300Kmとなる。
この距離では、水上見張用の距離範囲を遥かに超えているが、対空監視も考慮した設計であろう。
ブロックダイヤグラムのコメントには、最大索敵範囲は巡洋艦(cruiser) 15kmとあるが、対空に関するコメントはない。
なお、水上見張レーダーとしては、最大索敵範囲は巡洋艦(cruiser)で 15kmが限度あれば実用化は不適格と判断されたのだろう。
この根本的な原因は、尖頭電力出力2Kwと余りにも非力な送信パワーしかないパルス送信管を使用したことが大きな要因と判断される。

【捕捉説明】
観測機(指示機)の仕組みを理解するためには、本機レーダーが使用するパルス繰返し周波数が重要である。
本機の送信機のパルス繰返し周波数の仕様は、500Hz を使用している。
反射パルスによる理論的な最大測定可能距離は、(光の速度÷反射パルスの繰返し周波数)÷2で定義される。
パルス繰返し周波数500Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は300Kmとなる。
また、観測機である指示機に必要なブラウン管の水平軸用の「のこぎり波」の掃引周波数とパルス繰返し周波数との関係は以下のとおりである。
「のこぎり波」の掃引周波数 = パルス繰返し周波数 ÷ 2 


開発ステップ2
この時点では、陸軍のタチ31用の「ウルツブルク式測距儀」が完成若しくは目途が立ったことにより、あらためて水上射撃レーダーを開発するこことなった。
今回は2号電波探信儀3型(S8) なる制式呼称が与えられている。
ウルツブルクレーダーの基本技術要素である「使用周波数500Mhz」、「ウルツブルク式測距技法」、「空中線は偏心ダイポールを使用したパラボラアンテナ」の要件を満足しているが「空中線はパラボラアンテナ」は開発ステップ1と同様に送信用と受信用の2つの形態を踏襲している。
RADAR FOR SURFACE GUN CONTROL MARK23(TypeS8)
 b-1
b-2


2号電波探信儀3型(S8) 
諸元表
略称--------------------------------------------- S8 
目的---------------------------------------------艦船用対水上射撃用
周波数 ---------------------------------------  517Mcs(波長58cm)
繰返周波数----------------------------------- 500cps 3750cps
パルス幅 -------------------------------------2.5μs
尖頭電力出力---------------------------------5 kw
測定方式---------------------------------------等感度法
出力管------------------------------------------三極管 T-321
受信機検波菅---------------------------------2400  OSC 955B
空中線 ----------------------------------------送信用と受信用パラボラ 直径1.74m
IF、mcs .------------------------------------  第1中間周波数21.5Mcs  第2中間周波数8.75Mhz
受信利得------------------------------------- IF1段45db  IF2段45db  AF段20db
探知距離--------------------------------------戦艦22km
測距精度--------------------------------------50m
方位角精度-----------------------------------±3.0°
電源-------------------------------------------AC 220V 3相 50~60c/s
重量------------------------------------------ 1,000 kg
製造-------------------------------------------東芝
製作台数-------------------------------------

ブロックダイヤグラムをみると、RADAR FOR SURFACE WARNING(type F8)にウルツブルグ式測距儀の機能を付加するとともに受信用アンテナのダイポールアンテナは固定式から偏心ダイポール式に変更し、電動モーターによる1200rpmで回転させ等感度方式を実現している。
しかしながら、方位角精度は3°のままで何故か精度の改善が見られない。
また、ウルツブルク式測距儀を導入した成果としては、測距精度±50mとこれは大幅な改善がみられる。
なお、RADAR FOR SURFACE WARNING(type F8)の機能も残していることから、水上見張と水上射撃機能の両方の機能を選択する万能型レーダーを指向している。
指示機は、索敵用と方位角用及び測距用に75mm口径BG-75Aブラウン管が3本用意されている。

【考 察】
・RADAR FOR SURFACE WARNING(type F8)の失敗の原因である送信パワー不足を改善するため、送信管をSN7からT-321に変更して、尖頭電力出力5Kwにパワーアップしている。
左がT-321、右は米国のVT-327であるが、どうも米国のものをコピーしたもののようである。
 b-3

・受信管も更に改善した“2400”なる新開発のエーコン管を採用している。
写真は新開発の高周波増幅管“2400”であるが、従来管の954と同形であることから単に改良版なのかもしれない。
 b-4


・受信機の高周波特性向上対策として第一混合段と第一中間周波増幅段を受信アンテナ部に設置し、第一中間周波増幅信号を高周波ケーブルで接続して艦内部に設置したそれ以降の処理部と分離する設計となっている。

・ウルツブルク式測距儀の導入は測距精度50mとなり大幅な効果があり、米国のものと同水準となっている。

・受信用アンテナのダイポールアンテナは固定式から偏心ダイポール式に変更し、電動モーターによる1200rpmで回転させ等感度方式を実現しているにもかかわらず、方位角精度±3.0°とRADAR FOR SURFACE WARNING(type F8)と同等の性能しか出せていない。
(※本資料の方位角精度±3.0°は、少しも精度が改善できていない点については疑義がある。)
この原因は、受信用と送信用とアンテナが独立した構成としているためパラボラアンテナの指向性を十分に利用できていないのが原因のようである。
このためには、送受共用のパラボラアンテナ構成を構築する必要がある。

・最大索敵範囲は、戦艦で22Kmが限度あれば実用化は不適格と判断されたのだろう。
実際戦艦クラスであれば、射程40Km以上を当然用兵側は要求するだろう。
この根本的な原因は、尖頭電力出力5Kwとパワーアップしたにもかかわらず、索敵距離が伸びず、更なる送信パワー管を必要と判断される。

・日本無線史の第10巻によると、昭和19年7月には二号三型と三号二型の射撃用電探はほぼ完成したのであったが、二号三型は有効距離がやや不足との理由で実装備を断念に至ったとのことである。
この文面の二号三型は、どうやら本機2号電波探信儀3型(S8)のことと判断される。
文面では有効距離がやや不足とマイルドな表現だが、戦艦などの主力艦による砲撃戦の有効距離が22Kmしかなければ落第と判断されたのだろう。
したがって、今後二号三型(S8)は、水上射撃レーダーとしての開発はここで終了し、次の開発ステップ3として、対空用へ用途変更するこことに至ったのが顛末であろう。

開発ステップ3
今回は2号電波探信儀3型(S8A) なる制式呼称が与えられている。
しかしながら、ブロックダイヤグラムを見ると、RADAR FOR ANTIAIRCRAFT GUN CONTROLとあるように、水上射撃用から今度は対空射撃用レーダーに用途変更している。
前述の2号電波探信儀3型(S8)の有効距離が22km前後であれば、対空用の高角砲のための射撃管制レーダーとしては利用できるだろうとの目論見と考えられる。
したがって、2号電波探信儀3型(S8A)の開発着手時期は、昭和19年7月以降と考えられる。
 c-1

 c-2

2号電波探信儀3型(S8A) 
略称--------------------------------------------- S8A 
目的---------------------------------------------対空射撃用
周波数 --------------------------------------- 500Mcs(波長60cm)
繰返周波数----------------------------------- 500cps 3750cps
パルス幅 -------------------------------------2.5μs
尖頭電力出力---------------------------------6 kw
測定方式---------------------------------------等感度法
出力管------------------------------------------三極管 RT-321
受信機検波菅---------------------------------2400  OSC 955B
空中線 ----------------------------------------送受共用パラボラ 直径2.9m
IF、mcs .------------------------------------  第1中間周波数21.5Mcs  第2中間周波数8.75Mhz
受信利得------------------------------------- IF1段45db  IF2段45db  AF段20db
探知距離--------------------------------------25km
測距精度--------------------------------------±50m
方位角精度-----------------------------------±0.4°
電源------------------------------------------- AC 220V 3相 50~60c/s
重量------------------------------------------1,000 kg
製造-------------------------------------------東芝
製作台数-------------------------------------

懸案だったパラポラアンテナの1本化を実現している。
送信パワー不足対応として、T-321からRT-321へ変更し、尖頭電力出力5Kwから6Kwへとパワー増大が図られている。
指示機は、索敵用、方位角用、仰角用及び測距用に75mm口径BG-75Aブラウン管が4本用意されている。
これにより探知距離が22Kmから25Kmへと拡大している。
更に、測距精度は±50m、方位角精度は±0.4°と驚異的精度を実現することにより、米海軍と同レベルの精度を持った射撃管制レーダーとなった。
ただし、公式記録ではこの2号電波探信儀3型(S8A)の完成時期や展開方針などの資料はないが、もう少し早い時期に完成していれば、駆逐艦などの小型艦艇に搭載すれば対空、対水上両用の射撃管制レーダーとして活躍することが出来たのだろう。
勿論、レイテ海戦の敗北を受けて、搭載すべき艦船もなく、基本的には射撃管制レーダーに対する用兵側の要望は急激に下火になっていった。

【考 察】
・パラボラアンテナの1本化の技術については、ウルツブルグレーダーで採用されたポザル整合回路による送受信制御方式を採用せず、米国式の送受切替放電管を採用している。

・給電線方式については、通常センチ波では導波管が使用されるが、センチ波といっても50cmの波長としては比較的長い波長を使用していることから、同軸管(日本では2重同軸ケーブルと称している?)が採用されている。
 c-3


なお、ブロックダイヤグラムでは、Gas Discharge Tubeと記載されているのが放電管やTR管と呼ばれ送受切替機能を提供している。


開発ステップ4
今回は6号電波探信儀1型(S8B) なる制式呼称が与えられている。
ブロックダイヤグラムを見ると、RADAR FOR MEASURING AIRCRAFT ALTITUDE(HAMA61)とあるように、戦闘機誘導装置の一部機能として「敵機高度及び位置測定用」に用途に新規開発された。
 d-1
d-2

6号電波探信儀1型 S8B
略称--------------------------------------------- 61号、S8B、浜六一
目的---------------------------------------------敵高度及び位置測定用
周波数 --------------------------------------- 500Mcs(波長60cm)
繰返周波数----------------------------------- 1000cps 
パルス幅 -------------------------------------2.5μs
尖頭電力出力---------------------------------10 kw
測定方式---------------------------------------等感度法
出力管------------------------------------------三極管 RT-326
受信機検波菅---------------------------------SQ-20  OSC 955B
空中線 ----------------------------------------送受共用パラボラ 直径7.0m
IF、mcs .------------------------------------  第1中間周波数21.5Mcs  第2中間周波数8.75Mhz
受信利得------------------------------------- IF1段45db  IF2段45db  AF段20db
最大探知距離--------------------------------130km
標定距離--------------------------------------35km
測距精度--------------------------------------±200m
方位角精度-----------------------------------±0.3°
電源------------------------------------------- AC 220V 3相 50~60c/s
重量-------------------------------------------
製造-------------------------------------------東芝
製作台数-------------------------------------

パラボラ反射鏡を直径7mに改造し、距離(最大探知距離130km、標定距離35km、測距誤差正負200m)及び高度(測角精度上下0.3度、最低仰角0.3度)を計測し、これを計算機に入れて、敵機の高度及び進路を算出する。
指示機は、索敵用、方位角用、仰角用及び測距用に75mm口径BG-75Aブラウン管が4本用意されている。

【考 察】
・指示機の仕組みを理解するためには、本機レーダーが使用するパルス繰返し周波数が重要である。
本機のマスター発振器の正弦波によるパルス繰返し周波数の仕様は、1000Hz と10,000Hzを使用している。
反射パルスによる理論的な最大測定可能距離は、(光の速度÷反射パルスの繰返し周波数)÷2で定義される。
パルス繰返し周波数1000Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は150Kmとなる。
パルス繰返し周波数10,000Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は15Kmとなる。
ウルツブルグ式精密測距儀については、ウルツブルグのオリジナルの使用周波数を遠距離監視用に変更している。
移相方式は、2つのゴニオメータ―を採用しているが、入力周波数が1Khzと10Khzで、180度の移相を変化できるゴニオメーターを各1個づつ用意し、しかも歯車機構でこの2個のゴニオメーターを1:10の倍率のもので連結し、どちらのゴニオメーターを回転させていても、連結しているので1:10倍の比率で回転する。

・パラボラアンテナは、従来型の1.74mから7mと巨大化している。
左が6号電波探信儀1型 S8B、右がドイツのWÜRZBURG-RIESEである。
 d-3


・送信管をRT-321からRT-326に変更して、尖頭電力出力10Kwにパワーアップしている。
オリジナルのウルツブルグの尖頭電力出力が10Kwであったので、やっと同じ送信パワーとなったことになる。

・警戒監視用の500Hzのパルス繰返し周波数は廃止されている。


【総合コメント】
・何故、水上射撃レーダーなのに2号3型の名称を付与したのか。
水上射撃レーダーであれば、3号XX型の名称付与とすべきである。
命名附与基準は以下のとおりである。
1号:陸上装備見張用
2号:艦上装備見張用
3号:艦船装備対水上射撃用
4号:陸上装備対空射撃用
5号:平面図形的指示器(PPI)付きのもの
6号:陸上装備航空機誘導用

試験用に水上見張用レーダーとして試作したRADAR FOR SURFACE WARNING(Type F8)には、公式記録はないが、2号電波探信儀3型(F8) の制式名称を付与したのだろうか。
順調に開発が進み、今度は水上射撃レーダーには、系列名称として2号電波探信儀3型(S8)を付与したのではないだろうか。

・パルス送信管はウルツブルグのものを何故採用しなかったのか。
500Mhz帯のパルス送信管には、SN7、T-321、RT-321更にRT-326と毎回開発を進めるごとに送信管を新規に開発したのが実態のようだ。
しかも、尖頭電力出力を最後に開発した6号電波探信儀1型 (S8B)でやっと10Kwの出力パワーを確保したが、日本ではUHF帯の送信用三極管の開発は困難だったということだろう。
このような遠回りの開発よりも、ドイツからのウルツブルグレーダーの真空管の技術資料も提供されており、この真空管の製造には日本無線が担当していた。
問題のウルツブルグ送信管LS-180も日本無線から提供を受けるか、東芝若しくは日本電気が製造すれば簡単に問題は解決していたのではないだろうか。
ウルツブルグ送信管LS-180
 d-4-LS-180送信管


※参考情報 水上射撃用レーダーの測定精度について
日本 2号電波探信儀2型 
対戦艦35キロメートル、対駆逐艦17キロメートル、
測距精度500メートル、
測角精度3°

日本 2号電波探信儀3型(S8) 
探知距離 対戦艦22km
測距精度 ±50m
方位角精度 ±3.0°

日本 2号電波探信儀3型(S8A) 
探知距離 25km
測距精度 ±50m
方位角精度 ±0.4°
仰角精度 ±0.4°

米国 SGレーダー
大型船で15マイル(24km)
レンジ精度は±100ヤード(91メートル)
方位精度:±2°

米国 フェイズド・アレイレーダー FH Mark 8
40,000ヤード(約36km)。
レンジ精度:±15ヤード(13.72m 
方位精度:0.1°から2ミル(0.11°)

米国 艦船搭載射撃制御レーダー FD Mark 4
駆逐艦で16,000ヤード、戦艦で25,000ヤード(22.8km)
距離精度、±40ヤード(36.5m)
方位精度±4ミル(0.23°)
仰角精度、(10°以上)±4ミル(0.23°)

 d-5-陸軍レーダーの性能比較





参考文献
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
「続日本無線史」第一部 昭和47年 続日本無線史刊行会
「元軍令部通信課長の回想」昭和56年 鮫島素直
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』





2号電波探信儀3型(S8A)のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について

米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、RADAR FOR ANTIAIRCRAFT GUN CONTROL (TYPE-S8A)とある
製造会社は東芝芝浦電気株式会社である。
日本側での制式呼称は、2号電波探信儀3型(S8A)である。
なお、米軍へ提出されたブロックダイヤグラムは、一部制御ラインや放電管配置位置(TR管)に不適切な箇所があると判断して、こちらで修正を行っている。
 a-1


ブロックダイヤグラムでは、次の7つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit  Transmitter Unit   Receiver Unit  Indicator-ⅠUnit  Indicator-ⅡUnit  Indicator-ⅢUnit  Indicator-ⅣUnit 

空中線(Antenna Unit)
送信・受信共用アンテナは、偏心ダイポールを1200r.p.m.で回転させ、上下左右の4点からの信号により等感度方式を実現している。
なお、パラボラの反射板は、ブロックダイヤグラムにReflection Dia(反射口径)2.9mと記載されているが、写真を見る限り実際はかなり小型のものに見える。
 a-2

a-3ウルツブルグアンテナ構造無題-01

a-4

a-5


受信機(Receiver Unit)

c-1

c-2


2400(第一混合部(局発955B))→RH-4×2段(第一中間周波増幅(中間周波数21.5Mhz、利得45db))--------> RH-4×4段(第二中間周波増幅)、RH-4(第二混合部 OSC RH-4×2段(中間周波数8.75Mhz、中間周波4段、利得45db))→DH-2(検波)→RH-4×2段(低周波増幅、利得20db)の構成によるダブルスーパーヘテロデイン方式を採用している。
なお、UFH部(2400(第一混合部(局発955B))→RH-4×2段(第一中間周波増幅(中間周波数21.5Mhz、利得45db)))については、パラボラアンテナ部に分離設置されている。

受信パルス信号の流れ

c-3_受信信号の流れ



送信機(Transmitter Unit)

b-1

b-2


RH-2(Amp)→ PH1(Differentiator=パルス整形回路)→ UY-807(Pulse Amp)→P560(Modulator)→RT-321×2(Oscilator)
送信用同期信号については、対空見張モードでは索敵用指示機内の発振器による500Hzの正弦波を、対空射撃モードでは測距用指示器内の発振器による3750hzの正弦波を同期信号として送信機側の入力としている。
初段のRH-2により飽和増幅して正弦波から矩形波を整形し、微分回路によりパルス化し、PH-1によるパルス整形及び増幅を行い、UY-807で更にパルス増幅を行い、P-560シングルによる変調器を経由し、RT-321送信管プッシュプルの自励発振の方式を採用している。
なお、RT-321送信管プッシュプルの自励発振部はパラボラアンテナ部分に独立・分離して設置している。
使用周波数は500Mhzである。

送信パルス信号の流れ
 b-3_送信信号の流れ
b-4



指示機
測距用指示機Ⅰ(Indicator-ⅠUnit)、索敵用指示機Ⅱ(Indicator-ⅡUnit)、仰角用指示機Ⅲ(Indicator-ⅢUnit)、方位角用指示機Ⅳ(Indicator-ⅣUnit)の4つの指示機で構成しているが、指示機全体の信号・制御の流れを説明する。
なお、個別ブロックの機能説明については、タチ31と同じ仕組みであることからそちらを参照願います。
タチ31

使用真空管は、ブラウン管BG-75-A、RH-2、PH-1、高圧整流菅KX-142が使用されている。
 e-1


ウルツブルグ式精密測距儀について
ウルツブルグの精密測距儀については、大変特異な測距方式が採用されている。
移相方式は、2つのゴニオメータ―を採用しているが、入力周波数が3.75Khzと30Khzで、180度の移相を変化できるゴニオメーターを各1個づつ用意し、しかも歯車機構でこの2個のゴニオメーターを1:8の倍率のもので連結し、どちらのゴニオメーターを回転させていても、連結しているので1:8倍の比率で回転する。
更に、ゴニオメーターを作動させる発振部は、一方は3.75Khzの粗調整用ゴニオ(GO-2)に注入し、他方は1:8倍のバーニア機構付きで30Khzの密調整用ゴニオに注入する。
この条件下で、2つのゴニオメーターの動作は、一方の3.75Khzの粗調整用ゴニオのものは180度の角度が、0から40Kmの範囲で比例する。
連結された他方の30Khzの密調整用ゴニオのものは180度の角度は、0から40Km(5Km×8倍)の範囲で比例させるため1/8倍の角度変化で回転することとなる。
逆に、30Khzの密調整用ゴニオ(GO-1)を回転させれば、この時連結された3.75Khzの粗調整用ゴニアの角度変化は8倍されて回転する。
また、30Khzを注入した密調整用ゴニオメーターの調節により、測距で標定された黒点パルスを表示機の索敵(粗距離)、方向、高低の各ブラウン管に送られ黒点表示することでどの位置の受信パルスが標定されたか正確に認識することができる。
移相調整については、正弦波が条件となるが、一方指示器に表示される受信パルスに対する標定のため、ゴニオメーターの出力として移相された正弦波を矩形波に変形し、微分回路を通してパルス化したものを更に極性反転し、負パルス(黒点パルスと称している)としたものを表示機のブラウン管の第1グリッドに輝度変調として注入する。
これによって、ブラウン管の表示で黒点として交点が非表示状態(カットオフされる)となり、受信パルスに標定した位置(移相)が正確な測距距離となる。
測距機の測定結果については、通常はデジタル表示されるが、ウルツブルグでは複雑な歯車機構のため、測定結果については目盛スケールによる読取りが必要となる。

参考に、黒点生成及び制御の流れを示す。
 e-2_黒点の流れ


各種指示機のブラウン管の水平軸の掃引信号処理の流れを示す。
e-3_ブラウン管水平軸の信号

 
対空見張モード
索敵用指示機Ⅱ(Indicator-ⅡUnit)内の同期信号発振器により500Hzの正弦波を発生させて、この正弦波を加工して250Hzの「のこぎり波」を生成し、索敵用指示機Ⅱのブラウン管の水平軸に掃引信号として注入する。
なお、対空見張モードでは、測距用指示機Ⅰ(Indicator-ⅠUnit)、仰角用指示機Ⅲ(Indicator-ⅢUnit)、方位角用指示機Ⅳ(Indicator-ⅣUnit)の3つの指示機は機能しない。

対空射撃モード
測距用指示機Ⅰ(Indicator-ⅠUnit)内の同期信号発振器の水晶発振子により基本正弦波120Khzを生成し30Khz、更に3750Hzに分周した正弦波を加工して1875Hzの「のこぎり波」を生成し、索敵用指示機Ⅱのブラウン管の水平軸に掃引信号として注入する。
なお、測距用指示機Ⅰ(Indicator-ⅠUnit)、仰角用指示機Ⅲ(Indicator-ⅢUnit)、方位角用指示機Ⅳ(Indicator-ⅣUnit)の3つの指示機については、索敵のためにゴニオメーターによる位相調整を行った結果の3750Hzの正弦波を直接利用して3つのブラウン管の水平軸に注入する正弦波掃引方式を採用している。

【捕捉説明】
指示機の仕組みを理解するためには、本機レーダーが使用するパルス繰返し周波数が重要である。
本機のマスター発振器の正弦波によるパルス繰返し周波数の仕様は、3750Hz と30,000Hzを使用している。
反射パルスによる理論的な最大測定可能距離は、(光の速度÷反射パルスの繰返し周波数)÷2で定義される。
パルス繰返し周波数3750Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は40Kmとなる。
パルス繰返し周波数30,000Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は5Kmとなる。
指示機に必要なブラウン管の水平軸用の「のこぎり波」の掃引周波数とパルス繰返し周波数との関係は以下のとおりである。
「のこぎり波」の掃引周波数 = パルス繰返し周波数 ÷ 2 
このため、「のこぎり波」掃引方式ではこの関係式は成立させるためにパルス繰返し周波数から1/2の周波数を分周する仕組みが必要となる。
なお、上記の掃引方式ではなく、正弦波掃引方式では、パルス繰返し周波数のもとなる正弦波を直接利用する方式であることから、周波数の1/2の加工処理も不要となる。
このため、移相調整器による正弦波掃引方式の採用は大変合理的な選択といえる。
処理イメージを下図に示す。
 e-4

動作イメージについて
索敵(Detector)、仰角(Elevation)、方位角(Azimuth)測距(Range)の4つの指示用ブラウン管の表示例である。

索敵(Detector)指示管に捉えられ初期状態
f-1

 
直ちに、索敵担当者は目標物を決定し、測距担当者は追尾を開始する。
f-2

 
索敵担当者は目標物が黒点表示したことを確認すると、仰角及び方位角担当者は2つの受信パルスを平行にするようにパラボラアンテナの向きを調整して、最後に測距担当者は目標物の距離を精密測定する。
 f-3

なお、移相調整器(ゴニオメーター)による反射波パルスの動きと各指示機との関係は以下のとおりである。
 f-4


【総合コメント】
・ブラウン管の掃引方式について
索敵(Detector)指示管には「のこぎり波掃引」を使用し、その他の仰角(Elevation)、方位角(Azimuth)測距(Range)指示管には、正弦波掃引を採用している。
この理由は、索敵(Detector)指示管では、パルス繰返し周波数3750Hzを採用すると、理論的な最大測定可能距離は40Kmの全域を掃引するため、直線性に優れた「のこぎり波」を採用する。
一方、その他の仰角(Elevation)、方位角(Azimuth)測距(Range)指示管は、表示域が見かけ上拡大した画面となるように数km程度の掃引領域しか使用しない。
表示内容も等感度方式による左右パルスの高さ表示が目的のため、「のこぎり波」ほどの正確な直線性は必要がない。
このため、簡便な正弦波掃引が採用されている。
本機のような東芝製品以外にも、日本電気製の陸軍「タチ3」やドイツのウルツブルグでも同様な考え方で製品化されている。
 w-1


・パラボラアンテナの姿勢制御について
パラボラアンテナの構造を写真で観察すると、方位角についてアンテナの台座自体が回転する構造に見えるが、仰角についてはアンテナの向きを変える制御ができない構造に見える。
しかしながら、ブロックダイヤグラムのコメントには、Selsyn Shaft 90°/rから10°/rと記載されているので艦内からセルシンモーター制御によりパラボラアンテナの仰角の姿勢制御も可能なようだ。
方位角の姿勢制御は、360°/rから20/r°とある。

・電波妨害対策について
日本の射撃管制用レーダーについては、米軍の空襲時にはRCM機(Radar Counter Measure Aircraft)の電波妨害によるレーダー機能が無効化されてしまう。
敗戦末期になっても、新規開発のレーダーにこの電波妨害対策の機能を考慮しないのは理解できない。

・IFF接続インターフェースについて
米国やドイツでは射撃管制レーダーの開発において当たり前のことだがIFFの接続インターフェースの必要性を認識し用意している。
日本では最後までIFFを実用化することができなかった。
参考事例はドイツのウルツブルグレーダーである。
 Wuerzburg_radar_iff_antennen





参考文献
「幻のレーダーウルツブルグ」昭和56年12月 津田清一著
Japanese Wartime Military Electronics and Communications, Section 6, Japanese Army Radar, 1 April 1946
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
「続日本無線史」第一部 昭和47年 続日本無線史刊行会
「元軍令部通信課長の回想」昭和56年 鮫島素直
日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉 原書房
レーダー工学(上巻)
ブラウン管及び陰極線オシログラフ 昭和17年2月発行
無線工学ポケットブック 日本電波協会 オーム社 昭和29年11月発行
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日本海軍の艦艇用対水上射撃用電波探信儀の開発の顛末について

日本海軍の艦艇用対水上射撃用電波探信儀の開発の顛末については、鮫島素直著の「元軍令部通信課長の回想」に詳細な説明をされていることからこの内容を抜粋して紹介するととともに、その解説及び捕捉説明を行う。 

対水上射撃用電波探信儀
要望
日本海軍の対水上射撃用電波探信儀に対する要望は、戦争の初期から一貫して非常に強烈であった。戦前から毎夏土佐沖で行われる聯合艦隊の各種戦技の中での最大の盛事は、主力艦の主砲戦斗射撃であり、水上射撃用電波探信儀に対する要求事項も、当然主力艦の主砲に対するものが提示された。すなわち46センチ大口径砲の最大射程42キロメートルに対して、必要とする探信距離は50キロメートル、測距及び測角精度ならびに安定度と信頼性は主力艦の前檣の頂上の主測距儀と同等又はそれ以上と要求され、その上、重量容積及び装備場所の選定についても相当過酷な制限がつけられた。そして、技術陣がこれらの問題解決の糸口も見出し得ないまま時間は経過した。
そのうち、昭和17年10月のサボ島沖海戦以後、米軍は暗夜又は狭視界の時には電探射撃することが明らかとなり、射撃用電探に対する要望が俄然切実度を増してきた。そして、その要求事項も現実的となり、有効射程の増大よりも測的精度と操縦追尾の改善に重点を置くことになった。

【解説及び捕捉説明】
米海軍の水上見張及び射撃用管制レーダーをサボ島沖海戦の事例に基づいて紹介する。
サボ島沖海戦
第二次世界大戦のガダルカナル島周辺において1942年(昭和17年)10月11日深夜〜12日に日本軍とアメリカ軍の間で行われた海戦である。
日本側は、輸送部隊は水上機母艦2隻と駆逐艦6隻、支援部隊は第六戦隊は青葉、衣笠、古鷹を含む5隻と第11駆逐隊の第2小隊の吹雪、初雪であった。
一方、米国側は、アメリカ艦隊は「巡洋艦2隻、駆逐艦6隻」という日本艦隊を迎撃するために駆逐艦3-巡洋艦2-駆逐艦3という布陣でサボ島近海を哨戒していた。
そんな中、2125にヘレナ(軽巡洋艦)のSGレーダーが日本艦隊を捉え、ヘレナは「日本艦隊はアメリカ艦隊より方位315度、距離2万7,700ヤード(約2万5,300m)の場所にあり、速度20ノット、針路120度で進行中」と報告した。
直後にソルトレイクシティーのレーダーも日本艦隊を捉えたが、両艦の報告は旗艦であるサンフランシスコに届いておらず、この時点でスコット少将は日本艦隊が接近していることを知らなかった。
なお、旗艦のサンフランシスコは最新型のSGレーダーを装備していなかった。

1943年当時の米艦船の水上見張、射撃用レーダーの搭載状況について
 a-1

左からSGレーダー、フェイズド・アレイレーダー FH Mark 8、艦船搭載射撃制御レーダー FD Mark 4である。
 a-2

アメリカ艦隊のヘレナ(軽巡洋艦)のSGレーダーが日本艦隊を捉え、ヘレナは「日本艦隊はアメリカ艦隊より方位315度、距離2万7,700ヤード(約2万5,300m)の場所にあり、速度20ノット、針路120度で進行中」と報告した。
戦史などでは、このSGレーダーにより、射撃をおこなったような記述が多くされているが、実際の射撃管制レーダーは、フェイズド・アレイレーダー FH Mark 8若しくは艦船搭載射撃制御レーダー FD Mark 4で行われるはずなのだが、このような射撃管制運用に関する記録は残されていない。

SGレーダーの表示画面
このSGレーダーでは、射撃用の精密な方位角や測距情報は得られない。
あくまで、左画面から測距測定用画面、方位角測定用画面、PPI画面は水上見張用のものである。
 a-3

説明と用途:敵の水上艦船を捜索し、水上艦船による攻撃を調整し、航行を支援するために駆逐艦や大型艦船に搭載されるマイクロ波サーチセット。PPIと "A "スコープに距離と方位を提供する。SGにはIFF(識別)接続の規定があり、遠隔のPPIに接続する装置も供給されている。
性能:信頼性の高い最大レンジは、大型船で15マイル(24km アンテナの高さは約100フィート)。レンジ精度は±100ヤード(91メートル)。方位精度:±2°。

フェイズド・アレイレーダー FH Mark 8
管制室には、6名で運用されている。
 a-4

説明:主砲台用マイクロ波火器管制機。“A "と "B "表示。索敵レーダーで目標指定。IFF接続の規定があり、目標の識別が可能。
用途:Mark 8はMark 34とMark 38の射撃指揮装置と共に使用される。方位と距離の両方を提供する。砲弾の飛翔を探知することができる。この装置は6インチ以上の砲に使用される。
性能:信頼できる最大射程(水上120フィートのアンテナを持つ巡洋艦の場合): 40,000ヤード(約36km)。信頼できる最短距離 500ヤード(457m) レンジ精度:±(15ヤード(13.72m)+レンジの0.1%) 方位精度:0.1°から2ミル(0.11°)。仰角リミット 水平に対して+55°~-20°;クロスレベルは不可。

艦船搭載射撃制御レーダー FD Mark 4
レーダーアンテナな下部の管制室の側面には日本の艦艇の撃沈を表すマークが見える。
a-5

 
説明:対空対水上両用砲台用のMedium wave火器管制機。”A "型距離表示器と2つのピップマッチングトレインと仰角表示器。索敵レーダーは目標指定を行う。装備には目標識別のためのIFF接続の規定がある。
用途:Mark 4は5インチ砲を搭載した両用砲台Mk.33とMk.37に使用される。仰角、方位、射程が得られるが、仰角が10°以下では誤差が生じやすい。目標が見える範囲に入る前にコンピューターにデータを取り込むのに役立つ。マーク12は、マーク37ディレクタ(スクエア・バック・タイプ)のマーク4に代わる高出力セットとなる。
性能:マーク4の信頼できる最大射程:5,000'のPBYで35,000ヤード、駆逐艦で16,000ヤード、戦艦で25,000ヤード(22.8km)。最小射程1,000ヤード。距離精度、±40ヤード(36.5m)。方位限界、ディレクタートレインで720°。方位精度±4ミル(0.23°)。仰角限界、+110°から-20°。仰角精度、(10°以上)±4ミル(0.23°)。マーク12の場合、PBYの最大信頼距離は40,000ヤード。測距精度は±25ヤード(22.8m)、仰角(7°以上)と読み取り精度は±2ミル(0.11°)。


見張用電探の改善流用-失敗
そこでまずは既装備電探の改善で対応することが試みられた。二号電探一型波長1.5メートルのアンテナを二組に分け、また二号電探二型(波長10センチ)の受信電磁ラッパを二個とし、それぞれアンテナ切換装置を付属させ、左右両部の切換えを行って等感度受信方式を採用することより、測角精度を向上させ、また精密測距装置を付加して測距精度をも高めることにした。この両方式のものを戦艦大和に仮装備し、対水上射撃用電波探信儀としての性能実験を、昭和18年7月から8月にかけて実施した。その結果、部分的に不備な点はあるが、それらの改善を行うならば実用可能であるとの結論を一応得た。しかし、その後も二号二型の受信機の作動安定化の研究は依然として思うように進まず、また切換装置も不安定であったので、当分整備の線からははずされることになり、取り敢えずの対応策として二号一型系を昭和18年末から翌19年1月にかけ、巡洋戦艦及び重巡洋艦に整備することにした。しかし、調整困難で信頼性が不十分であったので、装備済のものも撤去し、対空見張用に復旧されることになった。

【解説及び捕捉説明】
二号電探二型(波長10センチ)の受信電磁ラッパを二個に改造
資料がないので、改造前の電磁ラッパを参考に掲載するが、この受信電磁ラッパを左右に2個つけて切換装置による等感度方式で運用されたのだろう。
 b-1


二号一型系
その後更に対水上射撃に使用の目的で改良され、二式二号一型改二、改三及び三式二号一型が出来たが、いずれも本格的整備には至らなかった。
※参考資料
仮称三式二号電波探信儀一型指示装置関係取扱説明書案の解説
※参考資料
文中にある「切換装置も不安定であったとのこと」だが、東芝は従来技術の空中線切換装置に機械式スイッチング方式から新技術を使った発電板方式を新たに採用しているが、この部分に何らかの問題が生じたようだ。
※参考情報(一部抜粋のみ)
仮称三式二号電波探信儀一型指示装置関係取扱説明書案 
切換器
本器は指示機と併用して測角する場合に使用するものである。
先ず空中線に取付けた切換装置より空中線集射方向を変えると同時に切換装置の発電板より正負の衝撃波を受け V401 にてこの衝撃波を夫々正及負の衝撃波に分離する。
即ち正の衝撃波は R402 に負の衝撃波は R403 に得る。


新開発
このような技術的手詰まり情況に対して、戦局はいよいよ切迫しつつあった。この窮境を打開するため、昭和19年3月、射撃用電波探針儀促進に関する会議が海軍省で開かれた。この会議は非常に緊張した空気に包まれた中で進められ、その論議の中で「使用できぬ主砲5砲台よりも使用可能な主砲4砲台の砲が有効である。1砲台撤去しても射撃用電探を装備すべきだ」とか「今年の6月末までには是が非でもこの装置を整備に移したい。この機会を逸したら、この装置を実用する機会は永久に失われるであろう」などの有力な意見が述べられた。そこで重量と容積に対する制限は著しく緩和され、精度も多少悪くとも一応射撃ができる電波探信儀を6月末までに整備すべしという厳重な決議が採択された。
このような切羽詰まった要求を受けた技術陣はあらためて奮起し決議の線にそって懸命な努力を集中した。
その研究実験の成果として登場したのが、二号三型、三号二型、三号一型及び三号三型の各種電探である。
二号三型は波長五八センチメートルの極超短波(UHF)を使用し、直径1.6メートルのパラボラ形反射鏡を使用したものであった。
三号二型は波長10センチメートルを使用する二号二型系であるが、できる限り能力の増大をはかるため従来使用していた電磁ラッパだけを回転する方式を廃し、機器も電磁ラッパとともに回転する方式とし、その上に偏波面を整正する目的をもって矩形電磁ラッパを採用し、しかもこれを大型にして空中線利得20デシベル以上増大した。左右2個の受信電磁ラッパの切換装置としてはラッパの喉元におかれた半円形のアルミニウム板を電動機で回転する方式によるものが用いられた。
三号一型は三号二型が重量、容積が大きく観戦装備の現実を無視し過ぎるという避難に対して計画されたもので、二号三型に使用していた反射鏡と架台を用い、導波管は架台内に治め、これと本体との間は同軸ケーブルで接続し、アンテナだけ回転する方式としたものである。
三号三型は既装備の二号二型に小改造をほどこし、従来の有効距離を短縮することなしに測角及び測距精度を要求値を高めようとする目的で計画されたもので、従来の旋回装置に矩形電磁ラッパを取付け、受信電磁ラッパを円筒式切換器によって切換え、旋回部に二重同軸ケーブルを用いて従来の導波菅をそのまま使用できるようにしたものである。
このように次々にと新型射撃用電探が名乗りを上げたが、結局は完成期日の遅れや能力不足などのため実効を収めるまでには発展することはできなかった。昭和19年7月には二号三型と三号二型の射撃用電探はほぼ完成したのであったが、この頃には前項記述のように、二号電探二型改一の緊急装備工事を済ませた艦隊は、技術研究所から派遣の取扱調整指導員を艦隊司令部附として乗艦させて、すでにほとんど全部内地を出港し、西南方面リンガ泊地に集結中であった。マリアナ海戦の直後であり、海上輸送はいよいよ窮迫し、3,000カイリ以上の長途を冒して大規模の装備工事を実施することはきわめて困難な状況にあったし、三号二型は重量容積ともに大きく、装備工事に多くの工数と日数を要するということで、その工事の実施は断念しなければならなかった。また、二号三型は有効距離がやや不足で装備に値しないということになった。さらに、この時期には緊急生産の重点は航空機用電波兵器に注がれて、根本的対策がとりにくかったという状況もあった。そこで、窮余の策として、再び各艦に装備してある二号二型に改善を施しその活用を図るほかないということになった。
前項既述のように、偶々この時期には従来のものより一段と安定度及び性能の向上した二号二型(受信機)改二が開発されて、艦隊装備の(受信機)改一を急遽全部これに改造するこことなったので、これに必要な器材と操縦性能改善のための増力機付きの操縦装置ならびに電探射撃に必要な関連諸部品を、当時シンガポール方面で待機訓練中であった艦隊に急送するとともに、装備調整要員を特派し、第102工作部の強力を得て最後の改造工事を完了し、漸く「捷一号作戦」に間に合わせることができた。
対水上射撃用電探研究はその後も続けられ、三号一型及び同三型が19年度末になって完成をみ、翌20年1月水雷学校付属の特1号練習艇に装備実用実験を行い、ほぼ満足すべき結果が得られた。しかし、時既に遅く、それを装備して活動すべき艦艇もそのような機会も無くなっていた。

【解説及び捕捉説明】
まず、最初に完成した2機種の二号三型及び三号二型についての外観と、不採用の理由を掲げる。
二号三型
評価:二号三型は有効距離がやや不足で装備に値しないということになった。
不採用理由はこれ以上の資料がないのでコメントできないが、個人的には何か理不尽さを感じざるを得ない。

二号三型(S8)
 c-1

二号三型(S8A)
 c-2


三号二型
評価:三号二型は重量容積ともに大きく、装備工事に多くの工数と日数を要するということで、その工事の実施は断念しなければならなかった。
ただし、艦船は日本を離れリンガ泊地へ出向している現状では改装工事は物理的に無理であるのは明らかである。
なお、優秀機であったことから、陸上の特設見張所用の見張用電波探信儀として60台製造して配備された。
 c-3


※参考資料 リンガ泊地
シンガポールの南80浬のリンガ諸島とスマトラ島との間に設けられていた艦艇停泊地であり、第二次世界大戦中の大日本帝国海軍の根拠地としてトラック諸島と並んで重要であった。
「リンガ作業地」という呼称も使われたことがある。
リンガ泊地がにわかに脚光を浴びだしたのは1944年に入ってからである。
2月17日のトラック島空襲前にトラック諸島を脱出した連合艦隊の有力艦艇は、パラオを一時的な根拠地としたあと、続々とリンガ泊地に集結していった。
この頃、すでに日本本土の燃料事情は、燃料を輸送するタンカーが潜水艦によって撃沈されるなど徐々に逼塞しつつあり、日本に戻ったところで作戦用はおろか訓練用の燃料すら際どい状況だった。
いわば、艦隊が燃料を求めに、リンガ泊地に移動してきたような格好となったのである。
また、一時的に根拠地に使われたパラオは、3月末の大空襲で基地機能が壊滅していた。
マリアナ沖海戦で敗れ、一旦呉に帰投した海戦参加の多くの艦艇は、それぞれ修理と整備を終えた後、各々リンガ泊地に向かった。
戦艦武蔵、大和、長門、金剛などは沖縄に対する輸送作戦を行った後リンガ泊地に到着し、榛名はカムラン湾に寄港の後到着した。
戦艦山城、扶桑も10月に入って到着。
リンガ泊地の諸艦艇は、レイテ沖海戦のためにブルネイに進出する10月18日まで、再び訓練と整備に明け暮れた。
福田幸弘は「リンガでの訓練約三か月は、近くのパレンバンの石油に恵まれていたため、一年分に相当する程のものであった」と回想している。

この事態に対応して、2号電波探信儀2型の本質的な問題点である受信機性能不足について解説すると、2号電波探信儀2型の原型機では受信機は超再生式受信方式を採用していたが、この超再生式受信方式は受信機の安定性が悪く安定的な運用ができない根本的な問題を抱えていた。
この問題に対処すべき昭和19年1月になって、超再生式受信方式から受信機改1を再生式受信方式(オートダイン方式)へバージョンアップしたが、感度は著しく低下し、M-60の発振周波数も充分安定とは云えなかったが、従来の超再生受信方式に較べれば遥かに安定で実用になりそうであったとのことである。
既に、昭和18年(1943年)春ドイツから英国レーダー情報として鉱石検波器を使用したスーパーヘテロダイン方式を採用しているとの情報提供を受けていたが、海軍技術研究所の開発責任者は鉱石検波器の利用に消極的な姿勢を示し、本人は強力な磁電管による殺人光線の開発に邁進していた。
昭和18年(1943年)11月 黄鉄鉱とシリコンがマイクロ波に対して優れた特性があることが判明、この鉱石器を使用した電波探知機47号が完成したが、この期に及んでも、22号レーダーへの鉱石検波器の採用は検討されなかった。
昭和19年(1944年)9月 22号レーダーは、受信機改2として鉱石検波器を利用したスーパーヘテロダイン方式を完成・採用された。動作は安定しており完全に機能するようになった。ここまで、丸三年の歳月を経てやっと完全に実用可能なセンチ波レーダーが完成したことになった。
したがって、2号電場探信儀2型改4(受信機改2:スーパーヘテロダイン方式)を以て、レイテ沖海戦に臨むこととなった。

※参考情報 レイテ沖海戦
第二次世界大戦中の1944年10月20日から25日にかけて、フィリピン周辺の広大な海域を舞台に日本海軍とアメリカ海軍及びオーストラリア海軍の間で交わされた一連の海戦の総称である。
フィリピン奪回を目指して侵攻するアメリカ軍を日本海軍が総力を挙げて迎撃する形で発生した。
第一遊撃部隊への作戦説明
この後、1944年8月11日まで南西方面艦隊司令部員と打ち合わせが行われ、リンガ泊地に帰着後翌日に第一遊撃部隊所属の司令官・艦長らに作戦説明が行われた。従来の方針から大きく異なる水上艦艇による輸送部隊攻撃の作戦に現場指揮官達は唖然とし、不満、非難の声がでたが、それを抑えて泊地内に突入して攻撃することを念頭に置いた訓練計画を作成。小柳の陳述では下記の5種に区分して実施したと述べている。
湾内投錨艦船への攻撃法
夜戦訓練
対空戦闘訓練
電探射撃訓練
夜戦での星弾使用法
<「元軍令部通信課長の回想」昭和56年 鮫島素直からの抜粋>
日本海軍の電波兵器はまだ不備な面が多かったが、この海戦で日本艦隊のレーダーは、それなりに全幅活用されたといえよう。連日の米軍機の来襲に際し、ほとんど100キロメートル前後でこれをレーダー探知し対空戦闘に備えることができ、全くの奇襲を受けるようなことはなかった。また、スリガオ海峡海戦で、那智、足柄が25日日出前にレーダーで探知した距離11キロメートルの目標にレーダーを利用の魚雷発射を行ったし、サマール島沖海戦で、25日午前8時18分大和はレーダーで捜索しつつ南下中、200度20キロメートル煙幕の中に戦艦らしい目標を探知し、主砲で約4分間レーダー射撃を実施している。(注、栗田部隊がハルゼー部隊と交戦中と判断していたからで、実際には米側には護衛空母以外は警戒駆逐艦のみであった)レーダー射撃装置は、作戦部隊が強く要望してやまぬものであったが、要求に副うようなものがなかなかできず、昭和19年8月以降、対水上見張用電探に電探射撃に必要な関連工事を施して、当座の間に合わせたことは第二編第三章第二節にのべたとおりである。その能力は、対戦艦35キロメートル、対駆逐艦17キロメートル、測距精度500メートル、測角精度3度であった。

レイテ沖海戦に関する<捷號作戦戦訓抜粋(電波兵器)(昭和19年11月11日)>戦訓を下記URLにて提示する。
本戦訓には、2号2型電探に関する電探射撃に関する指摘が全くないが、本当に大和は電探射撃を実施したのだろうか疑問が残る。
捷號作戦戦訓抜粋(電波兵器)(昭和19年11月11日)

米軍による下記の文章が印象に残る。
アメリカのレイテ沖海戦への評価 
レイテの戦いは、巨砲の大艦が主要な役割を演じた最後の海戦となり、戦艦に雄大なる告別の辞を読み上げたと同時に日本の運命を封じ、太平洋戦の最終ページを開いたとまとめている。


レイテ沖海戦後も、対水上射撃用電探研究はその後も続けられ、三号一型及び同三型が19年度末になって完成するが、残念ながら搭載すべき艦艇は残っていない。
すでに、2号電場探信儀2型改4(受信機改2:スーパーヘテロダイン方式)が完成しており、このレーダーに如何なる等感度方式を導入しても、母体が優秀であることは射撃管制レーダーの機能としては高性能なものが実現できたのであろう。
事実、昭和20年1月水雷学校付属の特1号練習艇に装備実用実験を行い、ほぼ満足すべき結果が得られた。しかし、時既に遅く、それを装備して活動すべき艦艇もそのような機会も無くなっていた。

三号一型
2号2型改4を母体に、空中線のみ2号3型のパラボラアンテナで構成した。
 d-1


三号三型
2号2型改4を母体に、空中線のみ3号2型のパラボラアンテナで構成した。
 d-2



特1号練習艇
水雷学校付属の特1号練習艇に装備実用実験の姿だが、本写真は戦後本艦を英国が取り戻し状態で英国側により撮影されたものである。
 d-3特1号練習艇-01



【総合コメント】
・2号1型の発電版の件、2号3型の海軍における不採用の件について
日本海軍では、軍艦や航空機に電波兵器を搭載した時点で機密情報となり、いかなる民間人たとえそれを製造したメーカー技術者でも立ち入りを許さない事態となっていたようだ。
最新の電波兵器を完成させるためには、軍の運用側、海軍技術研究所の技術者及び製造したメーカーの技術者の3者による問題点の把握が絶対に必要であるはずである。
こんな基本的なことが理解できないのであれば、技術的な問題が生じても真の解決はできない。
下記の資料は戦後あるメーカーによる軍への批判である。
A short survey of japanese radar Volume 1からの抜粋
第Ⅲ部 - レーダーの製造
2.日本無線
e. 製造されたレーダー。日本無線の工場は注意深く2つの部分に分けられており、陸軍用の機器を製造する部門と海軍用の部門があった。一つのセクションで働くエンジニアは他のセクションに入ることは許されていませんでした。また、彼らのエンジニアは、艦船や航空機、地上の位置に設置された機器のテストを製造後に観察することも許されていませんでした。この方針は、会社の関係者から強く批判された。

・リンガ泊地での2号2型の受信機のバージョンアップ対応について
対応の具体的な内容
受信機改2の今一つの特長は、改造部品と取扱説明書を艦船に送れば、現地工作部と兵員の手によって受信機改1を比較的容易に受信機改2に改造できるように設計されていたことである。
そのような経緯で前述のように7月に艦隊に一斉に整備された22号電波探信儀の受信機改1は更に追いかけてこの改2に改装されることになったのである。
当時レイテ作戦を控えてシンガポールに集結していた連合艦隊にこの器材を供給し、改造を行うことは大変な仕事であった。岡村総吾技術大尉がその責任者を命じられ部下名を連れて斎藤大尉と交替に現地に赴きその作業に当たった。一行は9月27日に羽田を出発した。作業中に艦隊はシンガポールからリンガ泊地に移動し、間もなくブルネイに向けて作戦行動に出発、整備要員は任務を終了してシンガポールに引揚げた。かくてこのマイクロ波レーダーも日本海軍最後の「捷」号作戦にはどうにか間に合わすことが出来たのである。
疑問点
①受信機改2への換装方法について
日本海軍エレクトロニクス秘史の田丸直吉氏でさえ「受信機改1を比較的容易に受信機改2に改造できるように設計されていた」とか、戦記によっては、受信機の一部の部品を取替えるような作業をイメージした内容がかかれたりしているが、どう考えてもオートダインの受信機をスーパーヘテロダイン方式に変更するのに簡単な改造できまる設計など考えられない。
基本的には、受信機改2を新規に製作して、受信機改1を撤去するほか手立ては見つからない。
②受信機改2への換装の実態について
一行は9月27日に羽田を出発したとあり、飛行機で出発したことが想定されるが、新しく製作した受信機改2もその飛行機に搭載させないと間に合わないはずである。
飛行機の搭載容量も限定せざるを得ないが必要台数を搭載できたのだろうか。
日本側のレイテ海戦のための総戦力としては、航空母艦4、戦艦9、重巡洋艦13、軽巡洋艦6他、駆逐艦34とあるが、基本的には全艦艇に2号電波探信儀2型は搭載しているはずであるが、測距装置を既に整備している艦船はそんなに多くはないと思われる。
日本海軍が砲撃戦による電探射撃をどれだけ真剣に考えたかは分からないが、戦艦や重巡洋艦には新型の受信機改2を搭載させたかっただろう。
したがって、1ヶ月程度の換装作業であれば、受信機改2を10台程度実施できれば上々といえるのではないだろうか。

・日米水上射撃用レーダーの標定精度比較について
水上射撃用レーダーに関しては、日本海軍の艦船では2号2型しか使用できない実態となったのは、開発当初から光学測距機と同程度のものを要求した用兵側に大きな責任がある。
どう考えても、2号2型の標定精度では弾は命中する可能性はなさそうである。
2号2型 
その能力は、対戦艦35キロメートル、対駆逐艦17キロメートル、測距精度500メートル、測角精度3度であった。
SGレーダー
性能:信頼性の高い最大レンジは、大型船で15マイル(24km アンテナの高さは約100フィート)。レンジ精度は±100ヤード(91メートル)。方位精度:±2°。
フェイズド・アレイレーダー FH Mark 8
性能:信頼できる最大射程(水上120フィートのアンテナを持つ巡洋艦の場合): 40,000ヤード(約36km)。信頼できる最短距離 500ヤード(457m) 測距精度:±(15ヤード(13.72m)+レンジの0.1%) 方位精度:0.1°から2ミル(0.11°)。仰角リミット 水平に対して+55°~-20°;クロスレベルは不可。
艦船搭載射撃制御レーダー FD Mark 4
性能:マーク4の信頼できる最大射程:5,000'のPBYで35,000ヤード、駆逐艦で16,000ヤード、戦艦で25,000ヤード。最小射程1,000ヤード。距離精度、±40ヤード(36.5m)。方位限界、ディレクタートレインで720°。方位精度±4ミル(0.23°)。仰角限界、+110°から-20°。仰角精度、(10°以上)±4ミル(0.23°)。

・戦争の実態について
レイテ決戦を前にシンガポールにて受信機改1に改装作業に従事された齋藤大尉の回想です。
東京大学 電気系同窓会 私の生涯/齋藤成文  http://todaidenki.jp/?p=7584
<シンガポール沖でのレーダ技術指導も終わり、世話になった第二艦隊士官達に日本に帰国する事を報告した。彼らから羨ましがられたのを鮮明に記憶している。彼らの多くは帰らぬ人となっている。当時の環境では、死はそれほど特別なものではない存在であったが、優秀な人材が数多く失われたものである。>

・二号三型(S8)と同時期に開発された日本電気製のType 28について
Type 28については、日本海軍の艦艇用対水上射撃用電波探信儀として公式資料には存在しなく、制式名称も見あたらないが、参考情報として掲載する。
本機は、駆逐艦などの小型艦艇用の水上射撃レーダーを目的として開発したようだが、有効測定距離が11Kmと短く、採用可否において早期に脱落したのだろう。
戦争後期の謎の28号(TYPE 28)レーダー開発に関する考察について





参考文献
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
「続日本無線史」第一部 昭和47年 続日本無線史刊行会
「元軍令部通信課長の回想」昭和56年 鮫島素直
日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉 原書房
東京大学 電気系同窓会 私の生涯/齋藤成文  http://todaidenki.jp/?p=7584
A short survey of japanese radar Volume 1
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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