2号電波探信儀2 型 原型機のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について
米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、TYPE22とあるが、2号電波探信儀2 型 改4のブロックダイヤグラムしか作成されていない。
このため、米軍に提出された書式に則り2号電波探信儀2 型 原型機のブロックダイヤグラムを作成した。
開発及び製造会社は日本無線株式会社である。
※注意事項 海軍技術研究所が作成した仮称2号電波探信儀2型の本説明書は指示部の項の途中以降資料が喪失しており、指示器の途中からと衝撃波変調部、電源部についての説明は割愛する。
参考に日本側の2号電波探信儀2型の説明書による探信儀総合系統図を下記に示す。
なお、2号電波探信儀2 型 原型機とは、下図の22号(UF-220)のことである。
ブロックダイヤグラムでは、次の8つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit Receiver Synchronizer Amplifier Indicator Transmitter Modulator Control Box Rreceiving & Transmitter
空中線(Antenna Unit)
送信用パラポラアンテナと送信機を直結し、受信用パラポラアンテナと受信機も直結して使用している。
従って、方位角を測定するためには、下図の写真のアンテナ及び送受信機器全体を回転する必要あった。
2号2型原型機(103号、通称マグロ)
2号2型原型試作機(改1?)
アンテナは試作機のパラボラアンテナを踏襲して採用しているが、アンテナと送信機・受信機との直結方式を廃して、円形導波管でアンテナと送信機・受信機を接続した型式のものに改善している。
仮称二号電波探信儀二型送信部(Transmitter)
概説
本装置ハ磁電管発振機ニヨリ波長9.75cm乃至9.85cm、電波ヲ時間的ニ尖頭出力約500wattニテ発振セシメ之ヲ反射器ニヨリ尖鋭ナル指向性ヲ興ヘテ発射セントスルモノニシテ次ノ各部ヨリナル。
高周波部
送信磁電管
饋電線
ウェーブトラップ
空中線
反射器
衝撃波変調部
送信管制部
送信鑑視部
電源部
仮称二号電波探信儀二型受信部(Receiver)
概説
緒言
波長10cm程度ノ電波ハ極超短波域ニ於イテ使用セル三極真空管ニ依リテハ受信シ得ズ送信菅ト同様ノ構造ヲ有スル受信磁電管ヲ使用ス而シテ高周波増幅ハ未ダ不可能ナル故コリ受信管ヲ検波菅トシテ直接超再生検波を行ツテヰル。
検波出力ハ直チニ広帯域増幅機ニ依リ増幅セラレ指示部ニ導入セラリル。
主ナル部分ハ
高周波部
空中線 反射器 饋電線
ウェーブトラップ 磁電管検波部
修調発振部
低周波増幅部
電源部
管制部
項目
波長範囲 9.75cm ~ 9.85cm
受信方式 磁電管超再生検波方式
修調発振機周波数 400kc
低周波増幅周波数帯域 3kc ~ 1,000kc
低周波増幅利得 60db
※用語解説 修調
超再生検波方式において間歇的に発振を生滅させることをクエンチング作用のことを瞬滅作用又は修調作用と云い、生滅回数をクエンチング周波数と云う。
1.機能
(1)高周波部
送信側と同様に指向性を有する反射器に依り捕捉せられた電波は空中線及び饋電線に依り磁電管に導入せられ途中にウェーブトラップありインピーダンス整合を行う。
受信磁電管は送信菅と同様8分割にして低電圧で動作する様に総て形が小さくしてある。
作動動原理は全く同様である。
受信磁電管は動作点を発振の手前に置き●の修調電圧を陽極に重畳し間歇発振を起こして高電圧回路の実効抵抗を減少せしめる修調超再生検波を行はしめる。
高周波入力は磁電管翼板に重畳結合にて加えられる。此の入力がある時、間歇振動の発振強度に変化が支えられ、その結果直流的変化が検波出力として陽極回路から取り出される。
(2)修調発振部
磁電管に間歇発振を起さしめる為、修調発振器は水晶発振器を用い周波数は400kcなり。一段増幅の後、磁電管に加えられる。
(3)低周波増幅部
検波出力たる矩形波衝撃波を増幅する部分なり。
矩形波は広い周波数スペクトラムを有する故、之を歪み増幅する為には広い帯域に渡り一様な利得を有するものもなければならぬ。抵抗増幅器では1MC附近になると真空管に意の静電容量・配置の浮遊量両のため陽極抵抗が下がり利得が下がる。その為補償用インダクタンスを入れて周波数補償を行う。而して3KC~1MC 60dbの広帯域増幅器を作っている。
最終段は低インピーダンスの同軸ケーブルに接続されるのでインピーダンス整合を行うため陰極結合を行いインピーダンス変換を行っている。
(4)電源部
磁電管電源は電池より供給し、修調発振部及び低周波増幅部用としてAC100V50~より整流して供給する。
指示部(Indicator for waring )
Ⅰ.概説
本器は基準波となるべき直接波と目盛からの反射波との時間上の差、即ち目標迄の距離を測定する装置にして30kc及び60kcの発振器に依り距離目盛を次にその1/10の周波数3kc及び1.5kcにとし時間軸となし其の周波数の衝撃波を発生させ変調器に送る。
本器は次の諸部分より構成せらる。
1.同期制御部
2.増幅部
3.電源部
4.指示部
Ⅱ.機能
1.同期制御部
本装置は送信機変調用衝撃波並びに指示機及び監視器に必要なるべき時間軸用鋸歯状波の距離目盛の3つを発生するもので次に其の作動説明を述べる。
(イ)鋸歯状波発振
真空管V1(第一図参照)は切換開閉器に依り周波数30kc及び60kcの発振をなす発振管で真空管V2にてそれを増幅する。従ってV2にて増幅された波形はV1の発振器の出力大なる為、V2の増幅器の出力は図の如く矩形波なり。
次に其の出力は真空管V3-2(第二図参照)なる整流菅を通して蓄電器に接続されている。V3-2は整流菅なる為にプラスの半サイクルの部分だけ整流菅を通じて蓄電器(C12)に充電する。
したがって蓄電器両端の電圧プラス波形の来れる都度に図の如く階段状に上昇して来る。
この様な階段状の電圧は次の発振管V7のグリッドに接続されて居る。
この真空管V7(第三図参照)は周波数30kcを1/10に降下させるもので、発振管のグリッドを図の如く深くマイナスにして置く。次にこのグリッドに上述の如き階段状の電圧が加え発振する迄のグリッド電圧になる瞬間発振する。と同時に蓄電器に充電されていた電圧は放電し再びグリッドはマイナスとなる。
即ち30kcの発振器出力により充電された電圧(階段状に上昇した電圧)10階段目にV7の発振管が発振すれば其の発振周波数は30kcの1/10即ち3kcとなる。
尚抵抗R27を調整して確実に10段目で発振する様に調整する事が出来る。
即ち陽極電圧が高ければ早く発振し低ければ入力電圧(階段状電圧)大なるを要す。
したがって3,000サイクルの周波数は第4図の如き波形となる。
L7の巻線に誘導された電圧は真空管V8のグリッドに入る。
真空管V8(第5図参照)はCクラスバイアスに依り深くマイナスになってきている。即ち常に陽極電流は流れない。そこへ3000サイクルの図の如きパルスが来るとC27なる蓄電器を通じて瞬間陽極電流が流れる。蓄電器C27は瞬間充電し次のパルスが来る迄L5なるコイルを通じ放電す。
したがって陽極に於ける電圧波は第6図の如く鋸歯状波波形(L5、C27)となる。
それを真空管V9(第7図)に依り陰極結合増幅するカソード結合増幅器はカソード側より出力を取出すものにしてケーブルにて送る場合ケーブルインピーダンスに整合せさる為、カソードより取出す。
負荷型より見たるインピーダンスはカソード抵抗及び真空管とが並列に接続されたるものなる為、結局1/gmになりインピーダンスを十分少にすることが出来る。
(ロ)距離目盛
次に距離目盛は真空管V3-1(第8図参照)の整流管により-波形の部分を整流す。即ちC、R(C13、R12)が小なる為、波形は図の如き波形となる。
次に真空管V4(第9図参照)のグリッドに挿入す。図の如き零バイヤス及びプラスバイヤスの為、マイナス波形の先端のみ増幅し、次の蓄電器C及び抵抗器Rの時定数(C17、R17)を充分小にすると第10図の如き波形となる。
次に真空管V5をCクラスについて波形のプラス部分の先端を増幅し幅を充分小にしてカソード結合増幅管V6により増幅して距離目盛として送る。
(ハ)衝撃波
次に衝撃波発生部としては前に述べた鋸波状波を真空管V10(第11図参照)のグリッドに挿入す。
この真空管はCクラスに動作している。今抵抗Rをイ点に置いた場合実線の如き(第12図参照)陽極電流は流れロ点の場合にはグリッドにプラスがかかる為、点線の如き電流が流れる。
従って電圧波形は図の如く次にC、Rを充分小にすれば図の如き波形となる。即ちR(R42)なる抵抗によりグリッドに加わる電圧を加減することに依り変調用衝撃波の位相を変化させることが出来る。
次に衝撃波プラス部分のみを次の真空管V11に依りCクラスバイアスを変化させて幅(R52)を変化することが出来る。
真空管V12は零バイアスなる為、衝撃波を矩形波にして真空管V13に依りカソード結合増幅して変調部に送る。
V10の位相調整の動作概念
2.増幅部
本器は受信機よりの出力を増幅する部分と同期制御部より来る鋸波状波を増幅し各適当の大小にしてブラウン管に供給する。
真空管V101(第13図参照)はBクラス増幅で受信機より来る出力を増幅し、超再生雑音の下部をカットとし距離目盛を見易くしてある。
図中Rは入力加減用抵抗器なり。Lは利得周波数特性補償用インダクタンスなり。即ち真空管内部容量及び其の●の容量に共振させ高周波特性に対して利得を一様にする為なり。(第14図参照)
次に鋸波状波の増幅はV103、V104(第15図参照)にて行う。
単向同期制御部よりの出力をV103にて増幅し偏向板にかける其の一部をV104にて増幅して●の偏向板にかける。(第15図参照)
結局時間軸偏向板に2倍の電圧をかけ出力を大にしてある。
図中Rは入力加減対抗器にして距離を見易き様に加減することが出来る。(第16図参照)
3.電源部
本器は同期制御部及び増幅部の陽極電圧を供給する部分にして同期制御部は入力電源(AC100V)変化した場合陽極電源は常に一定でないと時間軸周波数及び衝撃波幅等変化する為、低電圧装置を施し常に一定にしてある。
即ち真空管V205、V206の内部抵抗を利用し一定に保つ。(第17図参照)
今真空管V203(第18図参照)のグリッドバイアスは放電管特性を利用して陽極電流の大小に拘わらず一定なり。今入力側電源が低くなった場合を考えると、したがってグリッドが深くなる。従ってV203の陽極電流は第となり故にV1の負荷抵抗に於ける電圧は大となる。即ちV205、V206に於けるグリッドバイアスが浅くなり、V205、V206を流れる陽極電流は大となり負荷に流れる電流は大となす。即ち入力電圧が低くなった場合補償為大電流を流し逆に高くなれば小電流を流す。即ち負荷側に於ける電圧を常に一定にしてある。
4.指示部
ブラウン管は特殊真空管の底に電子の流れが当たると底の硝子面に塗布せる薬品の作用で光を発する様にしたものである。
その電子流は電子が負の電荷を有する故、外部より電界を加えることに依りその流れを一転に集束し、又はその流れの量を加減することが出来、従って電子流に依って生ずる光点の焦点を合わせ輝度を調節することが出来る。
ブラウン管に於いは格子、第一陽極、第二陽極の陰極に対する電位を適当に選んで之を高なうものであるが、本装置に於いては格子の負電圧を変えて電子流を制御して適当な輝度となし、第一陽極の正電位を変えて蛍光版上の焦点を調整する様にしてある。
以上の如くにして生ぜし電子束は同期制御部にて発生せし各種電圧に依り制御され所要の図を書くに至る。
即ち水平軸偏向板には鋸波状波を加えて時間軸となし、垂直軸偏向板の下部には距離目盛、上部には受信機よりの信号波を加えている。
面積式の場合は信号波を格子に加え直接波及び反射波の入来せる都度電子を制御し光を発しない様にする。
なお鋸波状波の帰線を消去する為、第5図の如く格子に帰線部分だけ電圧を加え電子を制御し光を発しない様にする。
指示機の画面イメージ

5.鑑視部
鑑視部は送信にありては変調器出力波及び送信出力波を 鑑視し、受信にありては大きさを鑑視するものである。
指示部の同期制御部より必要な各種電圧を取り小型ブラウン管を作動せしめ之に依り相当する波形を描かしむのである。
原理及びセ機構は指示部のそれと全く同一である。
【総合コメント】
・東芝、日本電気は、開発リスクが少ないメートル波レーダーの開発に徹する間、日本無線だけはマグネトロン(磁電管)を使用したセンチ波レーダー開発に果敢に挑戦した。
しかしながら、日本無線1社のみでのセンチ波レーダー開発には自ずとして限界があった。
海軍技術研究所は日本のエレクトロニクス業界全体へのセンチ波レーダー開発の音頭をとり、マネージメントに徹して業界を主導することが必要であった。
・同期制御機には、特異な回路設計がなされている。同期信号用の基本周期数は、30kcと60kcとに切替SWで変更できる。
この30kcと60kcの正弦波は、指示機の距離目盛(電子マーカー)に利用される。
従って、本来の同期信号は、この30kcと60kcから1/10の分周回路により、3kcと6kcとなる必要がある。
仮に同期信号(パルス繰返し周波数)を3kcとすると理論的な測定距離は50kmとなり、6kcでは25kmとなる。
これに追従して電子目盛の間隔距離は5km、2.5kmとなる。
問題はこれを実現するための分周回路が大変ユニークであり、3kcの正弦波を倍電圧整流し蓄電器に蓄積し、丁度10サイクルで蓄積した電荷が別に用意した真空管のグリッドで動作点となるように調整して、真空管をスイッチングさせて1/10の分周を実現する設計である。
ただし、実運用では、安定的に真空管のスイッチング動作点(スレッショルドレベルの判定)を補償できるか甚だ疑問である。特に同期信号が1/10の分周ではなければ、観測の測定距離が誤ることとなるが、現代のようなデジタルカウンターもない当時の艦船上の現場で分周が正しく行われているか判断もできないのではないだろうか。
【参考資料】
仮称二号電波探信儀二型の取扱説明書 昭和17年11月26日 海軍技術研究所電気研究部
https://drive.google.com/file/d/1uipHIPynp8bYm6Dt45oyrnIqdnLC4Jof/view
A short survey of japanese radar Volume 1からの抜粋
特に注目すべきは、大阪大学の岡部教授の元で学んだ伊藤大佐の指揮下で行われたマグネトロン研究である。1941年の秋には、海軍が艦船搭載用索敵装置に使用することができる10センチメートルのマグネトロンを生産していたことは、アメリカの情報将校やレーダーエンジニアにとっては少々驚きかもしれない。したがって、当時の彼らのマイクロ波研究は、われわれの研究からわずか数ヶ月遅れていただけであった。しかし、その後の数年間において、アメリカの開発は日本を引き離していった。日本の最高の成果は、10センチメートルでピーク出力が約5〜6キロワットの磁電管を生産することであった
調査された日本製のレーダー装置は、後のアメリカの装置に比べて、電気的にも機械的にも粗末なものであると思われた。彼らがそれらを鹵獲していたとしても、現代の火器管制やGCIレーダーを正常に複製できたかどうかは疑わしいです。実際、彼らはB-24とB-29から比較的良好な私たちのIFFセットとAPQ-13のサンプルを手に入れていたが、一般的にそれらを完全に運用することはできなかったと述べている。日本海軍技術研究の責任者である名和提督は、彼らがアメリカのレーダー設計と比較して最も敗北した点は、高出力のセンチメートル波送信管を製造できなかったことだと述べている。この状況についてのほとんどの研究者は同意するでしょう。
日本の軍事指導者たちには、陸軍と海軍の研究、開発、生産、運用を完全に分離することを長い間主張した者たちに対して非常に厳しい批判を向ける必要がある。日本の科学者の数は、アメリカよりもはるかに限られており、当初から不十分でした。それなのに、二つの部局内で多くのプロジェクトが時には並行して秘密裏に研究されることを要求することで、その効果をほぼ半減させることを主張することは、愚かさの頂点でした。
我が国の軍事指導者と民間指導者が、陸軍と海軍のための共通の研究においてすべての才能を結集するための先見の明と広い心を持っていたことは、大いに評価されるべきです。我が国の物理学者、数学者、エンジニアの電子研究と装置開発の技術に敬意を表します。私たちは、火器管制や地上制御迎撃において非常に正確なレーダーを構想し、製造することができました。これらは攻撃においては必須ではありませんでしたが、日本の科学者によって開発されれば、ガダルカナルから東京までの3年間、艦船と地上部隊を防衛する上で非常に役立ったでしょう。
参考文献
仮称二号電波探信儀二型の取扱説明書 昭和17年11月26日 海軍技術研究所電気研究部
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
旧日本海軍の電波兵器開発過程を事例とした第2次大戦期日本の科学技術動員に関する分析29 表25)仮称二號電波探信儀二型の改良過程(1944年4月時点まで) 河村豊
A short survey of japanese radar Volume 1