日本帝国陸海軍電探開発史

日本帝国陸海軍電探開発史 電探 陸軍電探開発史 電波警戒機 電波標定機 海軍電探開発史 電波探信儀 電波探知機 デジタル遺品

2023年02月

2号電波探信儀2 型 原型機のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について

米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、TYPE22とあるが、2号電波探信儀2 型 改4のブロックダイヤグラムしか作成されていない。
このため、米軍に提出された書式に則り2号電波探信儀2 型 原型機のブロックダイヤグラムを作成した。
開発及び製造会社は日本無線株式会社である。

※注意事項  海軍技術研究所が作成した仮称2号電波探信儀2型の本説明書は指示部の項の途中以降資料が喪失しており、指示器の途中からと衝撃波変調部、電源部についての説明は割愛する。
a-1

 
参考に日本側の2号電波探信儀2型の説明書による探信儀総合系統図を下記に示す。
 a-2

なお、2号電波探信儀2 型 原型機とは、下図の22号(UF-220)のことである。
 a-2-1

ブロックダイヤグラムでは、次の8つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit Receiver  Synchronizer Amplifier Indicator Transmitter  Modulator  Control Box Rreceiving & Transmitter 

空中線(Antenna Unit)
送信用パラポラアンテナと送信機を直結し、受信用パラポラアンテナと受信機も直結して使用している。
従って、方位角を測定するためには、下図の写真のアンテナ及び送受信機器全体を回転する必要あった。
2号2型原型機(103号、通称マグロ)
 a-3


2号2型原型試作機(改1?)
アンテナは試作機のパラボラアンテナを踏襲して採用しているが、アンテナと送信機・受信機との直結方式を廃して、円形導波管でアンテナと送信機・受信機を接続した型式のものに改善している。
 a-4



仮称二号電波探信儀二型送信部(Transmitter)
概説
本装置ハ磁電管発振機ニヨリ波長9.75cm乃至9.85cm、電波ヲ時間的ニ尖頭出力約500wattニテ発振セシメ之ヲ反射器ニヨリ尖鋭ナル指向性ヲ興ヘテ発射セントスルモノニシテ次ノ各部ヨリナル。
高周波部
送信磁電管
饋電線
ウェーブトラップ
空中線
反射器
衝撃波変調部
送信管制部
送信鑑視部
電源部
b-1

b-2


仮称二号電波探信儀二型受信部(Receiver)
概説
緒言
波長10cm程度ノ電波ハ極超短波域ニ於イテ使用セル三極真空管ニ依リテハ受信シ得ズ送信菅ト同様ノ構造ヲ有スル受信磁電管ヲ使用ス而シテ高周波増幅ハ未ダ不可能ナル故コリ受信管ヲ検波菅トシテ直接超再生検波を行ツテヰル。
検波出力ハ直チニ広帯域増幅機ニ依リ増幅セラレ指示部ニ導入セラリル。
主ナル部分ハ
高周波部
空中線  反射器  饋電線
ウェーブトラップ 磁電管検波部
修調発振部
低周波増幅部
電源部
管制部
項目
波長範囲   9.75cm ~ 9.85cm
受信方式   磁電管超再生検波方式
修調発振機周波数  400kc
低周波増幅周波数帯域    3kc ~ 1,000kc
低周波増幅利得       60db

※用語解説 修調
超再生検波方式において間歇的に発振を生滅させることをクエンチング作用のことを瞬滅作用又は修調作用と云い、生滅回数をクエンチング周波数と云う。

1.機能
(1)高周波部
送信側と同様に指向性を有する反射器に依り捕捉せられた電波は空中線及び饋電線に依り磁電管に導入せられ途中にウェーブトラップありインピーダンス整合を行う。
受信磁電管は送信菅と同様8分割にして低電圧で動作する様に総て形が小さくしてある。
作動動原理は全く同様である。
受信磁電管は動作点を発振の手前に置き●の修調電圧を陽極に重畳し間歇発振を起こして高電圧回路の実効抵抗を減少せしめる修調超再生検波を行はしめる。
高周波入力は磁電管翼板に重畳結合にて加えられる。此の入力がある時、間歇振動の発振強度に変化が支えられ、その結果直流的変化が検波出力として陽極回路から取り出される。
 c-1

(2)修調発振部
磁電管に間歇発振を起さしめる為、修調発振器は水晶発振器を用い周波数は400kcなり。一段増幅の後、磁電管に加えられる。
(3)低周波増幅部
検波出力たる矩形波衝撃波を増幅する部分なり。
矩形波は広い周波数スペクトラムを有する故、之を歪み増幅する為には広い帯域に渡り一様な利得を有するものもなければならぬ。抵抗増幅器では1MC附近になると真空管に意の静電容量・配置の浮遊量両のため陽極抵抗が下がり利得が下がる。その為補償用インダクタンスを入れて周波数補償を行う。而して3KC~1MC 60dbの広帯域増幅器を作っている。
最終段は低インピーダンスの同軸ケーブルに接続されるのでインピーダンス整合を行うため陰極結合を行いインピーダンス変換を行っている。
(4)電源部
磁電管電源は電池より供給し、修調発振部及び低周波増幅部用としてAC100V50~より整流して供給する。
c-2

c-3

受信機を構成する真空管(MS-60、UZ-78、UY-76、UZ-6302、UZ-77、UY-6301)
 c-4



指示部(Indicator for waring )
Ⅰ.概説
本器は基準波となるべき直接波と目盛からの反射波との時間上の差、即ち目標迄の距離を測定する装置にして30kc及び60kcの発振器に依り距離目盛を次にその1/10の周波数3kc及び1.5kcにとし時間軸となし其の周波数の衝撃波を発生させ変調器に送る。
本器は次の諸部分より構成せらる。
1.同期制御部
2.増幅部
3.電源部
4.指示部

 d-1

d-2
 

d-3


 Ⅱ.機能
1.同期制御部
本装置は送信機変調用衝撃波並びに指示機及び監視器に必要なるべき時間軸用鋸歯状波の距離目盛の3つを発生するもので次に其の作動説明を述べる。
(イ)鋸歯状波発振
真空管V1(第一図参照)は切換開閉器に依り周波数30kc及び60kcの発振をなす発振管で真空管V2にてそれを増幅する。従ってV2にて増幅された波形はV1の発振器の出力大なる為、V2の増幅器の出力は図の如く矩形波なり。
次に其の出力は真空管V3-2(第二図参照)なる整流菅を通して蓄電器に接続されている。V3-2は整流菅なる為にプラスの半サイクルの部分だけ整流菅を通じて蓄電器(C12)に充電する。
したがって蓄電器両端の電圧プラス波形の来れる都度に図の如く階段状に上昇して来る。
この様な階段状の電圧は次の発振管V7のグリッドに接続されて居る。
この真空管V7(第三図参照)は周波数30kcを1/10に降下させるもので、発振管のグリッドを図の如く深くマイナスにして置く。次にこのグリッドに上述の如き階段状の電圧が加え発振する迄のグリッド電圧になる瞬間発振する。と同時に蓄電器に充電されていた電圧は放電し再びグリッドはマイナスとなる。
即ち30kcの発振器出力により充電された電圧(階段状に上昇した電圧)10階段目にV7の発振管が発振すれば其の発振周波数は30kcの1/10即ち3kcとなる。
尚抵抗R27を調整して確実に10段目で発振する様に調整する事が出来る。
即ち陽極電圧が高ければ早く発振し低ければ入力電圧(階段状電圧)大なるを要す。
したがって3,000サイクルの周波数は第4図の如き波形となる。
L7の巻線に誘導された電圧は真空管V8のグリッドに入る。
真空管V8(第5図参照)はCクラスバイアスに依り深くマイナスになってきている。即ち常に陽極電流は流れない。そこへ3000サイクルの図の如きパルスが来るとC27なる蓄電器を通じて瞬間陽極電流が流れる。蓄電器C27は瞬間充電し次のパルスが来る迄L5なるコイルを通じ放電す。
したがって陽極に於ける電圧波は第6図の如く鋸歯状波波形(L5、C27)となる。
それを真空管V9(第7図)に依り陰極結合増幅するカソード結合増幅器はカソード側より出力を取出すものにしてケーブルにて送る場合ケーブルインピーダンスに整合せさる為、カソードより取出す。
負荷型より見たるインピーダンスはカソード抵抗及び真空管とが並列に接続されたるものなる為、結局1/gmになりインピーダンスを十分少にすることが出来る。
d-4
 

(ロ)距離目盛
次に距離目盛は真空管V3-1(第8図参照)の整流管により-波形の部分を整流す。即ちC、R(C13、R12)が小なる為、波形は図の如き波形となる。
次に真空管V4(第9図参照)のグリッドに挿入す。図の如き零バイヤス及びプラスバイヤスの為、マイナス波形の先端のみ増幅し、次の蓄電器C及び抵抗器Rの時定数(C17、R17)を充分小にすると第10図の如き波形となる。
次に真空管V5をCクラスについて波形のプラス部分の先端を増幅し幅を充分小にしてカソード結合増幅管V6により増幅して距離目盛として送る。
d-5
 

(ハ)衝撃波
次に衝撃波発生部としては前に述べた鋸波状波を真空管V10(第11図参照)のグリッドに挿入す。
この真空管はCクラスに動作している。今抵抗Rをイ点に置いた場合実線の如き(第12図参照)陽極電流は流れロ点の場合にはグリッドにプラスがかかる為、点線の如き電流が流れる。
従って電圧波形は図の如く次にC、Rを充分小にすれば図の如き波形となる。即ちR(R42)なる抵抗によりグリッドに加わる電圧を加減することに依り変調用衝撃波の位相を変化させることが出来る。
次に衝撃波プラス部分のみを次の真空管V11に依りCクラスバイアスを変化させて幅(R52)を変化することが出来る。
真空管V12は零バイアスなる為、衝撃波を矩形波にして真空管V13に依りカソード結合増幅して変調部に送る。
 d-6

V10の位相調整の動作概念
 d-7


2.増幅部
本器は受信機よりの出力を増幅する部分と同期制御部より来る鋸波状波を増幅し各適当の大小にしてブラウン管に供給する。
真空管V101(第13図参照)はBクラス増幅で受信機より来る出力を増幅し、超再生雑音の下部をカットとし距離目盛を見易くしてある。
図中Rは入力加減用抵抗器なり。Lは利得周波数特性補償用インダクタンスなり。即ち真空管内部容量及び其の●の容量に共振させ高周波特性に対して利得を一様にする為なり。(第14図参照)
次に鋸波状波の増幅はV103、V104(第15図参照)にて行う。
単向同期制御部よりの出力をV103にて増幅し偏向板にかける其の一部をV104にて増幅して●の偏向板にかける。(第15図参照)
結局時間軸偏向板に2倍の電圧をかけ出力を大にしてある。
図中Rは入力加減対抗器にして距離を見易き様に加減することが出来る。(第16図参照)
 e-1


3.電源部
本器は同期制御部及び増幅部の陽極電圧を供給する部分にして同期制御部は入力電源(AC100V)変化した場合陽極電源は常に一定でないと時間軸周波数及び衝撃波幅等変化する為、低電圧装置を施し常に一定にしてある。
即ち真空管V205、V206の内部抵抗を利用し一定に保つ。(第17図参照)
今真空管V203(第18図参照)のグリッドバイアスは放電管特性を利用して陽極電流の大小に拘わらず一定なり。今入力側電源が低くなった場合を考えると、したがってグリッドが深くなる。従ってV203の陽極電流は第となり故にV1の負荷抵抗に於ける電圧は大となる。即ちV205、V206に於けるグリッドバイアスが浅くなり、V205、V206を流れる陽極電流は大となり負荷に流れる電流は大となす。即ち入力電圧が低くなった場合補償為大電流を流し逆に高くなれば小電流を流す。即ち負荷側に於ける電圧を常に一定にしてある。

4.指示部
ブラウン管は特殊真空管の底に電子の流れが当たると底の硝子面に塗布せる薬品の作用で光を発する様にしたものである。
その電子流は電子が負の電荷を有する故、外部より電界を加えることに依りその流れを一転に集束し、又はその流れの量を加減することが出来、従って電子流に依って生ずる光点の焦点を合わせ輝度を調節することが出来る。
ブラウン管に於いは格子、第一陽極、第二陽極の陰極に対する電位を適当に選んで之を高なうものであるが、本装置に於いては格子の負電圧を変えて電子流を制御して適当な輝度となし、第一陽極の正電位を変えて蛍光版上の焦点を調整する様にしてある。
以上の如くにして生ぜし電子束は同期制御部にて発生せし各種電圧に依り制御され所要の図を書くに至る。
即ち水平軸偏向板には鋸波状波を加えて時間軸となし、垂直軸偏向板の下部には距離目盛、上部には受信機よりの信号波を加えている。
面積式の場合は信号波を格子に加え直接波及び反射波の入来せる都度電子を制御し光を発しない様にする。
なお鋸波状波の帰線を消去する為、第5図の如く格子に帰線部分だけ電圧を加え電子を制御し光を発しない様にする。
指示機の画面イメージ
 e-2


5.鑑視部
鑑視部は送信にありては変調器出力波及び送信出力波を 鑑視し、受信にありては大きさを鑑視するものである。
指示部の同期制御部より必要な各種電圧を取り小型ブラウン管を作動せしめ之に依り相当する波形を描かしむのである。
原理及びセ機構は指示部のそれと全く同一である。
f-1

 

【総合コメント】
・東芝、日本電気は、開発リスクが少ないメートル波レーダーの開発に徹する間、日本無線だけはマグネトロン(磁電管)を使用したセンチ波レーダー開発に果敢に挑戦した。
しかしながら、日本無線1社のみでのセンチ波レーダー開発には自ずとして限界があった。
海軍技術研究所は日本のエレクトロニクス業界全体へのセンチ波レーダー開発の音頭をとり、マネージメントに徹して業界を主導することが必要であった。

・同期制御機には、特異な回路設計がなされている。同期信号用の基本周期数は、30kcと60kcとに切替SWで変更できる。
この30kcと60kcの正弦波は、指示機の距離目盛(電子マーカー)に利用される。
従って、本来の同期信号は、この30kcと60kcから1/10の分周回路により、3kcと6kcとなる必要がある。
仮に同期信号(パルス繰返し周波数)を3kcとすると理論的な測定距離は50kmとなり、6kcでは25kmとなる。
これに追従して電子目盛の間隔距離は5km、2.5kmとなる。
問題はこれを実現するための分周回路が大変ユニークであり、3kcの正弦波を倍電圧整流し蓄電器に蓄積し、丁度10サイクルで蓄積した電荷が別に用意した真空管のグリッドで動作点となるように調整して、真空管をスイッチングさせて1/10の分周を実現する設計である。
ただし、実運用では、安定的に真空管のスイッチング動作点(スレッショルドレベルの判定)を補償できるか甚だ疑問である。特に同期信号が1/10の分周ではなければ、観測の測定距離が誤ることとなるが、現代のようなデジタルカウンターもない当時の艦船上の現場で分周が正しく行われているか判断もできないのではないだろうか。


【参考資料】
仮称二号電波探信儀二型の取扱説明書 昭和17年11月26日 海軍技術研究所電気研究部
https://drive.google.com/file/d/1uipHIPynp8bYm6Dt45oyrnIqdnLC4Jof/view


A short survey of japanese radar Volume 1からの抜粋
特に注目すべきは、大阪大学の岡部教授の元で学んだ伊藤大佐の指揮下で行われたマグネトロン研究である。1941年の秋には、海軍が艦船搭載用索敵装置に使用することができる10センチメートルのマグネトロンを生産していたことは、アメリカの情報将校やレーダーエンジニアにとっては少々驚きかもしれない。したがって、当時の彼らのマイクロ波研究は、われわれの研究からわずか数ヶ月遅れていただけであった。しかし、その後の数年間において、アメリカの開発は日本を引き離していった。日本の最高の成果は、10センチメートルでピーク出力が約5〜6キロワットの磁電管を生産することであった

調査された日本製のレーダー装置は、後のアメリカの装置に比べて、電気的にも機械的にも粗末なものであると思われた。彼らがそれらを鹵獲していたとしても、現代の火器管制やGCIレーダーを正常に複製できたかどうかは疑わしいです。実際、彼らはB-24とB-29から比較的良好な私たちのIFFセットとAPQ-13のサンプルを手に入れていたが、一般的にそれらを完全に運用することはできなかったと述べている。日本海軍技術研究の責任者である名和提督は、彼らがアメリカのレーダー設計と比較して最も敗北した点は、高出力のセンチメートル波送信管を製造できなかったことだと述べている。この状況についてのほとんどの研究者は同意するでしょう。
日本の軍事指導者たちには、陸軍と海軍の研究、開発、生産、運用を完全に分離することを長い間主張した者たちに対して非常に厳しい批判を向ける必要がある。日本の科学者の数は、アメリカよりもはるかに限られており、当初から不十分でした。それなのに、二つの部局内で多くのプロジェクトが時には並行して秘密裏に研究されることを要求することで、その効果をほぼ半減させることを主張することは、愚かさの頂点でした。

我が国の軍事指導者と民間指導者が、陸軍と海軍のための共通の研究においてすべての才能を結集するための先見の明と広い心を持っていたことは、大いに評価されるべきです。我が国の物理学者、数学者、エンジニアの電子研究と装置開発の技術に敬意を表します。私たちは、火器管制や地上制御迎撃において非常に正確なレーダーを構想し、製造することができました。これらは攻撃においては必須ではありませんでしたが、日本の科学者によって開発されれば、ガダルカナルから東京までの3年間、艦船と地上部隊を防衛する上で非常に役立ったでしょう。





参考文献
仮称二号電波探信儀二型の取扱説明書 昭和17年11月26日 海軍技術研究所電気研究部
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
旧日本海軍の電波兵器開発過程を事例とした第2次大戦期日本の科学技術動員に関する分析29 表25)仮称二號電波探信儀二型の改良過程(1944年4月時点まで) 河村豊
A short survey of japanese radar Volume 1


2号電波探信儀2 型 改4のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について

米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、TYPE22とある。
日本側での制式呼称は、2号電波探信儀2 型 改2、改3、改4、改5(日立製造分)の4種があるが、本機のブロックダイヤグラムは2号電波探信儀2 型 改4である。
開発及び製造会社は日本無線株式会社である。

a-1

ブロックダイヤグラムでは、次の12つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit Receiver Range Unit Indicator for waring synchronizer  Transmitter  modulator 
Control box receiving parts;  constant voltage rectifier constant voltage apparatus indicating parts; rectifier control box Transmitter parts


空中線(Antenna Unit)
電磁ホーン(口径400mm、アンテナ利得13db)、円形導波管(口径75mm)
b-1

b-2


受信機(Receiver Unit)

c-1

 受信機の調整は前面にある「導波管整合」と「波長整合」と云う2つのつまみと高周波増幅調整器によって行われる。

c-2
 
受信機: スーパーヘテロダイン方式、第1検波;鉱石検波器、局部発振M-60、中間周波増幅5段(UZ-6302 x5)中間周波数14.5Mhz帯域幅2Mhz、第2検波(UY-76)、低周波増幅2段(UZ-6302 x2)
使用真空管の事例を以下に示す。
M-60マグネトロン、UZ-6302、UY-76

c-3
 
受信機の内部のマグネトロン実装事例(このモデルは再生検波方式と思われる。
なお、受信用マグネトロンM60-Mと読める。)

c-4
 
受信機の配線図

c-5
 
回路の特徴:鉱石検波器から取り出した直後に「Quarz Retarder  (水晶棒(リターダ))」とあるが、これが所謂ドイツのウルツブルグで使用されていた「レーボックス」という遅延回路で、中間周波増幅部の入力側に挿入して自己送信波を受信し、水晶棒の長さを適当に選べば例えば5km毎に二次波、三次波等々を表示し得、目盛の役も果たし測距上も有効なことが判り非常に重宝且つ不可欠のものになっていった。このように自己送信波を受信し、ある距離をブラウン管上に映し出して良否を確かめる「自己鑑査」の機能は大変有効であった。
受信機で使用しているUZ-6302は、戦前にテレビ受像機の映像増幅菅として開発された広帯域増幅菅であることから、同期発振器や指示機などで使用している真空管が新型管のH管に変更となっても、終戦まで日本無線では受信機にこのUZ-6302が使用されつづけられた。

受信機の問題点とその解決方法について
「日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉」氏からの抜粋
22号電探の不安定の原因をつきつめて行くと、キーポイントは受信機の不安定の問題であり、更に的をしぼれば受信機の第一検波が磁電管M-60を使ったオートダイン方式であることであった。このオートダイン方式では磁電管M-60を局部発振器として入力電波周波数f0、即ち送信電波周波数と中間周波数f1との差の周波数f0±f1の発信を行わせる役目と、その周波数に於て非直線性を具えた第一検波器としての役目とを兼ね具えなければならないようになっている。そしてこの調整は受信機の前面にある「導波管整合」と「波長整合」と云う2つのつまみによって行われるようになっていたので上記の2つの要求に合致したポイントを探し出すことは天才的な手腕を必要とし、又エコーが出ても電圧の変動、温度変化等により忽ち(たちまち)消えて再調整を要すると云うものであった。云うなれば二兎を追う仕組みになっていた。
そこで「一目的一装置の原則」からM-60にはf0±f1を安定的に発振せしめる局部発振器の役目を与え、検波は鉱石検波器に委ねるべきと云う当然の結果に到達する。「鉱石検波器は焼けるのではないか」との論もあったが22号に於ては当時送受信別個のラッパを使っていたのでこの心配はなかった。又鉱石検波器では変換利得が落ちると云う意見もあったが、オートダイン方式の受信機より得られるエコーを見ているとそれは非常に不安定であり20~40デシベル位の変化は常に起こって居り、一方鉱石検波器は熱雑音が少ないので中間周波増幅部で十分の利得が得られることが判った。又鉱石検波器を兵器に採りいれることの反論も予想されたが、その時点では既に電波探知機に七欧製のものが採用されていたので問題はなかった。
このように考える時英国のロッテルダム・レーダーはマグネトロンを局部発振器に使い鉱石検波を行っているという情報のあったことが思い出された。
敵も同じことを考えていたのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これより以前から「菊池正士技師の下で10センチ・スーパーのバラック・セットが出来ている」と聞いていたが何故かこれを採用する気運が電波研究部にはなかった。これは(1)鉱石検波器は兵器としては不安定、(2)熱に弱いと云うことであって、よく調べて見ると実験した結果ではなく単なる憶測であることが解った。一種の鉱石アレルギーである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
M-60の局部発振電波はオートダインの場合と同様に横方向から導波管の中に入れたがその先端はダブレットとした。このようにして出来たスーパー受信機は「導波管整合」と「波長整合」の両つまみの調整共にブロードで安定していた。そしてこの調整で送信菅L,M,Nの全波長をカバーすることが出来た。

※M-60の発振は現用のモードより一段電圧及び界磁の高いところにあるモードの方が安定らしいと云われていたが之を確認し局部発振管として安定な発振を行うポイントを実験的につかむ。
※送信マグネトロンの出来によって波長が散布していたので、L、M、Nの3種類に仕分けられていた。
送信マグネトロンM-312の” L、M、N”のマーク事例

c-6
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
かくして日本海軍のマイクロ波レーダーは本格的な研究を始めて丸3年の歳月を経て漸く完成を見たのである。
電波研究部所の名和中将は伊藤大佐に対して「伊藤君!これで君は銃殺をまぬがれたな!」
それは極めて強い語気であったと云う。


同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び見張用指示機(Indicator for waring)について

A short survey of japanese radar Volume 3に22号の各種指示機の操作方法が具体的に記載される文書があった。
また、Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japanにこれに関連した技術資料があったので、この2点の資料をもとに、この関連機能(同期発振機、測距儀、見張用指示機)に関する技術的な検討を行う。

A short survey of japanese radar Volume 3からの抜粋
ディスプレイは2本のA型ブラウン管を使用する。「見張用指示機」と呼ばれる1本のブラウン管は、60kmまでのすべてのターゲットエコーを表示し、5kmごとに距離目盛が表示される。測距調整用クランクを回すと、3マイクロ秒幅の距離パルスが移動する。2番目のスコープ(測距儀担当オペレーター用)は、測距調整用クランクで選択された距離の約1000mを拡大表示する。スコープの前には拡大鏡があり、5インチブラウン管に相当する大きさになっている。目標物の輝線の先端がスコープに刻まれた垂直線とちょうど重なるようにセットすると、真の測距距離がダイアルで読み取れる。
22号セットの詳細な回路図は付録IIに含まれている。
22号セットのいく分か簡略化されたバージョンである改3は、潜水艦の艦橋内に設置されている。下の写真の1つに示されているように、並べて取り付けられた2つのホーンが使用されている。表示は75 mmの単一のスコープでA型のものである。潜水艦からの測定距離は戦艦に対して約10 kmである。

Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946からの抜粋
音叉と、発振器と緩衝器として使用される2つのRH-2真空管は、2.5Khzの周波数の正弦波を同期回路、掃引回路、および測距装置の位相調整回路に供給するためのものでした。
同期回路は変調器を制御するためのマイナス120ボルトのパルスを正弦波から生成した。
掃引回路は、指示機用掃引電圧と30Khzの電子距離目盛を生成した。
音叉型発振器の正弦波出力も位相調整回路で矩形波に変換し、ブラウン管の輝点パルスとして使用された。

Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan の資料には、2号電波探信儀2型改4の同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び索敵用(見張用)指示機(Indicator for waring)に関する回路図が何故か提供されていないので、2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)の同機能部の回路図を参考のため提示する。
なお、改3は潜水艦搭載のため機器をコンパクト化しており指示機と同期発振機は同一機器内に収容されている。

d-0

同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び索敵用(見張用)指示機(Indicator for waring)を構成する新型の真空管であるH管を参考のため提示する。

d-1


同期発振機(synchronizer)
d-2
(註)用語解説
Sat.Amp (※ Saturation Amplification → 飽和増幅)増幅菅のバイアスを零バイアスとさせ、中心部分だけが増幅することにより、入力が正弦波であれば、出力は矩形波になるように歪んだ波形をわざと作り出す回路技術のこと。

同期信号用発振部
RH-2(sine wa osc) → RH-2
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japanの資料のとおり、音叉と、発振器と緩衝器として使用される2つのRH-2真空管は、2.5Khzの周波数の正弦波を生成する。この正弦波を同期信号として、同期回路、掃引回路、および測距装置の位相調整回路へ供給する。
日本測定器株式会社製音叉(SB型音叉発振器)の事例

d-3
 

送信同期パルス生成部
RH-2 → RH-2(sat.amp)→ RH-2 → R H-2
回路図がないので2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)の回路図を参考とする。
緩衝増幅→飽和増幅(正弦波から矩形波へ変換)→RH-2×2(パラレル増幅)→微分回路によるパルス波生成(資料では-120V生成とある)

掃引波生成部
RH-2 → RH-2(sat.amp)→ RH-2(sat.amp)→ RH-2(sat.amp)→ RH-2(saw teeth gen.)
とあることから、正弦波緩衝増幅→飽和増幅3段→のこぎり波生成(積分回路)で索敵用(見張用)指示機のブラウン管の水平軸に「のこぎり波」を印加する。

目盛発生部
RH-4(Damping OSC) → RH-2→ RH-2→ RH4→Time Scale
Damping OSCとあるのは減衰振動回路のことで、コンデンサーに充電された電荷が火花間隙を通して充電する場合に生じる減衰電気振動を利用するものと無線工学ハンドブックには記載されているが、とはいっても出典事例はなんと大昔の火花発振器である。
これでは動作を説明できませんが、基本的には同期用の2500Hzの正弦波を起電力として減衰振動回路を起こすことで高調波成分が発生する。
この高調波成分の中で30Khz(12逓倍)を同調させて取出す仕組みのようである。
この30Khzは索敵用(見張用)指示機のブラウン管の垂直軸の5km単位の電子マーカー(目盛)として表示するためのものである。
RH-4(Damping OSC)以降のステージは機能が示されてないので正確なことは不明であるが、30Khzの正弦波を飽和増幅して矩形波に変換し、微分回路を通してパルス化したものをプレート検波して正パルスだけ取り出したものが、電子マーカー(目盛)となる。

参考事例 海軍13号の指示器の目盛発生回路(2球の回路構成)
真空管V4の陽極側より変圧器を経て、適当なる衝撃波となりて、7.5kc減衰振動回路の同期し、陽極側にて増幅され変圧器T6にて、微分以て、次の真空管V7にて陽極側より負の衝撃波として取出されブラウン管のY軸に加える。
(註 変圧器T6(パルストランス)はLR直列による微分回路を構成し、V7はプレート検波による電子マーカーを整形する。)

測距装置(測距儀)(Range Unit)

e-1
(註)正面右下が位相調整器であるが、回転用クランクハンドルと距離メーターが見える。
本位相調整器には、ゴニオメーターが使用されているようだ。

e-2
 
RH2→Phase Shifter(位相調整器)
同期発振機からの同期信号である正弦波を増幅して、位相調整器にかける回路である。
これは、同期用正弦波が2500Hzであることから波長の1/2の60kmが測定距離にあたるが、位相で考えると180度で60kmということである。
送信機からパルス送信した反射パルスがブラウン管の半分の位置(測定距離30km)にあるとすれば、測距装置のこの位相調整器で位相をずらした形でブラウン管の掃引用の「のこぎり波」を与えるような仕組みであることから、位相調整器の位相が0度の場合、測距装置のブラウン管は索敵用(見張用)指示機と同じ30kmの位置に反射パルスを観測することになる。
今度は、位相調整器の位相を90度にした場合、反射パルスはブラウン管の開始位置0kmと一致する。
このように、位相調整器の位相の変化分を測定距離に換算できる仕組みがあれば、正確な距離を測定することができる。
位相調整器には、ゴニオメーターやCRによるツーロン回路などがある。

位相調整器の拡大機能について
A short survey of japanese radar Volume 3からの抜粋では、【測距調整用クランクで選択された距離の約1000mを拡大表示する。】とあるが、この意味は位相調整器の位相範囲が角度180度で測定距離60kmとなるものが、減速用の歯車機構により角度180度で測定距離1kmに拡大する仕組みがあることを意味する。
したがって360度1回転で測定距離2kmとなるので、位相調整器のクランクを30回ほど回転させれば、測定距離60kmとなるような仕組みと考えればいいのだろう。
このバーニア機構により1度の測定距離は5.56mとなる。
測距装置の読取り精度を仮に±2度とすれば、測定誤差は±11.12mとなる。
ただし、実際の公式資料での22号の測距の測定精度500mとあるので、実際の精度は±9度のようだが、この実際の精度であれば射撃管制レーダーとしての運用は困難だったということのようだ。
この精度不良の原因は、アンテナに電磁ホーンを採用していることに大きな要因があるように思われるが、やはりセンチ波を使用するのであればパラボラアンテナを採用することが原則であろう。

参考資料 22号射撃管制レーダーの性能(実測データ)

e-2-1-22号射撃管制レーダーの性能
※実測データから見る限り、測距装置の精度は合格だが、方位角の精度が悪すぎたのではないだろうか。

以降の回路では、のこぎり波生成部、Return path eliminating signal (リターンパス除去信号)(※本命名の正確な意味は不明であるが、機能面から考えると明らかに選択信号の機能と思われる)、帰線消去信号生成部の3つの機能がある。

のこぎり波生成部
RH-2(sat.amp→RH-2→PH-1
矩形波からのこぎり波を生成するためには、下図のとおり正弦波からRH-2で飽和増幅し矩形波を作り、その出力で微分回路を通し、次段RH-2の出力で積分回路を通し、最後の電力増幅段PH-1で増幅してブラウン管の水平軸に「のこぎり波」を印加する。

同時期に開発された米軍のSCR-270の測距装置のブロクダイヤグラムを示す。
(同期信号→位相調整器→波形整形→のこぎり波整形→ブラウン管の水平軸注入)

e-3


Return path eliminating signal生成部(選択信号生成部)
RH-2(sat.amp→RH-2(sat.amp)
正弦波からRH-2で飽和増幅し矩形波を作り、その出力で微分回路を通してパルス波を生成し、次段RH-2でCクラス動作することにより正パルス成分のみにする。
このパルスは位相調整器により位相が変化することから、選択信号としてブラウン管のグリッドに印加すると輝度変調して、該当位相位置で輝点として発光する。

帰線消去信号生成部
RH-2(sat.amp)→RH-2→RH-2(sat.amp)→RH-4→RH-4
22号改3の指示機の回路図の中で帰線消去回路を提示しているが、基本的にはのこぎり波を再作成したものを微分することで帰線消去信号を作り、ブラウン管のグリッド若しくはカソードに印加してのこぎり波の復帰時間分をブラウン管の表示から隠蔽する処理であり、帰線消去のため何故こんな複雑な構成が必要なのかわからない。

参考資料(アマチュアのオシロスコープ技術からの抜粋から帰線消去信号の作り方)

e-3-1

測距装置の操作・画面イメージ
e-4-22号動作説明-999

 


索敵用(見張用)指示機(Indicator for waring)

f-1


f-2

基本的には単なるオシロスープの機能だけであり、焦点、輝度、上下、左右の基本的なブラウン管の調整機能があるだけである。
受信信号はPH-1の1段増幅を行い、ブラウン管の垂直軸に印加する。
同期発振機で生成された「のこぎり波」は、RH-4の1段増幅でブラウン管の水平軸へ印加するとともに、距離目盛として使用する電子マーカーも水平軸のもう一方の偏向版に印加する。
更に、測距装置で生成された選択信号は、ブラウン管のグリッドに印加し輝度変調することにより、測距装置で位相調整器を動作する変化分を索敵用(見張用)指示器に輝点として表示する。
特に反射波が複数存在する場合、どの目標を測定するか輝点で表示することができる。

索敵用(見張用)指示機の画面イメージ

f-3-22号動作説明-03

g-1


送信機(Transmitter Unit)
h-1

M-312マグネトロンの事例

h-2
 
送信機の回路図

h-3

マグネトロンの構造と動作  出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マグネトロンは他の熱電子管と同様、ヒーターにより加熱される陰極(カソード)と、加熱されない陽極(アノード)からなる。
陰極は管球の空胴の中央に配置され、陽極はこの陰極を囲むように配置されるとともに、陰極に対して正の高電圧が印加されている。陰極をヒーターで加熱すると熱電子が放出され、陽極と陰極間の電界により陽極方向へ加速される。このとき、管球の軸方向に永久磁石などで強力な磁場が形成されており、電子はフレミングの法則に従い進行方向と直角な方向に力を受けて曲げられる。
この作用により、電子は陰極と陽極の間にある作用空間と呼ばれる場所で、サイクロイド曲線を描いて振動しながら周回運動を始める。陽極には規則的に形成された複数の空洞(キャビティ、cavity)があり、空洞の開口部をサイクロイド振動している電子が通過すると、空洞の共振周波数で空洞と電子が共振を起こし、マイクロ波が発生する。こうして空洞に発生したマイクロ波を、結合回路を介して出力回路へ効率よく伝播させることで、マグネトロンの外へと導き出し、各種の利用が可能になる。

送信機の送信用マグネトロの実装事例

h-4

 
動作説明
送信部は水冷式マグネトロンM-312を用いており、その出力が導波管でホーンアンテナに導かれる。
変調はマグネトロンのフィラメント回路に直列に接続されたカレントトランスに変調部からの出力を与えることで行われる。マグネトロンの磁石は外部電磁石である。マグネトロンの陽極と電磁石を冷却するために水冷ポンプから冷却水が供給されている。マグネトロンの電源にはアノード側に直流7,000Vが与えられ、カソード側に変調信号として5,500Vの負の変調パルスが重畳される。
マグネトロンM-312の単体性能は以下の通りである。
・フィラメント 10V/19.5A(195Watt)
・フィラメントエミッション 2A
・アノード電圧 11,000V
・磁界 700ガウス(外付け電磁石)
・アンテナ出力 尖頭2KWatt
・許容アノード連続損失 500Watt
・発振波長 9.875±0.5%センチメートル(3037MHz)

下図のように、陰極(カソード)にパルスを印加することにより、マイクロ波の送信パルスを生成することができる。

h-5



変調機(modulator)

i-1
 
P-112、P-220、S-182

i-2

 
変調機の回路図

i-3
 
疑問点
2段目の増幅菅P220のG1とG2の接続が逆ではないのか。更にG3の動作が説明できない。
以上の疑問を考えてネット検索していたら、樋口氏の「MY HOMEPAGE」に変調機の修正された回路図が掲載されていたので、紹介します。

i-4

動作説明
真空管構成は、P112→P210→S182×2(並列)のとおりである。
同期発振機から-120Vの負の送信同期パルスの入力を基本としている。
ここで重要なのは正パルスと負パルスの関係であるが、受動素子のコイルや能動素子である真空管(グリッドとプレートの関係)では入力に対して出力は180度位相が反転するため、このことを考慮して回路設計しなければならない。
一方、変調機は送信同期パルスが入力した時点のみ動作し、それ以外は待機状態にする必要があるのでこれら整合性を計った回路設計が必要となる。
初段のP112では、負パルスが入力され、出力は正パルスとなる。
次段のP220(V404)の回路設計は少しトリッキーな回路が採用されており、何故このような回路構成にするかの理由は、正パルス入力を正パルス出力させるための苦肉の策に思える。
簡単に説明すると、P220はパルスがない時、G2には-500Vが印加されているためカットオフされて動作はしない。正パルスが入力されるとカットオフから開放されて動作状態(ゲート機能)となりプレート側には負パルスが出力されるが、T401のトランスを介してパルスは位相反転して正パルスとなりG2に供給される。
ただし、入力の正パルスが終了すると、G1には-500Vがかかり、再びカットオフとなる。
なお、G3の明確な動作は不明である。
次段のS182の入力はP220のG2の正パルスから取り出すことになる。
同様にS182のG1には-700Vがかかっており、当然カットオフされて動作は停止状態であるが、正パルスの入力により増幅動作を行うこととなる。


【2号電波探信儀2 型に関するコメント】
・使用周波数は3Ghz(波長10cm)を採用しているが、センチ波レーダーの開発着手については英米と遜色がなかった。
・送信菅及び受信用局部発振部には磁電管(マグネトロン)を使用している。
・パルス繰返し周波数は、2,500Hzを使用していることから、理論的な測定最大距離は60Kmとなる。※((電波の波長÷パルス繰返し周波数)× 1/2 )
・メートル波の見張用レーダーであれば、通常は測的用(見張用)指示機のみ用意するが、センチ波を利用してもメートル波同様に、アンテナの物理的な方位角をそのまま利用することにより方位角用指示機は省略されている。このため、方位角の誤差精度を更に改善することができず、22号を射撃管制レーダーとして使用することは困難であった。
・受信機については、開発初期から超再生検波や再生検波方式が長期間にわたり採用されており動作の不安定な状態が問題視されていたが、昭和19年7月以降スーパーヘテロダイン方式が実用化し、やっとまともなレーダーの安定運用が可能となった。
・シングルスーパーヘテロダインからダブルスーパーヘテロダイン方式などの更なる受信向上の努力が見られないのは残念である。
・送信部の機能については、初期の2号電波探信儀2 型の原型機から殆ど改善が見られず、送信パワーの向上する努力がみられない。特に送信用マグネトロンの出力は米国を比較しても貧弱のままだった。
・アンテナ系については、送信用と受信用に別々のホーンアンテナが採用されたが、昭和19年中期からパラボラアンテナ化、大型の角型ホーンや円形導波管から矩形導波管の採用、送受信共用アンテナへの改善努力が見られたが、何れも搭載時機が間に合わなかったり、搭載すべき艦艇が喪失した以降の時期となり実戦配備には至らなかった。
・今次大戦では日本海軍は大型艦艇から小型の海防艦に至るまで殆どの艦艇に22号と13号を装備したことは特筆に値する。
・最後に、A short survey of japanese radar Volume 1の下記の文面を紹介する。
e.製造されたレーダー。日本無線の工場は注意深く 2 つの部分に分けられており、陸軍用の機器を製造する部門と海軍用の部門があった。一つのセクションで働くエンジニアは他のセクションに入ることは許されていませんでした。また、彼らのエンジニアは、艦船や航空機、地上の位置に設置された機器のテストを製造後に観察することも許されていませんでした。この方針は、会社の関係者から強く批判された。
→ これが軍の実態であり、海軍技術研究所の技術士官といっても所詮官僚組織であり、レーダーの技術的問題点をメーカー技術者と共有することにより問題点を解決するといった考えよりも、陸軍は陸軍のみに、海軍は海軍のみの権益とか縄張りなどの意識が大変強かったということであろう。
このことから、戦後に彼らが如何なる発言してもまともに信じることはできないが、敗戦直後に混沌とした世の中で占領軍に語った内容を取り纏めた「A short survey of japanese radar」のほうが断然に価値が高いものに思われる。


【疑問点】
①.続日本無線史<第一部> 昭和47年2月発行からの抜粋
d日本電気株式会社(住友通信工業株式会社)
Ⅵ生産機種 戦中
海軍関係
M-22号、M-130号、M-213号指示器 電波探信儀用指示器各種
R金物、β金物 電波探信儀用精密測距器

続日本無線史では上記の記載があるが、この中で、日本電気株式会社ではM-22号指示器、R金物、β金物電波探信儀用精密測は、2号電波探信儀2型(22号)のための指示機や測距装置としての生産品目なのだろうか。
22号のブロックダイヤグラムを見ると、東芝や日本電気のものと比較すると指示機の機能に関する記述が極端に少なく、ブラウン管に至っては規格も記載されていない。
このことから、日本無線としては指示機などを外注していたのではないかとの考えに至ったが、真実は如何なるものであったのだろうか。

②2号電波探信儀2 型改5に関する公式資料を未だかって見たことはないのだが、本当に存在するのだろうか。

③索敵用(見張用)指示機に対する帰線消去機能がどこにも存在しない。
2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)は、潜水艦という狭隘なエリアでの配備を考慮して艦船用の2号電波探信儀2型改4とは根本的な異なる設計・製造がおこなわれている。
例えば、基本的なパルス繰返周波数も2500Hzから600Hzに変更されており、送信管制機と受信管制機と別々なものが管制機として一体化されている。
更に、2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)の索敵用(見張用)指示機の回路図を見ると、指示機の中に同期発振機の機能が同居している。
しかしながら、2号電波探信儀2型改4のブロックダイヤグラムの索敵用(見張用)指示機と同期発振機を見ても、帰線消去機能の記載はない。
このため、同期発振機の機能の中でただ記載漏れがあったと云えば簡単な話であるが、同系列の32号のブロックダイヤグラムを見ると、測距装置内にある帰線消去回路がB1(索敵用指示用ブラウン管)、B2、B3と共通に帰線消去信号を利用しているように記載されている。
B1(索敵用指示用ブラウン管)は位相調整器を通さないため、どう考えてもこの状態の帰線消去信号は利用できない。之こそ誤記であるように思われる。

j-1

 




参考文献
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉 昭和54年11月 原書房
A short survey of japanese radar Volume 1 1945年11月20日
A short survey of japanese radar Volume 3 1945年11月20日
真空管物語 http://kawoyama.la.coocan.jp/tubestory.htm
無線工学ハンドブック 昭和29年11月 社団法人日本電波協会
アマチュアのオシロスコープ技術 榎並利三郎 昭和44年6月 オーム社
My Home Page(T.Higuchi)   http://home.catv.ne.jp/ss/taihoh/
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


2号電波探信儀2 型 改3のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について

米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、TYPE22とあるが、2号電波探信儀2 型 改4のブロックダイヤグラムしか作成されていない。
このため、米軍に提出された書式に則り2号電波探信儀2 型 改3のブロックダイヤグラムを作成した。
開発及び製造会社は日本無線株式会社である。
a-1

なお、2号電波探信儀2 型 改3とは、潜水艦用で、下図の22号改三(UF-223)のことである。
 a-2
 a-3


a-4

ブロックダイヤグラムでは、次の6つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit Receiver Indicator(Synchronizerを含む) Transmitter  Modulator  Control Box Rreceiving & Transmitter


空中線(Antenna Unit)
電磁ホーン(口径400mm、アンテナ利得13db)、円形導波管(口径75mm)
 b-1


受信機(Receiver Unit)
2号電波探信儀2 型 改4と同一仕様のため説明は省略する。

送信機(Transmitter Unit)
2号電波探信儀2 型 改4と同一仕様のため説明は省略する。

変調機(modulator)
2号電波探信儀2 型 改4と同一仕様のため説明は省略する。

指示機(Indicator & Synchronizer)
水上艦の2号電波探信儀2 型原型機では、パルス繰返し周波数は3,000Hz(又は6,000Hz)を採用している。
従って、理論的な測定可能距離は50km(又は25km)となる。
水上艦の2号電波探信儀2 型 改4では、パルス繰返し周波数は2,500Hzを採用しており、理論的な測定可能距離は60kmに拡大している。
一方、潜水艦用の水上艦の2号電波探信儀2 型 改3では、パルス繰返し周波数は600Hzを採用しており、理論的な測定可能距離は250kmとなるが、水上見張専用のレーダーにこのような長射程のレーダーは本来不適格である。
理由は簡単で地球は丸いから、そんなに長射程ではセンチ波レーダーは水上艦を探知することはできない。
パルス繰返し周波数を500から600Hzを設定する本来の目的は、3式1号電波探信儀3型(13号)のような対空用レーダーの必要条件であるが、当時の技術では、2号電波探信儀2 型などのセンチ波レーダーでは航空機などの小さな目標物の探知はできなかった。
したがって、2号電波探信儀2 型 改3では、パルス繰返し周波数は600Hzを採用した目的は、当然海軍の要求事項であるにしても目的が不明であるが、この600Hzの採用によって、2号電波探信儀2 型 改3の指示機(同期制御器を含む)は潜水艦専用の独自開発とならざるを得なかった。
指示機の外形も2号電波探信儀2 型 改4が縦型のものであるが、2号電波探信儀2 型 改3は横型のものが採用されており、潜水艦内のコンパクトな収納を考慮したものと思われる。
また、本指示機である「乙一型」は、2号電波探信儀2 型原型機の指示機の設計コンセプトとは全く異なり、従来の開発組織の延長ではなく、全く別組織で開発が行われたようだ。
c-1

 
指示機(Indicator & Synchronizer)の全体のブロックダイヤグラム
c-2

指示機(Indicator & Synchronizer)の回路図
 c-3


(1)同期信号生成
音叉発振器 → V505
音叉発振器による600Hzの正弦波をV505の真空管にて発生させる。
 c-4


(2)のこぎり波生成
V506 → V507 → V508
同期信号600Hzの正弦波を入力として、V506の出力側でフィルタ―回路により矩形波に変換する。本来なら、飽和増幅するだけで複雑なフィルター回路は不要である。
V507増幅段の出力側でLRによる積分回路により矩形波から「のこぎり波」に変換する。V508増幅段の出力の出力トランスで「のこぎり波」を上下波に分割して、ブラウン管の水平軸の両偏向板に印加する。所謂プッシュプル接続をおこなっており、単純なシングルエンドに比較してブラウン管の直線性が向上する。
 c-5

ただし、V507とV508をブリッジに接続して奇妙な回路記号のものに接続しているがなんの動作を目的にしているか不明である。(たぶんのこぎり波の直線性向上対策と思われるが・・)
c-6

 

(3)帰線消去信号生成
V514 → V515
V508の入力である「のこぎり波」を元にV514増幅段の出力側から微分回路を通すことで帰線消去信号を生成する。帰線消去信号は負パルスであることから観測用ブラウン管のグリッドに印加することにより、帰線のみ消去できる。
 c-7


(4)同期用送信パルス生成
V513 → V512 → V511 → V510、V509(シリアル接続)
同期信号600Hzの正弦波を入力として、この正弦波をV513、V512、V511の3段の電圧増幅段を通し、更にV510、V509(シリアル接続)よる電力増幅後で微分回路を通し、同期用送信パルスを生成する。
なお、外部接続用の出力が陽極から取っている関係上、ハイインピーダンスとなっている。
何故このような多段の増幅段を必要としたのかというと、改3と改4の変調機の仕様はほぼ同一なことから、同期用送信パルスは変調機を制御するためのマイナス120ボルトのパルスを生成する必要がったのが理由のようである。
 c-8


(5)距離目盛(電子マーカー)
2号電波探信儀2型改3については、本機能を付与していない。

指示機の画面イメージ
 c-9


送受信管制機(Control Box Rreceiving & Transmitter)
2号電波探信儀2 型改4では、送信管制機と受信管制機に分かれているが、2号電波探信儀2 型改3では、潜水艦という狭隘施設を考慮して、送受信管制機として統合させている。
この銘板を拡大表示してみると、「仮称2号電波探信儀2 型改3・送受信管制機」昭和19年5月とあるが、終戦まで2号電波探信儀2は「仮称」のままで、制式採用されることはなかったのだろうか。
 d-1



アンテナ送受信共用システム(単一導波管方式)の開発

e-1


センチ波レーダーを開発して中で最大の課題が残ったのは、アンテナの問題である。
艦橋上に大きなパラボラアンテナを送信用と受信用の2つ用意して回転させるような場所を確保することができず、小型の電磁フォーン型アンテナを設置するに留まっていた。
このため、アンテナ利得、方位角や測距測定での測定精度をこれ以上向上することができなかった。
また、メートル波レーダーについては、日米開戦直後のフィリピン占領により米軍のSCR-270を鹵獲したことにより、アンテナの送受共用技術として放電管を利用していることが分かり、容易に国産化が可能となった。
しかしながら、センチ波に適用する技術開発ができなかったが、昭和20年になって、単一導波管方式が実用化されことにより、米国とは異なった独自技術でこの問題をブレークスルーすることができた。
e-2


Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, (1945-1946) E-20
日本R.F.伝送路、導波管、導波管継手、誘電体材料より抜粋
潜水艦で使用された2号電波探信儀2型改3レーダーの分波器方式は、特に興味深いものである。この機器は、1本のホーンからなるアンテナがある。 
図4は、この分波器のスケッチである。
送信機とアンテナの間の分枝パイプの上部に、円形導波管に45°の位相シフト配管が配置されている。 この位相シフト配管は、両端が円形で、中央が楕円形になっている。 送信機から位相シフト部までの間の導波管には垂直偏波が存在する。分枝パイプから受信機までの導波管は水平偏波である。 
送信されたエネルギーは、位相シフト配管で45°円偏波にシフトされ、放射される。 円偏波であった受信エネルギーは、水平偏波に45°シフトされ、矩形の配管から受信機へと受け渡される。 このように、ガス放電管やスパークギャップを使用することなく、分波機能を実現している。
 e-3


ただし、昭和19年末になると本土空襲によるB-29の撃墜により搭載されたWestern Electric社製のAN/APQ13の解析を行っており、米国式の放電管による分波技術も入手しており、海軍では航空機搭載用51号の開発に応用している。
 e-4

なお、敗戦末期になると2号電波探信儀2型改3については、潜水艦搭載に限定せず、海防艦などの小型艦艇にも搭載されている。
e-5
 


【総合コメント】
・本指示機である「乙一型」は、2号電波探信儀2 型原型機の指示機の設計コンセプトとは全く異なり、従来の開発組織の延長ではなく、全く別組織で開発が行われたようだ。
このため、基本回路要件である飽和増幅やカソードフォローなどが採用されていないことにより回路効率を悪化させている。
・アンテナ送受信共用システム(単一導波管方式)の独自開発は評価に値するが、受信波を45°円偏波にシフトして、水平偏波に変換するための変換損失は50%以上となることから受信性能は相当悪化することになる。
このことから、米軍方式の放電管のほうが優れていることがわかる。
・パルス繰返し周波数を600Hzに設定した理由がわからない。
・同期発振器に音叉発振器を採用することにより、同期周波数の安定化を実現している。
音叉発振器については、航空機用の3式空6号無線電信機4型(H-6)にも搭載している。
・指示機の付属機能として一般的な距離目盛(電子マーカー)機能が本機では省略されている。




参考文献
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉 昭和54年11月 原書房
丸 2022年11月号 潮書房光人新社
Радиолокационная аппаратура WW II

A short survey of japanese radar(英文原本と和訳版PDF)

英文原本PDF

和訳版PDF
日本レーダー小史 第Ⅲ巻 【日本海軍のレーダー 製造及び計画された機器


本文へ


参考文献
A short survey of japanese radar Volume 1
A short survey of japanese radar Volume 2
A short survey of japanese radar Volume 3

日本で「レーダー」の用語が使用された起源についての考察(令和5年06月07日)

日本陸軍は、レーダーのことを「電波探知機」と総称し、個別では早期警戒レーダーを「電波警戒機」と、射撃管制レーダーを「電波標定機」と呼称している。
一方、日本海軍は、一般的なレーダーのこと「電波探信儀」と、敵レーダー波の傍受用受信機のみ「電波探知機」として呼称している。
戦後は、レーダーのことを一般的には「電波探知機」で呼ばれていたが、いつの間にか「レーダ」の用語が使用されるようになり、最後には用語統一で「レーダー」が正式用語となっている。
したがって、戦時中に敵国の秘密兵器である「レーダー」なる用語を日本では知る機会はなかったものと思われるが、下記の米軍報告書「A short survey of japanese radar VolumeⅠ」には、それを否定する論述がなされている。
なお、レーダー(Radar)という用語は一種の略語であり、英語のradio detecting and ranging(電波探知及び測距装置) からきている。
これはアメリカによる命名であり、当初イギリスでは、radio detector(電波探知機)及びradio locator(電波標定機)と呼んでいた。

A short survey of japanese radar VolumeⅠからの抜粋
日本人は、1936年にアメリカのジェネラル・エレクトリック社のC.W.ライス博士が提案したアイデアとは独立してドップラー検出の研究を行っていたと断言している。それはどうであろうと、日本のレーダー研究開発のエンジニアは皆、ライス博士の著作に精通している。
「レーダー」という言葉は、日本の論文には1944年末に初めて現れた。日本は、それがB-29に搭載されているPPIサーチタイプのセットを指すために使われていると思いこんでいた。彼らはレーダーの代わりに早期警戒セットを「ディテクター(探知機)」と呼び、探照灯や対空火器制御セットは「ロケーター(標定機)」として呼んでいる。
1940年までに、パルスレーダーのアイデアが強く浮上し、この技術の研究が開始されるようになった。その利点はすぐに明白になったため、その後の主な努力はこの方法の開発に注力された。

2点の課題の抽出
①【「レーダー」という言葉は、日本の論文には1944年末に初めて現れた。】
②【日本は、それがB-29に搭載されているPPIサーチタイプのセットを指すために使われていると思いこんでいた。彼らはレーダーの代わりに早期警戒セットを「ディテクター(探知機)」と呼び、探照灯や対空火器制御セットは「ロケーター(標定機)」として呼んでいる。】

課題
【「レーダー」という言葉は、日本の論文には1944年末に初めて現れた。】について

出展資料1:雲上より日本都市を狙ふ B29の電波暗視機? 電波科学( (昭和20年2月号) 
http://minouta17.livedoor.blog/archives/20559565.html
英米の電波暗視機
英国では早くからロッテルダム装置と称して、対独爆撃に際して偵察機が必ずこれを装着して先行している。
米国では英に少し遅れたが、最近得るところによれば例の本土空襲のB-29には各機にもこれを装備して来ているらしい。
写真で見ると主翼の胴体貫通部の下にお椀状のものが見えるが、これは明らかに空中線を貨した覆いでなければならない。
米国では一般に電波兵器のことをレイダーと呼ぶが、最近はレイダーに恰も電波暗視機特有の諸用とさえ解され勝ちである。
その性能が如何なるものか、深夜帝都に侵入するB-29が海中に投弾すること度々なるを見るとき、必ずしもその性能怖るべきものならざるを知ることが出来る。
第2図は伯林市街のロッテルダム実況図である。
これは各部分部分のロッテルダムによる写真を集め、平面図的に作ったもので、第3図はそれを幾分修正したものであろう。
孰れも独軍の手に落ちた英国の携行資料である。
第4図はロッテルダムの指示機を示す。
B-29の有するレイダーも概ねこのロッテルダムに依り想像可能のことと思うふ。

出展資料2
科学朝日 昭和20年4月号
動く目標や距離も測定「レーダー」の性能を英で発表
兵器 レーダーの詳細に関する記事が最近英国の専門雑誌に初めて発表された。雑誌は「ワイヤレス・フィールド」で、筆者は英国物理学研究所ラジオ部長R・L・スミスローズ博士である。この研究所は英国でレーダーの研究を最初に完成したとされているが、この秘密ラジオ・ロケーターは、今次大戦における最も重要な科学的成功とされている。これについて博士は次の如くいっている。
暗夜でも物が見えるレーダーは、人間的勇気と共に勝利の重要的な要素となりつつある。そして現在でも敵の艦船並びに航空機の奇襲攻撃などに対し大きな戦果を収めている。レーダーは暗黒の真っただ中に電波を送り、それが対象物から跳ね返り、反射する様相を記録する。目標物の運動乃至距離の測定は極めて正確で、レーダーのみによっても真の暗黒の中で完全に下方を照準することが可能な位である。
固定すると運動するとは問わず目標物の方向乃至位置を求めるために電波を使用し、目標物の電気特性の相違を利して媒体、隣接物乃至はその周囲のものから目標物を判別する。これがレーダーである。

a-2
 

【コメント】
【「レーダー」という言葉は、日本の論文には1944年末に初めて現れた。】の件に関しては、電波科学( (昭和20年2月号) 、科学朝日 昭和20年4月号と2点の雑誌しか確認できず、昭和19年(1944年)末に初めに公表された論文が如何なるものかは分からなかった。

無線と実験、電波科学や科学朝日などの一般の方を対象とした科学雑誌のことであるが、戦時中であることから厳しい検閲を想定するわりには、日本では自軍の秘密兵器は厳重な管理下に置くが、海外のドイツ、米国、英国などの軍事技術についてはノーガードで公表されている。
無線と実験(昭和17年12月号、昭和18年7月号)
フィリピンとシンガポールで鹵獲してレーダーを公表した。
なお、本誌のレーダーの表現は、radio detector(電波探知機)及びradio locator(電波標定機)である。
a-1

 

科学朝日(昭和20年4月号)
白黒の印刷で、総ページは25ページ、紙質も悪く戦争の終結が予感される。

a-3

 
目次をみても、米のP80噴流推進戦闘機(※日本では橘花相当品)、アメリカ陸軍の240ミリ榴弾砲、先尾翼型試作戦闘機XP55型「アセンダー」(※日本では震電相当品)、対日戦に備える敵米の予備士官学校の紹介など英米を逆に賞賛する内容になっており、検閲など全く無縁の反戦を意図した出版物と勘繰られても可笑しくない内容となっている。
それでも、科学朝日の表紙には健気にも年号には、2605と表記しているが、年号は「皇紀」ということだろう。

a-4
 

科学朝日(昭和20年4月号)のPDF版


②【日本は、それがB-29に搭載されているPPIサーチタイプのセットを指すために使われていると思いこんでいた。彼らはレーダーの代わりに早期警戒セットを「ディテクター(探知機)」と呼び、探照灯や対空火器制御セットは「ロケーター(標定機)」として呼んでいる。】

上記に関する根拠資料を以下に示す。
有末機関報第453号 日本ノ対空警戒組織ニ関スル件 質問書(昭20.11.22)
有末機関報第453号
主責任課 参本残務整理部第一部班 航本総務課
日本ノ対空警戒組織ニ関スル件
11月22日
連合国最高司令部発、陸海軍東京連絡委員長宛
日本ノ対空警戒組織ニ関スル附属質問書ニ対シ完全ナル回答ヲ昭和20年11月29日迄ニ当部ニ提出スベシ
依命
一、日本ノ対空警戒組織ニ依リ利用セラレタル情報源
1.敵ノ航空機、船舶、潜水艦ノ近接ヲ判定スル為早期ノ電波探知機(early warning radar)ノ他ニ如何ナル情報源ヲ利用セシヤ
【監視哨、音響判定、通信傍受、電波暗視機傍受(radar intercept)、I.F.F.傍受他】

16.早期警戒用電波暗視機ノ一操作所ガ電子的ニ妨害ヲ受ケアリ時又ハ妨害反射片ノ目標トナリアル時、早期警戒用電波暗視装置所ノ資スキ標準的走査規程ガ発セラレタルヤ
17.1式3型(MarkⅠModel3)1式2型(MarkⅠModel2)又ハ他ノ150メガサイクル早期警戒用電波暗視機ガ連合国I.F.F.ヨリノ通信ヲ受信シ得ルコトヲ認メタルコトアリヤ、コノ通信ヲ早期警戒用電波暗視機ノ限度ヲ広ク張ルタルム利用セシコトアリヤ

{軍務課註}
一.訳文中左ノ語就モ意味不明ナルニ付、目下陸運ヲ通シ照会中ナリ
I.F.F.、SOP、DFRadar
二.訳文中「電波暗視機トナシアル」ノ原文ノ(radar)ノ訳ナリ

25.日本ノ戦闘機指揮法ハ連合国ノ其レト如何ニ相違シアリヤ
P.P.I.法(計画位置標示器)ハ如何ニ発達セシヤ
(Plan Position Indicator)→ ※(Plain Position Indicator)の翻訳官の誤解か原本誤記
(計画位置標示器)    → ※(平面位置表示器→本来のPPIのこと)

【コメント】
{軍務課註}【.訳文中「電波暗視機トナシアル」ノ原文ノ(radar)ノ訳ナリ】とあるように、日本の軍部は、radarのことを電波暗視機として理解していたのは事実のようである。
ただし、early warning radarのことを早期ノ電波探知機との翻訳もあるが、日本側がとの程度「レーダー」という用語を理解していたのかは確かに疑問である。
それにしても、戦後のどさくさで「有末機関」なる輩による軍との癒着には辟易する。




参考文献
A short survey of japanese radar VolumeⅠ
アジア歴史資料センター 「自昭和20年10月17日 第229号 至昭和20年11月30日 第469号 有末機関報綴」 レファレンスコード C15010237300
アジア歴史資料センター 陸軍調査部質問書(其16)回答 空襲に対する日本本土の防備/11.陸海軍警報組織 12.日本の電波警戒機に対する連合軍の妨害の影響 レファレンスコードC15010644000
雲上より日本都市を狙ふ B29の電波暗視機? 電波科学( (昭和20年2月号) 
電波探知機 昭和20年10月 紀平 信
無線と実験 昭和17年12月号、昭和18年7月号

↑このページのトップヘ