NHK映像ニュース「女子挺身隊 兵器生産へ」をみて考えた事
令和4年2月1日、たまたま夕方NHKの広島ローカル番組をみていたら、広島陸軍被服支廠関連の番組だったように記憶していますが、添付の映像が一瞬だけ放送されました。
ネットで、NHKアーカイブスの戦争証言アーカイブスを確認すると出典元がニュース映像1944年第195号であることがわかった。
昭和19年初頭の無線兵器や電波兵器の製造方法の一端がよく分かる一次資料である。
日本ニュース 第195号
1944年(昭和19年)2月25日
女子挺身隊 兵器生産へ
https://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/jpnews/movie.cgi?das_id=D0001300323_00000&seg_number=002
この映像からシャーシ直付けの部品を結線するのではなく、シャーシと分離した独立したサブシャーシの部品に配線(結線)するとともに、大きな束を作ってまとめて配線するなどの合理化した配線方法が取られている。
このサブシャーシには、大型のオイルコンデンサー複数みられることから、大型の送信機(無線機か電波兵器用かなどの機種の特定はできません)の制御装置に使用されるように見受けられる。
複数のサブシャーシ群をメインの装置に装着し、今度はメインの装置とサブシャーシとの配線を行って、最終製品にする次第である。
当時の独、米、日本(海軍と陸軍)の配線(結線)方法を下記に示す。
ドイツ
典型的なドイツ軍用無線機で、真空管は同一のRV12P4000を使用、各ブロックで配線しブロックごとに配線するため抵抗器やコンデンサーの故障への修理は困難というか故障しないことが前提で設計されているようだ。
典型的なドイツ軍用無線機で、真空管は同一のRV12P4000を使用、各ブロックで配線しブロックごとに配線するため抵抗器やコンデンサーの故障への修理は困難というか故障しないことが前提で設計されているようだ。
ただし、真空管は消耗品であるので簡単に差換えできるように工夫されている。
米国
戦を通じ一貫した合理的な配線方法である。
戦を通じ一貫した合理的な配線方法である。
なお、太平洋戦線のため、下記の故障対策をほどこしている。
軍用無線機に記載されているMFPについて(令和2年10月01日)
米軍が2次大戦中南方戦線で使用する無線機にMFP(Moisture Failure Proof:湿気による性能劣化防止のために、真空管を除く全部品に薄いコーティングをしたもの)処理をして故障率を減じたことは知られている
日本(陸軍)
本来米国を手本とし、真空管も米国のライセンスをもとに製造しているので、配線方法もほぼ米国の方法と大戦を通じほぼ同様である。
日本(海軍)
配線方法については、ほぼ陸軍と同様である。
ただし、大戦末期になると東芝の1機種のみであるが、海軍の電波兵器2号電波探信儀1型の改良版では製造方法には革新となるブロック工法が採用されている。
「本機は総てブロック方式として組立てあるため故障点検等にはブロックを抽出して補用品筐内の接栓を接続して外部にて点検可能なる如くしてある。」
この本格的なブロック工法は軍用無線機器においては世界で初めての採用と思われるほど先進的な取り組みである。
このためブロックの背面部には本体装置との接合のための爪上の端子盤が用意されている。
このブロック工法により、製造もブロック単位で製造でき、試験もこのブロック単位で行うことができる。
しかも、艦上設置後の保守点検や故障時の対応も大変容易で、かつ保守用ブロック用品を用意しておけば故障ブロックを交換するだけで済むこととなる。
このようなブロック工法は米軍でも戦後のトランジスター型の無線機器でないと見ることはできない。
参考資料 電波兵器の生産状況
内閣情報局 昭和19年8月16日 写真週報 334号
結語
各国の配線方法から電子機器の生産技術の一端を見ることにより、戦時の日本のエレクトロニクス技術や生産技術が一方的に劣っていたという意見には必ずしも正しくない。
戦後の復興において、エレクトロニクス業界の目覚ましい発展の影には、戦時中の改良・改善の努力があったことを改めて認識する必要がある。
参考文献
NHKアーカイブス 日本ニュース 第195号
仮称三式二号電波探信儀一型指示装置関係取扱説明書案 海軍技術研究所 防衛省戦史資料室
「写真週報 334号」 アジア歴史資料センター、リファレンス番号:A06031092800